第13話
「えーっと、もしもし?聞こえる?」
口に出して言ってみる。
『聞こえてるよ!』
「あなたは、この剣なの?」
『あはは!違うよ!そんなわけ無いじゃん!その剣を介して会話してるだけ!』
そんなわけ無かったらしい。インテリジェンスウェポンでは無かったか。
「えっと、じゃああなたは何?っていうか誰?なんで剣を介して話しかけてきてるの?」
疑問文しかでてこない。
『えっとね、あなたは何、あなたは誰って言う質問の答えだけど、僕は人間だよ。そっちにどう翻訳されているかわからないけど』
察しの良い私には、こいつが言った意味が何となくだがわかった。
「え~っと、あなた地球人?」
『上手く翻訳されなかったけど、そのチキュウの人間ではないよ』
「あなたって私の姿が確認できる?私と同じ姿かたちをしているの?」
『あぁ、なるほどね。見えてるよ、姿はすこし違うかな。君みたいに大きくないし、胸もぺったんこ。それに肌の色が黒くて、髪の毛は白いよ。目の色も、僕は蒼色。あと、耳がそんなに丸くて短くないよ。僕のはもっと尖ってて、ずっと長いよ』
あ~、なるほどね。ダークエルフタイプね。内心、少しのショックと興奮が生まれる。あるとは聞いてたけど、異界って本当にあったんだ。
『なんで剣を介して話しかけてきてるのかは、僕を助けて欲しいからなんだ』
「助けるって、どうやって?」
『このダンジョンの奥に僕はいるから。多分、君が来てくれたら何とかなると思う』
サブクエスト発生ってか。どうしよう。とりあえず変に安請け合いするのも怖いな。
「この剣ってなんなの?」
『その剣はもともと僕が使ってたやつだよ!お姉ちゃんにあげる。その代わり助けに来てよ!』
あげるっていわれても…。
「これが、助けにいってあげる対価になるほど良い剣なわけ?」
『なるよ!とってもなるよ!その剣は自分の魔力を通してあげればあげるほど馴染んでいくし、魔物を倒せば倒すほど攻撃力があがるんだよ!しかも、メンテナンスもいらないから!』
「攻撃力て……何」
まさにゲームみたいな単語がでてきた。多分違う意味の言葉を言ったんだろうが、そう訳されて聞こえる。
『攻撃力は攻撃力だよ!切れ味があがったり、魔力で覆って障壁や魔力強化された鱗だって切り裂けるようになるよ!』
そすか…。まぁ、いい剣らしい。
「とりあえず、ご飯食べていい?何か疲れてきたからさ」
『もちろん!』
「君を、仕舞ってもいい?この腕輪アイテムボックスなんだけど」
『いいよ!その腕輪は君と魔力のパスが繋がってるから、君の視界も見えるし、何を考えているかも分かるから!』
うわぁ、それはちょっと嫌だ。思考を読まれてるのか…。っていうか魔力にそんな使い方があるんだ。こういうのってこっちの人間でも
知ってる人は知ってたりするんだろうか。
「じゃあ、仕舞うね」と言って、剣を腕輪に入れる。
そのまま転移の間に繋がる扉を開いた。疲れたしゲートハウスで飯にしようかな。
ゲートがない代わりに、今開いた扉があること以外は1層目の転移の間と変わらない。そのまま中央のクリスタルを触って登録する。転移も初体験だ。そのまま、頭の中で一層目を思い出し、転移する、と意識する。
視界が一瞬ぶれた後、ゲートの光が目に入った。転移成功だ。こういう感じなんだな。
『そっちのゲートも、こっちと同じなんだね』
急に思念が飛んできた。そう言えば見えてるんだっけか。会話もできるのか。
「あなたの世界にも、こういうのがあるの?」
『あるよ。君は異界人でしょ?僕の世界と君の世界は、ダンジョンを通して繋がってるから当然あるよ』
異界人に異界人って言われちゃったよ。と少し笑いそうになる。ていうか、そうなんだ。ダンジョンの奥が異界じゃなくて、連絡通路方式だったんだ。
つまり、あっちから見れば私達のほうが異界人になるわけだ。そりゃそうか。なんとなく、異界っていう名前の世界があるような気分になっていた。
「じゃあ、このダンジョンをずっと進んだら、君の世界に出るってこと?」
『うん。でも、途中で分かれてるところもあるから、違うところに出ちゃうかも』
「分岐あるの?」
『あるよ?』
当然みたいに返された。道に迷ったら帰る世界まで変わるのか。怖すぎるだろ。
ゲートをくぐって外に出る。ゲートハウスの中は出発した時と変わらない。スマホで時間を見ると、まだ夕方にもなっていなかった。こっちではちょっと散歩してきたくらいの時間しか経っていないらしい。
扉を閉め、腕輪からテーブルと椅子を出す。届くまでは新しい家具はないが、もうこれでいい気もしてきた。
