4 最善策、見つけました
「……これを、こうして…」
カチリ、と小気味いい音がする。
「出来ました!!」
これで最後のパーツが完成した。
後は、と思ったところで、頭の中で別の人間が動き出したのを感じた。
絶好のタイミングですね。
そう思ったと同時に、思わずため息がもれる。
やはりまだ中にいる。
三徹の悪夢かぁ、ははは、とドロシーちゃんと笑いあえたら最高だったのに。
最悪なことに、昨日の悪霊騒ぎは、夢ではなかったらしい。
『あ? なんだここ? うわ、ってか部屋汚っ!』
「余計なお世話です!」
頭の中で、若い男の声がする。
なんですか、これ。
物凄く気持ちが悪いですね。
未だかつて味わったことのない感覚(こんなこと、そうそうあってたまるか、です)に、苛立ってそんなことを言えば。
『うわ、何だ、お前? …妖怪か!?』
机の上に置いてあった鏡でも見たのでしょうか。
そんな言葉が返ってくる。
本当に、失礼な人ですね。
『ああ、よく見たらボッチか。 上手に妖怪化しやがって。 早くそのおかしなマスクを脱げ、心臓に悪りぃわ』
なんですか、上手な妖怪化って。
それにあなたの心臓、今ありませんけどね。
「細かい作業をする時は、これを被るとよく見えるんです!」
心のなかで悪態を尽きつつ、被っていたマスクを脱いだ。
『随分と個性的なマスクだな…ま、それはそうとして…まじでカオスだな、この部屋。 お掃除メイドに頼んだらどうだ?』
「以前は父に言われて、定期的に掃除してもらってましたよ」
『父…正しい判断だな…。 で、なんでやめた?』
「大切な部品やメモ書きが、掃除のたびに見つからなくなってしまうんです。 だから掃除は断りました」
『ま、こんだけ散らかしてりゃ、ゴミだと思うわな』
「それよりも」、とわたしは語尾を強めた。
「それよりも、一秒でも早くこっちのボディにうつって下さい!」
バァンと効果音がつきそうな勢いで、わたしは机の上を両手で示した。
正直、さっさと体から出ていってほしいです。
けれど協力すると約束した以上、無碍には出来ません。
出来ない約束はするなと、父からそう教育されています。
そうして考えた末に見つかった最善策が、これ!
「ペン吉君です!」
たった今完成したばかりのペンギン型魔道具です。
『は?』
頭の中で響く、驚愕の声。
ふふ、驚いていますね。
我ながらとてもいい仕事をしました。
『なんだこれ……?』
唖然とした様子の声に、胸を張る。
「いい質問です。 これはペン吉君といって、顔の部分はイワトビペンギンを参考にしてみました」
『いや、まて。 なんでそもそもペンギ…』
「極悪人を思わせるキレッキレの目元。 さらに、それを際立たせる、金髪メッシュのブチギレ眉毛! ご要望通り、ちゃんと大胸筋も発達させ、腸腰筋も目立つようにしました」
『いや、すげぇけど! ちょっと待てって!』
「あ、今はこのピッチピチの赤パンツをはかせていますが、腸腰筋を強調させたいのなら、あえて裸体でいくというのも………」
『待て待て待て待て! 俺が聞きたいのはそういうことじゃねぇ』
若干苛立ったような声に、小首を傾げる。
「……大胸筋の発達がいまいちでしたか? しかし、これ以上発達させると、バランスが悪くなって二足歩行は難しいと思うのです。 あ、腸腰筋なら数段階目立たすことが出来ますよ。 ご希望なら……」
『待て、落ち着けボッチ! とりあえず待て、だ!』
犬猫のように言わないで下さい。
そう思いながら、とりあえず口をつぐむ。
まだ伝えきれていないこだわりポイントが、いくつもあるのですが。
あ、右頬に付けた傷は最高にリアルに出来ました。
見た目は我ながら完璧です。
けれど、機能面はまだいくつか改善出来そうです。
まだ試作品だから、耐久性に問題がありますし。
『…で、とりあえずその……ペン吉君?…は、何に使うの、かなぁ? まさかとは思うが……』
日に一度のメンテナンスは欠かせないでしょうね。
魔力回路をもう少し強化すれば⋯⋯。
『……それが俺の新しい体、なんてことはねぇよな?』
「……え? その通りですけど?」
今いいアイデアが浮かびそうなので、ちょっと静かにして下さい。
そう思いつつ、返事をする。
……それからドロシーちゃん?
「またニーナの頭がイカれてる」みたいな目で見るのやめて下さい、バレてますよ。
「ついに頭イカれたのね、ニーナ…」
あ、隠す気なんてないですね。
けれど、ドロシーちゃんの鋭いツッコミも、今日はスルーです。
『……嘘だろ? これが……このちっさい体と短い足が、俺の新しい体?』
「はい、ご希望だった大胸筋と腸腰筋がしっかり見えるように、二足歩行の動物を選びました!
カンガルーも候補にあったのですが、私の独断でペンギンを選択しました。
魂がちゃんと入れるかどうかは、やってみないとわかりませんが。 とりあえず理論上は、これでいけるはずです」
『マジかよ……すげぇけど、よぉ』
「グダグダ言ってないで、さっさとペン吉君にうつってみて下さい! それとも! ずっとわたしの体の中にいるつもりですか? ……変態、ですか?」
『ば、馬鹿言うんじゃねぇ! 俺は変態じゃねぇ!』
「じゃ、どうぞ」
すいっと。
机の上に転がっているペン吉君を指し示す。
『……えぇ……マジかぁ…』
「なぜそんな嫌そうな声を出すのですか。 筋肉のこだわりもちゃんと取り入れたのに」、とボヤけば。
『こだわって欲しかったのはそこじゃねぇんだよなぁ。 ……いや、違う。 そこもこだわって欲しかったが……第一選択肢がまず間違ってんだよなぁ…』
一体何が不満だと言うのか。
わたしの中にいる悪霊が、物凄く戸惑っているのを感じる。
「いいからさっさとうつって下さい!」
少し強めに言えば。
はあっと物凄く嫌そうなため息が聞こえた。
『人間からペンギン……。 足の短いペンギン……』
そして。
『……まあ、体をもらえただけありがたいと思わねぇとな』
そんな呟きとともに、体から何かが抜けていくのを感じた。
一秒、二秒。
部屋に静寂が続く。
眼の前に置かれたペン吉君は、ピクリとも動かない。
「……失敗、ですか?」
もしや、あの悪霊はペン吉君の中にうまく入れず、消滅…?
それは悪いことをしました。
けれど。
「ま、もともと悪霊ですしね。 今度こそ、迷わず成仏できるといいのですが……」
約束通り最善は尽くしました。
ここは来世の彼が幸せであることを願って……。
「誰が悪霊だ、こらぁ!」
突然聞こえてきた声に、ビクッと体が震えた。
ベッドの上で毛づくろいをしていたドロシーちゃんが、跳ね起きたのが視界の端にうつった。
驚きましたよね、ドロシーちゃん。
わたしもです。
けれど。
うん、どうやら実験は成功したらしいです。
……消滅してなくてよかったです。
「⋯⋯⋯ニーナ、あんたいつの間に男を連れ込んだの?」
って、ドロシーちゃん、なんてことを!
「違います!」
と必死で否定するわたしの声に。
「ちげぇよ!」
という、ペン吉君の声が重なった。
「ちなみにカンガルーが採用された場合、なんて名前になったんだ?」
「カン太郎さんです」
「⋯⋯⋯そっか。⋯⋯うん、よくわかった」




