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15 俺にとってのあいつ【レオ視点】

キザオ襲来から2週間がたった。

その間、毎日のようにニーナへの贈り物が届き。


「あ、これはとても珍しい研磨剤です」


それを開けては、ニーナが嬉しそうに声を上げる。

しかも全ての贈り物にいちいち、あのなんとかって花の香りがついてるらしい。

このペン吉ボディは、匂いなんてわからねぇが。

思い出のお花ですよ、ってアピールか?

きざったらしいことこの上ない。


はあ、くそ。

そんな嬉しそうに目、輝かせんなよ、バカニーナめ。


レア素材?

金と地位を利用して手に入れただけだろうが。


そう心のなかで悪態を突きながらも。

ニーナが喜ぶ、趣味ど真ん中のものばかり贈ってくるキザオに、苛立ちが止まらない。


「くそ」


自分でも、何にそんなに腹を立てているのかわからない。


多分。


と、何度目かに考えた末、結論がでた。


多分俺は、こんな魂だけの不安定な状態で、唯一出来た理解者──ニーナを、やつに取られるのが嫌なんだ。


思えば、ニーナ=グローリアという女は、最初からおかしなやつだった。

突然ニーナの体を乗っ取った、記憶のない男──それが俺だ。

うわ、やばいくらい胡散臭せぇ。


そんな男に、弱みを握られたとは言え、協力を約束し、律儀に今もそれを守ってる。

短期間で、魂が入れる器を用意するほどの天才性を見せたかと思えば。

明らかに世間一般とは認識のズレがある。

長年の引きこもりの影響か。

それとも。

ああ、天才と変人は紙一重だというから、そっちか?

……うん、両方だな、きっと。


ああ、そういやこの前「服を作ってくれ」って頼んだら、こいつ、マント作ってよこしやがった。

黒一色のいかにもヤバそうなやつだ。

それも留め具だけやたらと豪華だ。

なんだよ、この無駄に仰々しい飾りは。

むしろ痛さが増してんじゃねぇか。


絶句したね。

ほんと、こいつの思考回路どうなってんだよ。

赤パンに黒マントだと?

