8 なッ!? 何をするだァッー!! ソユンッ!!
(3)
「――てわけで、取ってきた」
と、キューブ型のアイスを食いながらパク・ソユンが見せたのは、例のプラスチックの――、ナースのコスプレだったり、“ある種のマニアックそうなプレイ”に使われそうな注射器状のアイテムだった。
すわなち――
ここでようやく、場面は昼間の回想から、夜の屋台へと戻ってくる。
戦利品のように見せられる注射器に、
「取ってきたーって……、まったく、何やってんだよ、お前は」
と、刑事のマー・ドンゴンと同じように、キム・テヤンが呆れる。
「まあ、いいじゃないか、マーさんだから」
「そうよ。小っちゃいことは気にしないわ。こわかちこわかち」
「マー・ドンゴンのヤツだからってな、お前ら。てか、何だよ? こわかちって」
悪びれないカン・ロウンとパク・ソユンのふたりに、キム・テヤンがふたたび呆れつつ、謎の『こわかち』につっこんだ。
それはさておき、
「――で? だから、さ?」
パク・ソユンが、何が「だから」なのか、前置きしつつ、
「これ、調べてよ、誰か。てか、ヨンファ、アンタしかいないけど」
と、ドン・ヨンファのほうへと、注射器を向ける。
「はぁ……、まあ、やっぱり、ねぇ」
ドン・ヨンファが、予想していたかのように言い、
「おっ? やっぱり、てめぇに白羽の矢が立ったな、ヨンファ」
「まあ、ソユンの、勝手な白羽の矢だけど」
と、茶化すキム・テヤンに、「やれやれ」との仕草をしてみせる。
まあ、財閥のボンボンでありながら、道楽的に実業家もやっていて交流関係も広いことから、自分に頼まれること自体は予想できていたのだろう。
「まあ、水を研究者している友人がいるから、ちょっと、明日、会いに持って行ってみようかな」
「ああ” 研究者、だと?」
「うん」
ドン・ヨンファがキム・テヤンに答えつつ、何やら、スマホでチャットをしはじめる。
そうして、ドン・ヨンファがチャットの文章をポチポチと打っていた。
そのとき、
――ピ、ュッ――!!
「あ、べしッ――!?」
と、ドン・ヨンファが、突然の奇声をあげた。
胸でなく、顔にかけられた液体――
「う、ぅ……、ぐぅ……?」
拭いながら、ドン・ヨンファが見た先には、
「……」
と、パク・ソユンが無言で、まるでゴルゴ13のごとく――、水鉄砲を構える姿があった。
「なッ!? 何をするだァッー!! ソユンッ!!」
「ああ? せっかく、水の話をするからさ? 水つながりで、いいじゃない」
さすがに憤って声を荒げるドン・ヨンファに、パク・ソユンはまったく悪びれずに答える。
そんな、騒がしいふたりに、
「まったく……、本当に、鬱陶しいヤツらだな」
と、キム・テヤンが顔をしかめると、
「は? ヨンファは、鬱陶しい枠かもしれないけど、私は鬱陶しくないぽよ」
「けっ、お前も、十分に鬱陶しいってんだよ!!」
「そうだよ。そもそも、“人に水鉄砲をかける”なんてふざけたことする人間が、鬱陶しくないわけないじゃないか」
「は? それは、待つぽよ。ふざけているようでふざけて水鉄砲をかけたかもしれないし……、ふざけいるようでふざけないで水鉄砲をかけたかもしれない、ぽよ」
「いや、その、『ぽよ』と水鉄砲なんて、100人中99人が、ふざけているようにしか見えないだろ」
と、ドン・ヨンファがつっこんだ。
そのようにしつつ、ドン・ヨンファはスマホの画面を、チャットが返ってくるかチェックする。
「まだ、返信は無いか? ヨンファ」
カン・ロウンに、
「うん」
と、ドン・ヨンファはうなづく。
まあ、ずっとチャットの画面を見ていても仕方がないので、並行して本題に戻って話を進める。
「それで、この、“匣の水”っていうのは……、いままで、警察が調べたところによると、“ただの水”、らしいんだな」
と、カン・ロウンが言うと、
「ただの水、だと?」
キム・テヤンが、眉をよせ、
「それは、本当かい?」
と、ドン・ヨンファも、ちょっと信じられないような顔をして、
「捜査機関の分析がよくなくて、調べてみたら、何か、特殊な成分が入っていたとか?」
「まあ、何か、微量な成分は入っているには入っているとは思うが……、おおむね、水道水みたいなものだそうだ。マーさんたちや、現場の、おそらく科学捜査班がいうには」
と、カン・ロウンが答えた。
ただ、そんな水に、ガイシャたちは……、これは、“捕まった”――のかな? それで、水だけでできた匣から、なぜか脱出できなかったんだよね
「何か、そのように脱出する間もなく、いっきに溺れたのか……? あるいは、この、“水の匣の水”というのが、何か特別な力をもってて、そのせいで、ガイシャは脱出できなかったのか?」
ドン・ヨンファが、考えながら言うと、
「まあ、そんな水を、私は、“ちゅー”ってしちゃったけど」
「ったく、“ちゅー”ってしちゃったー、じゃねぇってんだよ、タコ」
とここで、吞気に言ったパク・ソユンを、キム・テヤンがタコ呼ばわりして、
「は? 誰が、タコよ?」
「けっ、お前とヨンファも、併せて、タコどうしじゃねぇか」
「は? ヨンファはまだしも、私まで、タコあつかいしないでくれる? テヤンでも、しばくわよ」
「そうだよ。いや、そうだよじゃなくて、僕もタコじゃないんだが」
「おいおい、話を戻すぞ、皆」
と、入り乱れて話す三人を、カン・ロウンが本題へと引き戻す。
そのまま、カン・ロウンが、
「皆が抱くように、ケースもなしに、“匣の形”を、水だけで保っているという謎――、“それ”を考えると、『ただの水だ』といわれても、本当にそうなのか? という疑問は残るのは、当然のことだ。だから、念のため、ヨンファの友人にも調べてもらったほうがいいのは、間違いない」
と、話を取りしきる。
そこへ、
「あっ? 返って来た」
と、ドン・ヨンファは、友人からチャットが返ってくる。
それを読むに、
「何か、あっちも、飲んでるみたいだね」
「は? さっさと、答えさせなさいよ。私が、文章、送ったげよっか」
と、その表情は変わらないもののアルコールが回っているのか、パク・ソユンが絡んでくる。
「いや、やめとく。ソユンだけには、送らせない」
「は?」
「てか、ソユンも、けっこう酔ってんじゃん」
「いや、だから、言ってんじゃん? お酒は、ぜ――「「はいはい、絶対やめたね。ほんとっ、好きだな、その、タバコを吸いながら絶対タバコをやめたって会見ネタ」」
と、キム・テヤンとドン・ヨンファのふたりが、ここだけは息が合うのか、言葉をかぶせてつっこんだ。
「はぁ、」
パク・ソユンが、若干呆れたように、ため息気味の声を出した。
まあ、『はぁ、』じゃないのだが、お前が呆れるなというところなのだが。




