↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/46

20 もううんざりだ【レオ視点】

「待って下さい、ペン吉君!」


遠い後ろから聞こえてきた声に、ありもしない心臓が跳ね上がった気がした。


あの声は⋯⋯ニーナ?

まさか。

なんでだよ。

俺はあんな酷い言葉を浴びせたのに。

なんで追ってくんだよ。

お前まだ外は怖いはずだろ?

昨日だって、ビクビク、ウサギみたいに震えてたじゃねぇか。

なのに。


───それでも、俺を追って外に飛び出したのか?


思った瞬間、魂を震わすほど強く込み上がった感情。

胸を覆い尽くすようなこんな感情を、俺は知らなかった。


【レオ】


唐突に、耳の奥で声が響いた。

女の声だ。

公爵(キザオの)邸に忍び込んだ時、警報のように頭に響き続けた、あの声。

誰なのか分からなかった。

それがもどかしくて。

そしてひたすらに怖かった。

けど今は⋯⋯。


【なんだその顔。お前、お姉様がいなくなることがそんなに淋しいのか?】


⋯⋯うっせぇよ⋯アイラ⋯。

いつまでも頭ん中で喋るんじゃねぇ。


【ま、お前もいずれわかるよ。 どう見てもマヌケなのに、かわいい。 バカバカしいのに愛おしい。 で、どんなことをしても守りたい。 それが恋、だ】


⋯⋯恋、ね。


「待って! 待ってください!」


後ろから聞こえ続けるニーナの声。


ニーナ⋯。

お前は、まだこんな俺を追ってきてんのか。

お人好しすぎんだろ。

もう俺はお前に付き合うのは、うんざりなんだよ。

名付けのセンスは、微妙だし。

赤パンはかすし。

絵は新種の古代壁画だし。


それから⋯。


「待って! お願いです、待って!」


俺を呼び続ける声に、唇を噛み締める。


公爵に贈り物されて、すげぇ嬉しそうだし。

頭いいはずなのに、なんか馬鹿だし。

感性ズレてるし。


でも、よ⋯。


「待って下さい⋯⋯レオ、さん!」


ピクっと自分の身体が反応したのを自覚する。

いや、違う。

反応したのは、俺の魂、か。


「レオ!」


続いて聞こえてきた声に、足が止まりかけて。

意地で前へと動かした。


⋯⋯ずりぃだろ、今そんな風に呼ぶのはよ。


止まりそうになる足を叱咤し、一歩一歩と前へ進み。


小さな体を利用して、人混みの中に紛れ込む。


徐々に声が遠くなっていく。

ニーナと、俺の距離が⋯⋯遠くなっていく。


ズキッと、胸が痛んだ。

ジグジグとまるで血が溢れ出しているみたいだ。


ま、俺には痛む体なんて、もうありはしねぇんだが。


こんな時まで律儀につっこむ自分に、自嘲がもれる。


その釣り上がった口角が。


「レ⋯ォ⋯」


ついに聞こえなくなったニーナの声に、歪む。

また足が止まりかけて。


⋯⋯ごめんな、ニーナ。


また一歩、ニーナと離れるために足を踏み出した。


なあ、ニーナ。

俺、な。

言わなかったけど、記憶が少しだけ戻ったんだ。

きっかけになったのが、なんであの王子の顔だったのか、はまだよくわかんねぇんだが。


……で、さ。


お前俺が倒れた時、すげぇ心配してくれたよな。

ありがとうな。

めちゃめちゃ嬉しかった。

けど、同時に。

めちゃくちゃ苦しくなった。


だって、よ。

ずっと言えなかったけど、な。

俺、最近体の調子がおかしいんだよな。

思うように動かなかったり、一瞬意識が飛んだり。

お前心配して何度も見てくれたよな。

でも、悪いとこはどこにも見当たらなかった。


で、さ。

多分、悪いのはこのペン吉ボディじゃなくて。

俺の方なんじゃねぇかな。


もしかしたら、俺に残されてる時間ってすげぇ短いのかもしれない。


うわ、きついな、これ。


でも、不思議なんだけどな。

自分がもうすぐ消滅するかもしれない、って考えた時。

最初に思ったの、お前のことだった。

俺が倒れただけであんなにうろたえて、泣きそうな顔してたのに。

もし俺がいなくなって、このペン吉ボディが二度と動かなくなったら。

ニーナ、お前は一体どれほど泣くんだろうな、って。

きっとめちゃくちゃ取り乱すんだろうな、って。

で、それが心底恐ろしくなった。


それとな。

お前はあのキザオに心許しちまってるみたいだが。

あいつは駄目だ。

お前の結婚相手としては、絶対に認められねぇ。

お前の結婚相手は、ちゃんとお前自身を見て、何があってもお前を幸せにする、って覚悟を持ってるやつじゃなきゃ俺は認められねぇ。

………いや、違うな。

例え、俺と同じくらいいい男がお前に求婚したとしても。

俺はやっぱり認められねぇ。

俺はな、他の誰にもお前を渡したくねぇんだ、きっと。


うん、なかなかに自分勝手だな。


だけど、しょうがねぇだろ?

お前のあのちょっと間抜けな笑顔がさ、何よりもかわいいって思っちまったんだから。

バカバカしいことを全力でやってるお前がさ、誰よりも愛しいと思っちまったんだからよ。


【それが恋、だ】


……何度もうっせぇよ、アイラ。


───わかってるよ。


ニーナ。

なあ、ニーナ。

俺、お前が好きだわ。

めちゃくちゃ惚れてる。


だからよ、もう一緒にはいられねぇ。


俺にはまだやり残したことがある。

体を取り戻すよりももっと大事なこと。


俺に残された任務。

俺が体を失い魂だけの存在になった元凶。

あのキザオ。


───フィガロ公爵の悪事の証拠を、何としても掴まないといけない。


俺に残された時間がどれほどあるのかわからない。

けど、それでもやらなきゃいけない。


なあ、ニーナ。

お前の婚約者(仮!)は、本当にヤバイやつなんだ。

本当のこと言ったらお前、絶対俺を手伝おうとするだろ?

………ありがとうな。

でも……。


ごめん、ともう一度心のなかで謝罪を繰り返す。

届きもしないのに謝罪を。


お前を危険なところには連れていけない。

後は俺一人で決着を付ける。


だから、ニーナ。


───ごめんな。 ここで……お別れだ。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。