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35 反則だろう

反則だろう。

親父さんからもらった情報をもとに、探して探してやっと見つけたってのに。

もう自力で、外に出てきている、とか。

おかしな機械に今まさに襲われる直前だ、とか。

それから。


「…レ、オ」


一目みただけで、俺が何者か分かる、とかさ。


なんっで分かるんだよ。

どう見ても、ペン吉時代の面影なんてねぇよな?

赤パンツもねぇ。

痩せちまったから立派な大胸筋も、物凄い不本意だがねぇ。

顔もほとんど隠れてる。

だから。

いつものあのとぼけた顔で。

「どなたですか?」

そう言って若干引かれるだろうと思ってたのに。


「……っ! ニー、ナ!!」


くそ、ニーナのくせにどこまで俺を感動させやがる!


気がつけば俺は、ニーナのちっこい体を両腕の中に閉じ込めていた。

ぎゅうぎゅうと力の限り抱きしめる。


「……く、苦しいです」

「あ、わりぃ」


マジ、なんでそんなにどこもかしこも柔らかいんだよ。

慌てて体を離せば。


「……それにしても、思ってたよりも立派ではありませんでしたね。 その大胸筋」


………うん、ニーナだな。

間違いなく、ニーナだわ。

最初に気にするところはそこなのか。

いや、勿論そこもめちゃくちゃ大事なんだけど。


「うっせぇぞ! こっちは1ヶ月寝たきりだったんだ! 俺の大胸筋はこんなもんじゃねぇんだからな!」

「なるほど…。 つまり負け惜しみですね?」

「違うわ! 大体、ペン吉の大胸筋の発達具合がおかしかっただけだ!」

「ですが、そういうご要望でしたので」

「その発想がおかしいんだよ。 だいたいなんで一発で、俺がペン吉の中身だって分かったんだよ!」

「それは勿論、友人ですので」


……マントの留め具が、とか。

ましてや声が、とかじゃなく。

まさかの精神論だった。


くそ。

なんかそっちのが余計感動すんな。

そしてそのドヤ顔、やめろ。

可愛すぎかよ。


「それから先程わたしのことを、また『ぼっち』と言ってましたけど。 違います。 わたしには友人が二人もいます」

「………」

「………そう、ですよね…レオ?」

 

はい、反則。

潤んだ目でこっち見上げんな。

それに。

純粋に「友人」と言い切られるのもそれはそれで、複雑なんだが。

だが。

ここで俺がこいつに言う言葉はもう決まってるよな。


「……ニーナ。 酷いこと言って、悪かった」

「……わたしは、レオのことを友人だと今でも思っています」

「…ああ、俺も。 ……ずっとずっとお前の幸せを願ってた」

「でもわたし、傷つきました」

「……すまねぇ」

「悲しかったです」

「……ごめんなさい」

「あと、怖かったです」


ああ、怒鳴りつけたからな。


「………すみませんでした」


素直に頭を下げれば。


「…って、いった! なんで髪引っ張んだよ!」

「いえ、見事な金髪でしたので、また父のコレクションを使っているのかと」

「自前だよ!」


思い切り髪を引っ張っていたニーナの手を、軽く払えば。

宙に浮いたその手が、ゆっくりと俺の胸元に降りてくる。


「……ニーナ?」

「……首…まだ繋がっていて、良かったですね」

「言い方な」


どうして無事で良かった、と普通にいえねぇのか。

感動の再開が台無しだな。

ま、最初からニーナにそれを求めちゃいねぇが。

そう思った。

そのニーナの手が。

俺の胸元の服をクシャリと握った。


「…レ、オ。 首、繋がってて、本当に良かったです。 怖かった、レオ…」


何度も良かったと呟くニーナの手が震えている。


ああ、そうかと納得した。

さっき言ってた、「怖かった」。

あれは多分、「俺に怒鳴られて怖かった」、じゃなくて。

「俺がいなくなってしまうのが怖かった」、なんじゃねぇかな。


「…………ニーナ」


腹の下辺りから込み上がってくる強烈な感情。

なんだこれ、勘弁してくれ。


カタ。


ニーナが触れている部分が、火傷しそうなほど熱い。

胸の奥の柔からい部分が、痛いくらいに締め付けられて。


厄介な感情だな。


ドクドクと自分の心臓の音が耳にうるさい。

血が、逆流したみたいに体中が熱を帯びていく。


カタカタ。


ニーナが俺を見上げてくる。

ちっちぇな。

こいつこんなちっさかったか?

それに。

また徹夜でもしてたのか?

髪ボサボサだし。

目も充血してるし。

クマまで出来てんのに。


くそ、なんでこんなに可愛く見えんだよ。


「……ニーナ」

「はい」


俺を見上げたまま、ニーナがゆっくりとニ度瞬きをする。


カタカタ。

カタカタカタ。


ってか、お前!


