↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/46

37 見つけてくれて、ありがとう

「……いや、見過ぎだろう…」


手際よくカエサルさんを縛り上げていくレオの動きを、目で追っていたら。

眉を寄せたレオにそう苦言を呈された。


「……ですが『何事もよく見て、学び取れ』といったのは、レオでしょう?」

「……『よく見る』っていうなら、他にもっと見なきゃいけねぇもんがあんじゃねぇの?」

「………?」


なぜレオは、急に髪や服を整えだしたのでしょう?


「……なんか、言うことあるよな?」

「………。 ……闇夜にとけこむその衣装は、汚れも目立たず、とても良いと思います」

「………おう。……で?」


……で?

他にもなにかあったでしょうか。


「………俺、元の体に戻ったんだけど。 それについては、なんかねぇの?」

「よかったです」

「…………。 ……だよな。 …知ってた」


何故レオは肩を落としているのでしょう。


「………まあ、いいや。 ニーナだもんな」


聞こえてくる大きなため息。


わたしはきっと言葉が足りない。

そう学んだばかりなのに。


改めて、本来の体を取り戻したレオに視線を向ける。


「……あの…レオの髪は、想像していたよりもずっと明るい色でした」

「お? ……お、おう」

「ペン吉君にも、もっと淡い色のものを使うべきだったと反省しています」

「……いや、そこは別にどっちでもいいんだがよ」


困惑したように細まる瞳。

顔の下半分が黒い布で隠れているせいか、瞳の青がより際立って見えた。


「それから……青い瞳がとても…綺麗です」

「はっ!? ば、ばか、おまえ! …ふ、不意打ちやめろ」


天を仰ぎ見て、レオは右手で目元を隠すように覆った。


もう少し、あの青色を見たかったのに、残念です。


「……ゴホン、まあいい。 細かい話は後だ。 とりあえず屋敷の外まで連れてくから、お前は親父さんのとこに帰れ」


再びわたしに戻ってくる視線。

真剣な表情で「帰れ」と。

そう言われた瞬間、反論する言葉が出た。

ん

「嫌です」

「いや、なんでだよ。 こんなやつが、まだゴロゴロいるかもしんねぇんだぞ!」


クイッ。

レオは地面に縛り上げられているカエサルさんを、顎で示す。


「さっきの出来事、思い出してみろ。 怖かっただろ?」

「怖かったです」

「だったら……」

「でもまだドロシーちゃんを助け出していません!」

「……ドラ?」


レオの眉間にシワが寄る。

そして先程よりも一段低く、落ち着いた声で。


「あいつもここに捕まってんのか?」


そう尋ねた。


「……はい」


答える声が震え、見上げたレオの顔が滲んで見えた。

わたしを見下ろしていたレオの目が、ゆっくりと細まる。

そして。

ポンとその手がわたしの頭に置かれた。

そのままポンポン、と労うように優しく頭を叩かれる。


「………じゃあお前、一人で頑張ってたのか……えらかったな…」

「………違います。 えらくなんかありません。 わたしが無鉄砲に飛び出したせいでドロシーちゃんが捕まったんです…。 わたしの…」


「わたしのせいなんです」そう続くはずの言葉が、レオの「俺もな」という言葉に遮られる。

とても痛みと悲しみを伴った、でもとても穏やかな声に。

わたしは顔をあげた。

レオの青い目が、わたしと目があった瞬間優しく細められる。


「……俺も…俺のせいで大事な人を亡くした。 …すげぇ苦しかった」


思ってもみなかった言葉に、息を呑んだ。


この強くて陽気なレオに、そんな過去があったなんて思いもしなかった。


「…そ、れは…辛かった、ですね」


レオには、何度も助けてもらったのに。

わたしは、気の利いた言葉の一つも言えない。

その事を心苦しく思いながら。

レオの少しだけ陰った瞳を真っ直ぐにみつめ、労う。


「……ああ。 めっちゃ泣いた。 でもな、支えてくれた人達がいたんだ。 そのお陰で、俺は今も立っていられる」

「……そう、なのですか」

「…うん。 だからニーナ、お前も自己嫌悪でそれ以上自分を責めるな」


『それ以上自分を責めるな』

その言葉に、胸の奥に重く沈んでいた何かがほんの少し軽くなった気がした。


「今度は俺が支える。 だから……」


ついっと右手を取られた。

そして力強く握られる。


「────一緒に行こう」


「はい」そう答える声がまた震えた。


「……それにクレアさんの体も探さないといけません」

「クレア? ……ああ、窃盗容疑がかかってた、あのメイドか?」

「はい。 責任を取ると約束しました」

「責任? お前一体また何をやらかしたんだよ」


はあと、頭上からため息が聞こえてくる。


「大したことは何も。 ただ服を数回脱いでいただいただけで」

「……うん、もういい、わかった。 じゃあ、とりあえずドラを探しに本宅へ……」


ガサガサ。


急に背後から物音が聞こえた。

と同時に、ぐいっと腰を引かれる。

気がつけば、すぐ目の前にはレオの広い背中。

警戒するように、低く構えたレオが音が聞こえた暗闇を睨みつけている。


「……人の気配はしなかったが…」


「勘が鈍ってんのか?」レオがそう呟いた時。

暗闇に。

二つの光が見えた。

金に輝く、あれはきっと瞳だ。

月が隠れたのか、姿ははっきりとは見えない。

でも、小さい。

明らかに人じゃない。

あれは。


「……ドロシーちゃん!?」


呼びかけた瞬間、その何かはくるりと方向を変えてわたしたちとは逆方向に走り出した。


ガサガサ。


草木を掻き分けて走り抜けていく小さな体。


「待って下さい、ドロシーちゃん!」


反射的にレオを押しのけるように一歩、二歩、三歩と進んで。


【ニーナ、待って】


ドロシーちゃんの、そんな声が聞こえた気がして足が止まる。


そうです。

わたしはあの時。

ペン吉君を追いかけて外に飛び出した時。

確かにドロシーちゃんの、その声が聞こえたはずなのに。

なのに振り返りもせず、結果ドロシーちゃんを置き去りにした。

大事な友達なのに。


ずきりとまた胸の奥が痛んだ。


【今度は俺が支える。 だから一緒に行こう】


「…レ、オ」


ゆっくりと後ろを振り返る。

わたしをじっと見つめる青い瞳と目があった。


ああ、わたしはまた同じ間違いをするところでした。

周りが見えなくなって、大事な人を。

一緒に行こうと言ってくれたレオを、置き去りにしてしまうところでした。


「…レ、オ」


声をかければ、すぐに「ああ」と言葉を返してくれる。

たったそれだけで泣きそうになった。


「……一緒に、行って下さい!」


「ドロシーちゃんを助けに」。

続かなかったその言葉が聞こえたように、レオの目が一瞬だけ大きく見開かれて。

やがて、また優しく細められた。


「当たり前だろ。 っていうか、お前が俺の後を付いてくるんだけどな」


覆面に隠れた口元が、なぜだかニヤリと上がったのが見えた気がした。


「行くぞ、ニーナ!」










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。