変態具合が、確実にレベルアップだ。


それでもいい笑顔で差し出されちゃ、受け取る以外道はねぇだろ。


はぁ。


突っ込みたいところは山のようにあるが。


それでも一つ確かなことは。


「いいやつ、なんだよなぁ…」


明らかに感受性はおかしい。

自分の身なりにも健康にも無頓着で、平気で三徹とかする。


だけど。


とても純粋だ。

自分が手掛けた魔道具を、『大事な子たち』と呼び、言葉の通りなによりも大事に扱っている。

かなりのコミュ障だが、自分なりの誇りがちゃんとある。

なにより。


「悪いこと考えねぇし」


何度も体に入った。

そのたびに、ニーナの思考は俺に丸聞こえになった。


正直、考え方はかなりおかしかった。

正気を疑ったことなんて何度もある。


けどただの一度も、ニーナは人に悪意を持ってない。


その人の良さに、驚愕した。

それから。


【わ、わたしもペン吉君の幸せを願ってます!】


言葉だけじゃなく、実際にニーナはそれから街に出るようになった。

最初なんて、ちょっと後ろで物音がしたくらいで、どんだけ飛ぶんだよってくらい飛び上がってた。

俺とドロシーの後ろに隠れて。

体ほぼ丸見えなのに、それで隠れてるつもりかって何度も突っ込んでやったけど。

そんなに怖い思いをしても、ニーナは街に出続けた。

それはきっと、解体された魔道具の謎が知りたかったから、だけじゃない。

おそらく……いや、間違いなく、俺のためでもあるんだろう。


で、そんなニーナに俺も見事に絆された。


「すごいです、ジルさんは!」


やつからの贈り物に、嬉しそうに笑うニーナ。

ちくしょう…。

なんだよ、ジルさんって。

俺のことは未だにペン吉君なのに。

それに俺だって……ニーナが喜ぶもの贈ってやりてぇのに。


なのに、記憶なし、金なし、ついでに大事な体までない、と三拍子揃ってる俺に贈り物なんて出来るわけがない。

この前ニーナの親父さんの悩み……というか自慢?を聞いたら、銅貨を三枚くれたが。

これじゃあ、飴玉くらいしか買えねぇ。

貧乏人には世知辛い世の中だ……。


ちなみに親父さんの話は、年々減り続ける頭髪への不安と、それを解消すべくコツコツ集めたヅラへの熱い……暑苦しい程の想いだった。

ちらっと、自分のヅラを頭に装着している俺を見て。

「君も苦労してるんだね。 うん、とても似合っているよ」と微笑まれた時は、正直言葉を失った。

俺は今ペンギンで、そもそも魔道具なんだが。

「あ〜、ニーナの親父さんだわ」、と血の繋がりを強く実感した。

そして、同時に思った。

この親父さんも、ニーナと同じように人がいい。

いや、ニーナのほうが親父さんに似たんだろうが。

部屋に引きこもった娘を、親父さんなりにずっと心配してたのが言葉の端々から分かったし。

キザオとのことも、親父さんなりに考えた末の結論だったんだろうな。

くそ、確かにあいつは多少顔も身なりも良かったが、絶対俺のほうがいい男だったはずだ!

⋯⋯多分。


はぁ、とまた無意識にため息が漏れた。

自分が誰なのかさえわからないってのは、思いのほか精神にくる。

そのせいか、最近体調がおかしい気もするし。

あ、体がねぇから、体調もくそもねえのか。

まあ、それはともかく。

こんな俺がそれでもなんとか正気でいられるのは、間違いなくニーナの存在のおかげだ。


ああ、俺もニーナになんかしてやりてぇなぁ。

そんなことを悶々と思いながら、ニーナについてトボトボと街の中を歩く。


所狭しと並ぶ露店。

そしてそこに並べられた、いかにも女が好きそうなアクセサリー。

お〜、お〜、綺麗だなぁ。

あれなんか、ニーナの髪を止めるのにいいんじゃねぇか?

あいつ、いっつもボサボサ頭だからなぁ。


だが、いかんせん俺には金がない。


はあ、と無意識にため息が漏れた時、ある露店の看板が目に入った。


《腕試し! 短剣投げ!

 5投で銅貨3枚

 1投でも的に当たれれば、参加費返却。

 二投以上的に当たれば、銀貨1枚。

 三投以上真ん中大当たりで、金貨1枚》


奇跡的に俺の収納袋(もうパンツの中じゃねぇぞ)には銅貨が3枚。

的に当てれば賞金が手に入る。


これだ!


「ニーナ! あれやってみようぜ!」


まだ人に慣れてないのか。

ビクビクと震え上がっているニーナを、露店まで引っ張って行く。


「ふぅん? 腕試し、ねぇ? その短い腕で? 試す必要なくない?」


尻尾を左右に揺らして、ニヤニヤと笑うドロシーを睨みつけながら。

店主に参加費を無言で払う。


「おいおい、こいつはお嬢ちゃんの魔道具かい? 随分と珍しい型だけど……」


「悪いけど、魔道具の参加は認めちゃいないんだ」と店主が渋る。

看板には、魔道具の参加禁止は一言も書かれていない。


街では堂々とは喋れないため、看板を指し目で圧をかけながら無言で抗議する。


「あ〜。 まあ、どうみても投擲に適した型じゃないし。 人寄せにもなるし、いいか」


「あいよ」といいながら、店主が俺の横に短剣を5本並べてくれる。

全て同じ重さ、同じ型の短剣。

的までの距離はざっと20メートル。

素人が投げて、まぐれでやっと一発当たるかどうかの距離。


だけど。


短剣を手に取れば、底しれぬ自信がみなぎってくる。


俺ならやれる。


「おいおい、なんだよあのペンギンは。 あの腕の短さで的に届くわけねぇだろうが」

「だれだよ、鳥類ここに紛れ込ませたやつは!」


外野がうるせぇ。

だけど、お前ら、今に吠え面かきやがれ!