「空気読めよ、今いい感じだっただろうが!」


ニーナの体を抱き寄せ、腕の中に囲ったまま。

振り下ろされたそれを、左の籠手で受け止める。

そのまま、左足で蹴り飛ばした。


カタカタカタ。


それはまた、むくりと起き上がる。

背中から生えた、四本の異様に長い腕。

その先に付いた鋭い刃を、一本、また一本と地面に突き立てながら。

ゆっくりと近づいてくる。

ファサァっと揺れる、金の髪だけが妙に浮いて見えた。


まるで毛の生えたでっかい蜘蛛だな、気色わる。


「……なんだあの、魔道具は」


さっきは、反射的に蹴り飛ばしちまったが。

この屋敷で、人型の魔道具か。

嫌な予感しかしねぇな。

ま、あれが人型と言えるのかは微妙なとこだが。


「…カエサルさんです」

「カエサル?」


腕の中から聞こえてきた可愛い声に、一瞬眉がよる。

誰だったか。

しかしすぐに、ツルッときれいな頭皮を思い出した。


……ああ、あのハゲか。

なんとまあ、不憫な姿にされちまったんだな。

それ自体は、「マジでご愁傷さま」としか言いようがねぇが。


それよりも、まず言いてぇ事がある。


「このハゲが! ペン吉時代の俺よりも、質の良いヅラ付けてもらってんじゃねぇか!」


ってか、あのキザオ、こんなとこでいい仕事してんじゃねぇよ!


『ははは。 カエサルは頭皮を気にしていたからね。 最高級のものを用意したよ』

そんなキザオの、胡散臭い笑顔付きのセリフまで頭に浮かんできた。

やってることは、ものすげぇ非人道的なことなのに、そんなとこばっか気遣ってるとか。

無性に腹が立つ。


カタカタカタ。


「……お前…お前、知ってる…あの…あの時の、や…やつか…」


カタカタカタ。


ハゲが……いや、最高級のヅラを付けてもらった元ハゲが近づいてくる。


おお、なんでかは知らねぇが。


「……俺がわかんのか?」


まあ、いい。

理由はよくわかんねぇが。

攻撃対象が、ニーナから俺にうつった、ってことだな?


「……上等だ」


ニーナを後ろに下がらせる。

腰に下げていた二本の剣を引き抜いて。

それぞれ左右に構えた。


「……腕が増えただけで勝てると思うなよ」


カタ。

カタカタ。

カタカタカタカター!


ザクザクと刃を地面に突き立てながら、一気に間合いを詰めてくる。

速い。


だが。


突き出された刃を、右手の剣で受け止める。

ガキン。

眼の前で火花が散った。


速いが、重さは足りねぇな。


そのまま上に払い上げる。

右、左、また右。

間髪いれずに襲ってくる刃を、左右の剣でさばきながら。

ハゲの懐に入り込み、素早く後ろに回り込む。

振り向きざま、背中から伸びた腕の付け根へ剣を叩き込む。

ガキン。

そのまま手首を返し、一気に切り上げた。


バチッと、電気が弾けるような音がして、ハゲの長い腕が飛んでいく。


「まず一本」


背後から迫ってくる刃を身を屈めてよけ、そのまま足払いをかける。

盛大に転げたハゲを、足で固定して。

そのまま残りの腕も切り落とした。


カタカタカタ。


足の下で、ハゲがもがく。


ああ…なんか気持ちわりぃな、これ。


普通なら気絶するような怪我でも、魔道具は倒れない。

完全に壊すには、体のどこか……多分左胸?にある術式ってやつを壊さないといけねぇんだろうが…。


「…出来るわけねぇ」


こいつは、すげぇ性格悪くて腹立つやつだったが。

多分、望んでこの姿になったわけじゃねぇ。

キザオの犠牲者の一人にしか過ぎない。

なら。


「壊せねぇ、よな。 そりゃあ…」


じゃあ、どうするか。


ニヤリ。

自分の口角が上がったのを自覚する。


「……任せろ。 拘束術(そっち)も得意分野だ」


剣を腰に収めて、かわりに腰袋から銀線を取り出す。


「……これはちょっとやそっとじゃ切れねぇぞ?」

「魔道銀線です!」

「……いや、ニーナ。 なんでお前が目を輝かせてんだよ」










「そう言えば、どうしてここに?」

「親父さんに聞いた。 『公爵家にいるらしいが、どうしても会わせてもらえない』ってな。

親父さん、お前を心配して大分憔悴してたぞ。」

「え? 本当ですか?」

「ああ。

毎日きれいに被ってたヅラが、ズレまくってても気づかないくらいには、参ってたな」

「それは……よっぽどですね」

「そうだな。 早く元気な姿みせてやらねぇとな。

……かすかに残ってる親父さんの地毛が、心労で全部抜け落ちちまう前にな」

「……そうします」



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