『そこがおねえちゃんの家?』
「違う違う。ダンジョンの入り口に建ってる小屋みたいなやつ」
『へぇ~。外に建物があるんだね』
少年が面白そうに言う。向こうでは違うのだろうか。
クッカーに水を入れて、コンロに火をつける。カップ麺を二つ出して並べた。どっちにしよう。醤油とシーフード。気分は醤油かな。シーフードは戻しておこう。
『それは何?』
「カップ麺。お湯入れたら食べられるやつ」
『料理なの?』
「そうそう。めっちゃ便利だよ」
蓋を半分まで剥がしていると、また声がした。
『その中に入ってるの、食べ物?』
「うん。こっちの世界の物、珍しい?」
『うん!見たことないのばっかり!』
そりゃそうか。なんか楽しそうだな。さっきまで助けてほしがっていたのに。
まぁ、私もあっちの世界を見られたら同じようになるかもしれない。魔法の杖とか売ってる店があったら絶対入るし。
「そっちには空飛ぶ箒とかあるの?」
『はぁ!?あははは!あるわけ無いじゃん!なんで箒が空を飛ぶのさ!君の世界は飛ぶの?』
「いや、こっちの世界の箒も飛ばないけどさ。魔法使いは箒を使って飛ぶものなんだよ」
と、答えておく。箒は通じるんだな。確かに二足歩行で床を掃くという衛生観念があるなら箒はあってもおかしくないか。
「君、ご飯とか大丈夫なの?」
『大丈夫だよ。食べなくても平気だから』
「あぁ、そうなんだ」
魔素への侵食が進んでいるタイプなのかな。見た目は子供みたいなことを言っていたけど、異界人だし、その辺は違うのかもしれない。
「ていうか名前。名前聞いてなかったね。私はライカ」
『ライカ。うん、覚えた!僕はエルヒム!』
「エルヒム?」
『そう!』
エルヒムか。なんか天使みたいな名前だな。ずっと君とかあなたとか呼ぶのも変だし、これで少し話しやすくなった。
お湯が沸いたので火を止める。カップ麺に注いで蓋を閉め、スマホでタイマーをかけた。椅子に深く座り直す。ふぅ。やっぱり、座れるっていいな。
「それで、エルヒムがいるのって何層くらい?」
『何層って?』
「上から数えて、今いたのが十層目。その下は十一層目。そういう数え方してるんだけど」
『あぁ、そういうことね。ごめん、分かんない』
分かんないのかぁ。
「じゃあ、どうやって行けばいいの?」
『近づいたら分かるよ。僕が教えるから』
「近づくまでが分からないってこと?」
『……うん』急に声が小さくなった。
そんな気はしたが、なかなかに厳しい依頼だな。十層目であんなにでっかいゴブリンが出てきたのだ。その下に何がいるのかは知らないが、どうせもっと強いのがいるんだろう。
「私、今日初めて十層まで行ったくらいなんだけど」
『うん』
「もっと深いところだと、普通に死ぬかもしれないからさ。絶対助けに行くって約束はできないよ」
返事がない。クッカーに残ったお湯をマグカップに移す。コーヒーも買えばよかったな。
『でも、剣を使って強くなれば、もっと下にも行けるよ』
「それはそうかもしれないけどね」
『僕も、分かることなら教えるから』
タイマーが鳴った。止めて蓋を剥がすと、湯気と一緒に嗅ぎ慣れた匂いが上がってきた。割り箸を割り底の方からよく混ぜる。
エルヒムは黙っている。
なんか、私が意地悪してるみたいな気分になってきた。困る。無理なものは無理だ。私が死んだら助けるも何もないし。
「とりあえずさ」
『うん』
「剣は使わせてもらう。潜るのも、もうちょっと続けるつもりだし。その間にどうすればいいか一緒に考えようよ。それでもいい?」
『……うん!』
声が少し明るくなった。
麺をひと口すする。美味い。思っていたより腹が減っていたらしい。
『何か分からないことがあったら聞いてね、ライカ!』
「ん。ありがと」
助けるとまでは言っていない。でも、話し相手ができたのはちょっと嬉しい。なんならこっちの世界からしても、転生者の私ってもともと異界人みたいなもんだよな、なんて思えてきた。
しばらく麺をすすっていると、エルヒムが遠慮がちに声をかけてきた。
『ねえ、それ、美味しい?』
「美味しいよ」
『味は分かんないんだよね。美味しいと思ってるのは分かるんだけど』
なるほど。そういう感じなのか。
カップの中の小さな具を箸でつまむ。
「これ、何だと思う?」
『お肉?』
「お肉ではある。何の肉かは知らないけど」
『知らないのに食べてるの?』
少し引かれた。
「カップ麺のお肉は、古来から謎肉って言われてるんだよ」と教えてあげた。