自信を持って短剣を投げる。


そして。


俺の手から離れた短剣は。

サクっと、とても情けない音を立てて、わずか5メートル程の地面に突き刺さった。


「ぎゃはははは」


一気に会場が笑い声に包まれる。


おかしなペンギンが、真剣にナイフ投げに挑戦しているのが余程珍しいのか。

気がつけば、結構な人数が露店を取り囲んでいる。


「ペ、ペン吉君、無理をしてはまた腕が取れます!」


お前までうるせぇよ、バカニーナめ。

腕はお前が補強してくれただろうが。

二度と、もげるようなヘマはしねぇよ。

黙ってみてろ。


続けて二投目を投げる。


今度は、的から随分と離れた防護壁に突き刺さった。

高さも足りない。


「うおい、ペンギンちゃん? 怪我する前に、帰ったほうがいいんじゃねぇのかぁ?」

「むりむり〜。 100回やったってかすりもしねぇよ! 帰れ帰れ!」

「ぎゃははは。 さすが! 期待を裏切らないわね、ペン吉ちゃん!」


ドラめ、野次馬と一緒になって笑ってんじゃねぇか。

後で覚えてろよ。


続く3投目。


これを外せば、資金が足りなくなる。

つまり。

次は絶対に当てる。


周りの雑音が気にならなくなるほど、深く深く集中する。

一投目は距離不足。

二投目は軌道が逸れた。


「なるほどな…」


力加減。 手首のスナップ。 腕の可動域。 体重移動のタイミング。


「理解した」


3投目を投げる。


ヒュッと。

今までとは明らかに違う音を立てて、短剣は飛んでいく。

そして。

ダン、と軽快な音を立てて、的の真ん中に突き刺さった。


「……は?」

「……いや、どうせまぐれだろ?」


ざわつく周囲の音を、遮断して。

続けて4投目を投げる。


ダン。


「また…真ん中…」


5投目。


ダン。


狙い通り、2本の短剣のすぐ横に突き刺さった。

改めて確認してみたが、ちゃんと3本とも赤い枠に収まっている。


よっし。 これで金貨1枚だな。


結果に大いに満足して振り返る。


あ?


そして、場が不自然なほど静まり返っていることに気がついた。

先程まで好奇の目で見ていた野次馬たちが、目を見開いて俺を凝視している。


……ふ…ふははは、見たか俺の実力を!

宣言通り、吠え面かかせてやったぜ!


しかし喋ることは出来ねぇ(あ、ドラにだけは後で文句を言ってやる)。

まあ、いいか、と俺は無言で、ペン吉の短い腕を店主へと差し出した。


「は?」


呆然としながら、俺と的を交互に見ている店主に、催促するように腕を上下に振る。


「あ、賞金の金貨1枚、ね……ま、毎度」


俺が金貨を受け取った瞬間。


「うおーーー!」

「何だ、今の! 黒マントに赤パンツの、変態にしか見えないペンギンが、めっちゃかっこよかったぞ!」

「すげぇ、いいもん見た!」

「俺も! 俺もやってみてぇ!」


我に返ったように、野次馬たちが興奮しきった声をあげる。

……変態ペンギン、は余計だろ。

まあいい。

これで俺には資金が出来た。


「ニーナ、ちょっとここで待ってろ」


大繁盛し始めた露店から、ニーナを連れ出し、人のいない安全だと思える場所まで避難させた後。

俺は金貨を握りしめ、先程見かけたアクセサリー店へと向かう。

 

迷っちまうけど……うん、やっぱ一番最初にいいと思ったやつが一番だな。


商品を一つ手に取り、店主に金を払った。

ニーナの黒髪に映える、中央に淡紫色の宝石が一粒はめ込まれた、銀の髪飾りだ。


ホクホク顔で俺は、ニーナの方を振り返る。


その俺のすぐ脇を、若い男女のグループが通り過ぎていった。


ニーナと同じくらいの年か?

随分と仲が良さそうだな。


何気なくそう思った俺の眼の前で。


「ニーナ=グローリア!」


若い令嬢がそう叫んだ。


名前を呼ばれたニーナが、顔を上げる。

そして。

その令嬢を認識した瞬間、ニーナの体が目に見えて震えた。

随分と明るく穏やかになったニーナの表情が。

やっと緊張が溶けてきたニーナの顔が。

みるみる青く染まっていく。


その様子に、俺は猛烈に嫌な予感を覚えた。













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