7 何で? 匣なんかにする必要、あるの――?
(2)
「それで? 何をしに、来たのですか?」
チャク・シウが、カン・ロウンとパク・ソユンのふたりに聞き、
「どうせ、首つっこみに来たんだろ?」
と、マー・ドンゴンが続く。
「うん。そうよ」
「うん、そうよ――、じゃねぇってんだよ、ったく」
パク・ソユンの、まったく悪びれることのない答えに、マー・ドンゴンがもはや呆れることもなく、
「まあ、いい……。どっちにしろ、今回は、不可思議な事件で、な――」
「“今回も”――、じゃなくて?」
「うるせぇ、な」
と、マー・ドンゴンが、パク・ソユンに嫌そうな顔をしながら、
「まあ、“そうだから”こそ……、“お前ら”がいても、いいかもしれねぇな」
と、いちおうは、このSPY探偵団リーダーのことを、すこしは買っているようだった。
その流れで、カン・ロウンとパク・ソユンも、この現場の調査に加わる。
「てか? これが、“あれ”ね?」
パク・ソユンが、改めて聞いた。
「ああ……」
マー・ドンゴンが、ゆるり……と、
「【水の匣】……って、やつだ」
と、答える。
そうして、
「……」
パク・ソユンは、ジトッ……とした目のまま、
――ジッ……
と、水の匣のほうを見た。
「……」
「……」
と、周りも、間を置くように静まる。
――ゴゴ、ゴ……
と、佇む【水の匣】の、謎の雰囲気。
それに、皆が息をのむ中、
「何で? 匣なんかにする必要、あるの――? ぽよ」
「「「「は――?」」」」
と、パク・ソユンの発した言葉に、皆の、「は――?」の声が重なった。
「お前……」
「そこは、アレだぞ、」
「そうよ。何で、『匣なんかにする必要』――じゃなくて、『匣にする必要なんか』よ、そこは」
と、刑事・捜査員たちから、“厳しく訂正”される。
「はぁ、」
パク・ソユンは、“謎の訂正”に、気の抜けた相づちをした。
それはさておき、調べていく。
「これは、ガイシャ達は、溺死しているのか?」
と、カン・ロウンが水の匣を指し、マー・ドンゴンたちに聞いた。
中には、バケツを持った、すこしぽっちゃりの男がポーズをキメている姿があり、確かに、どこかインスタレーション作品のようでもある。
また、
「てか、水だけで、できている匣なのよね? 簡単に、出れそうなんだけど」
と、パク・ソユンが言葉を添える。
まあ確かに、水族館のような、強化アクリルのようなケース、匣があるわけでもなしに、“水だけで”できた匣だといわれると、そのような感想が浮かぶのは無理もない。
「まあ、“それ”も、謎のひとつだ」
と、マー・ドンゴン。
「もしかして、溺死じゃなくて、殺されてから、入れた――とか?」
また、パク・ソユンが聞くと、
「いえ、その可能性は、すでに否定されています」
チャク・シウと、
「死因は、どれも、溺死であったらしいです」
と、捜査員の男が答えた。
また、
「では、何故、ガイシャたちは出れないのか? 泳げない人間だとしても、そんな2、3メートルの匣だ。歩いて、出れそうなものなのに、おずおずと、溺死するのを待っていたとでも?」
と、カン・ロウンが、マー・ドンゴンたちに質問をぶつけ、
「そうよ。それに、“謎”は――」
と、パク・ソユンも加わって、
「なんで、“匣なんかに”する必よ――「「「「おい。ちょっと待て――」」」」
とここで、ふたたび、マー・ドンゴンはじめ刑事・捜査員たち数人に、話す途中で遮られた。
「何故、ぽよ」
パク・ソユンが、ジトッ……とした目のまま、そのわけを聞く。
「何故ぽよ――、じゃねぇってんだよ、まったく……」
マー・ドンゴンが呆れ、
「そうですよ。また、“そこ”に、話を戻さないでくださいよ」
と、チャク・シウと、
「だから、『匣なんかにする必要』じゃなくて、『匣にする必要なんか』って、いってるでしょ? 話を、ちゃんと聞いていましたか?」
と、捜査員の女が続いて、つっこんだ。
「はぁ、」
パク・ソユンが、「やれやれ」と相づちした。
『はぁ、』じゃないのだが、……というよりも、お前が「やれやれ」と言うなというところだが。
本題に戻る。
「しかし、この【水の匣】というのは、謎が多いな」
カン・ロウンが言い、
「ああ」
と、マー・ドンゴンがうなづき、
「ガイシャたちが、どうして出れないのか――? どのようにして、水だけで、匣の形を保っているのか――? 確かに、謎は多いですね」
と、チャク・シウが補足した。
それを聞いて、こんどは、
「すると……? これは、“ただの水”――ではない、――って、ことなの?」
と、パク・ソユンが聞いた。
おそらく、誰しもが、そのように思うだろう。
しかし、
「――いや。これは、“ただの水”、なんだ」
と、間を置いてマー・ドンゴンから返ってきたのは、“それ”とは反対の答えだった。
「ただの、水――、だって?」
カン・ロウンが、丸サングラスで分かりにくいものの、すこし驚いている様子で聞き返す。
「ぽよ……」
と、パク・ソユンが、こちらは相変わらずの、気まぐれな『ぽよ』で相づちしつつ。
そこへ、
「まあ、“微量なナニカ”くらいは溶けているかもしれませんが……、おおむね、綺麗な水みたいなんですよ。水道水や、ミネラルウォーターみたいな」
と、こちらは鑑識だったり科学捜査班みたいな雰囲気の男が、答えた。
「しかし……、こんな、“匣の形”を、ただの水だけで可能なのか……?」
カン・ロウンが、常識的な疑問を不思議そうに言う。
まあ、普段は“不思議な”事件を調べる側のSPY探偵団、カン・ロウンなのだが、『水道水と変わらないような“ただの水”によって、不可思議な水の匣がつくられている』という、露骨に不思議な事実を目の当たりにすると、却ってそうなるのだろう。
「そう、ですね……」
と、カン・ロウンを見て、チャク・シウが、
「まあ、もしかすると……、あなたたちのような、異能力者、もしくは、“何らかの不可思議な力”が、この水の匣に介在しているかもしれませんが……、捜査機関の分析では、『おおむね、ただの水』との結果がでてます」
と、言った。
「うーむ……」
カン・ロウンが、唸りながら、
「もう一度、くわしく、調べたほうがいいのでは……」
「また、くわしくだと?」
と、マー・ドンゴンと、
「我々の、分析が、不十分とでも?」
と、捜査員の男が、こちらは、すこし不服そうに言った。
「うん」
とは、パク・ソユン・
「露骨に、『うん』って言うなよ、ったく……」
と、マー・ドンゴンが嫌そうな顔をする。
すると、
――ち、ゅーッ
と、パク・ソユンが、どこから持ってきたのか――? 何かプラスチックの注射器を取り出し、水の匣から水を吸いとった。
「あっ、」
捜査員の男が、驚き、
「おい!! 何を、やってんだよ!! てめぇは、よぉ!!」
と、マー・ドンゴンが声を荒げた。
その横では、
「はぁ……」
と、チャク・シウが、すこし呆れた顔でため息をしていながら。
「ん? ちょっと、もらって、さ?」
パク・ソユンが、「え? 何か悪いことした?」の顔して、ナチュラルにとぼけると、マー・ドンゴンが、
「ちょっともらってさ、じぇねぇってんだよ!! まったく!!」




