9 まるで人工知能のようになった分子ネットワークをもった水
そうしながら、
「まあ、とりあえず、」
ドン・ヨンファが、ポチポチと、友人とチャットをかわしていく。
『ちょっと? 明日、君の研究室に、遊びに行ってもいいかい?』
『おっ? いいけど、何か、あったのか?』
友人が、気さくにOKしつつ、ワケを聞いてくる。
『ああ。ちょっと、ある水を、調べてほしくてね』
『ある水、だって?』
『ああ、例の、“水の匣事件”の水が、手に入ってさ』
と、そこまでチャットを交わすと、
『お、おっ……』
と、友人の文章の様子が変わり、
『な、何だって――!?』
と、スマホの向こうで、驚きの声とテンションをあげているのが伝わってくる。
『調べたい。いや、ぜひとも、調べさせてくれ!!』
『ああ、じゃあ、明日もっていくよ』
と、そこまでチャットしたところで、
「――とりあえず、明日、会う約束を取りつけた」
と、ドン・ヨンファが言った。
横から、パク・ソユンがチャットをのぞきながら、
「何か、ムダに、テンションあがってんじゃん」
「まあ、彼は、水を研究しているからね。この“水の匣の水”っていうのは、興味深いんだろう」
と、ドン・ヨンファが答えた。
その件は、いったん、そこでおいておき、
「それで、ヨンファの友人に分析してもらうのは良しとして、いまは、我々で出来る範囲で、何か、“可能性”を考えようか」
と、カン・ロウンが、ふたたび話を仕切る。
続けて、
「ありうるパターンは……、ひとつは、異能力や、魔力のようなものを介在せずに、純粋に、“何か、テクノロジによるもの”――」
と、カン・ロウンが言った。
それを受けて、ドン・ヨンファが聞く。
「“それ”っていうのは、水に、何か微量の成分だったりが混じることで、水が特別な構造を得て……、それによって、通常の水ではない、“何らかのSFめいた能力”を与えている――、ってことかい? まあ、それを、友人に確認するつもりだけど」
「ああ……。おおむね、そういうことだ」
そこへ、
「それで、“そんな水”が、ドローンのようにガイシャを襲って、“匣”にとじこめた――、ってこと?」
と、パク・ソユン。
「水が、ガイシャを襲って、匣にとじこめただと?」
キム・テヤンが、すこし顔をしかめて聞き返す。
「ああ……」
と、カン・ロウンが、うなづきながら、
「何者かが、先にガイシャを襲ってから殺害したのちに、匣にいれたわけではないとのことだ。それに、現場には、何者かの――、すくなくとも人間の、侵入の形跡はなかった。それで、恐らくは、そこにあった――、現場の庭園の水辺から、“水に”襲われたと思われるんだ」
と、答えた。
そのまま、カン・ロウンが続けて、
「それが、たぶんは、ドローンのように同時多発的に、七人のガイシャ達を襲ったと思われる。ちなみに、屋敷の持ち主は、すこし離れた駐車場で、車に乗ってにげようとしていたんだろうな。捕まって、恋人とともに、水の匣にとじこめられていたようだが……」
と、補足した。
「てか? 車に乗らなきゃ、逃げられたんじゃない?」
「まあ……、そうだろうけど、よ……、そいつを気づいた時には、遅かったんだろ」
と、身も蓋もないように言うパク・ソユンに、「いまさら、そいつを言ってやるなよ」とキム・テヤンが言った。
それはさておき、
「しかし、そんな、“SFみたいな能力をもった水”ってのが、実現可能なのか――? って、話だな」
と、キム・テヤンが、話を本題にもどして皆に問いを投げかける。
「まあ、これまで知らべてきた事件を考えたら……、ありそっちゃ、ありそうじゃん」
と、軽い答えのパク・ソユン。
「まあ、な……」
カン・ロウンが、相づちした。
まあ、確かに、“その認識”は、ここにいる四人とも同じではある。
ただ、その可能性については、今は思い浮かぶ材料はなく、
「それとも……、もっと“シンプルに”考えて、何か、怪人や異能力者の手によるものなのか?」
と、カン・ロウンが、こんどは“不可思議な力が介在している”可能性について考える。
まあ、“異能力者”であり、“そのような類の事件”を調べることの多いSPY探偵団のメンツにとっては、“何か現代の科学技術というかガジェットをトリッキーに駆使した可能性”よりも、“こちらのほう”がシンプルで、なおかつ親和性があるのだろう。
それはさておき、
「怪人、異能力者ねぇ……」
と、ドン・ヨンファ。
「もしくは、何か、SFに出てくる、“超生命体”みたいなアイデアも、ありかな? と――」
と、カン・ロウンが補足した。
「何ぽよ? その、SFに出てくる超生命体って? ケイ素生物、とか?」
「まあ、ざっくり、そんな感じかな。何らかの理由で、まるで人工知能のようになった分子ネットワークをもった水というのが現れて――」
「はぁ、」
と、パク・ソユンが気の抜けた相づちし、
「ったく、何だよ? B級のSFホラーじゃあるまいに」
と、キム・テヤンが顔をしかめる。
また、カン・ロウンが、
「ちなみに、犯行は――、“水の匣の出現”っていうのは、わが国だけでなく、いまのところ、日本、中国とで、散発的に……、それも、不規則的に起きているじゃないか」
「ほ、う」
と、キム・テヤンが、相づちしてやりつつ、
「そうすると……、この、超生命体のようになった水が、まさにホラーSFのように、この韓国、日本、中国で自己増殖している――、とか」
「はぁ、」
と、こんどは、ドン・ヨンファが気の抜けた相づちをし、
「とか――、じゃねぇってんだよ、まったく」
と、キム・テヤンが、「やれやれ」と呆れる。
そんな、自分以外のメンバーたちに、
「まあ、超生命体説は冗談ていどにしておいて……、もし、水の匣の犯人が、何らかの怪人、異能力者だとしても、なかなかに、移動が大変じゃないかな? この、三国を、行ったり来たりしてってのは」
と、カン・ロウンが、疑問を投げかけた。
「そうすると? 犯人は、複数人いる――、もしくは、何かグループか、組織の可能性があるってことになるってわけ?」
と、パク・ソユン。
「ああ。“そうなる可能性”が、ある」
カン・ロウンは、答えながら、
「ちなみに、超生命体説だと、そこは、考えなくていいかもな」
「けっ、もういいってんだよ、そのB級SFみてえなのは」
と、キム・テヤンが舌打ちをし、
「まあ、とりあえずは……、ヨンファの友人の分析結果を待つのと並行しつつ、調べれたら、調べていこうか」
と、カン・ロウンが、まとめた。




