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【水の匣】  作者: 石田善二郎
第二章 現場調査

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6/13

6 ――何で? 箱にする必要なんか、あるんですかね?




          (1)




 ふり返ること――

 時間はすこし戻って、昼、事件のあった落水庭園のある別荘へ、警察たちは捜査にきていた。

 コンクリートの水平床と、落水流水の織りなす現代美の庭園。

 その水辺を中心として、点在するのは、五つの、【水の匣】。

 また、そこから、別荘の入り口のほうへ向かう。

 ガレージから、おそらく、車で逃げようとしたのだろう――、カップルと思しき男女が、ひとつの水の匣に閉じ込められていた。

 そんな、水の匣の数々を目の当たりにして、

「うお、ぉ……」

 思わず、捜査員の声を漏らし、

「不謹慎ですが……、これが、ガイシャ、本物の人間でなければ……、何かのアート作品にも見えますね」

 と、捜査員の女が、言った。

 まあ、“そのとおり”である。

 それら、水の匣に閉じ込められた、ガイシャたち――

 閉じ込められた時こそ、おそらく苦しんでいたものの、水の匣になった今となっては、その表情は穏やかに、かつ美しく、まるで美術作品のようでもあった。

 明鏡止水という言葉があるが、そんな、鏡のような表面の水の匣。

 その中で、

 ――ゆ、らぁ……

 と、ガイシャたちは、わずかに揺れながら、美しくも佇んでいたのだ。

 そうして、刑事、捜査員たちが水の匣をまじまじと見ているところへ、


 ――カツッ……、カツッ……


 と、石畳、コンクリート床の足音ともに、“とある”、ふたりの刑事たちが近づいた。

 某、戦う体育教師に似た、いかつくガタイのいい男こと、警部のマー・ドンゴン。

 そして、その隣はというと、このマー・ドンゴンとのペアは、まるで野獣とイケメンとでもいうべきか――? パーマのかかったミドルヘアに、細いインテリメガネの、すこし韓流イケメン風のクールそうな相方、チャク・シウ。 

 このふたりも、若干でいど異能力を使うことができる人間である。

 そのせいか、このような、奇妙な事件を調べさせられることが多い。

 ただ、それでも、

「まったく……、何なんだ? この、【匣】は……」

 と、マー・ドンゴンが、険しい顔をし、

「ええ……」

 と、チャク・シウが、クールな表情を動かさずに答えたように、一般刑事たちにとってはもちろん、このふたりにとっても、“謎”な事件だった。

【水の匣】事件――

 被害者たちは皆、謎の、水の匣に閉じ込められていた。

“そういった事件”が、ここ韓国と、いまのところ、お隣は日本と中国で、散発的に起きていたのだ。

 ここ、韓国では、この落水庭園以外にも、ソウル市内の、滝の美しく見える人気スポットのデッキに“出現”したり、リゾート内のカジノの入り口に、現代アートのように飾れていたり、あるいは、釜山の、海の美しく眺めるスポットなどなど。

 日本のケースでは、トロッコ列車で知られる黒部峡谷、その渓流の水辺にて、

幾つかの“匣”が、黒部の大自然と調和するかたちで――

 またあるいは、東京は、池袋のサンシャインシティにて、空中庭園に、インスタレーション作品のように出現したり、あとは、古都、京都など。

 それから、中国でも北京や、杭州……、そして、サイバーパンク感のある、高低差のえぐい、まさに山城と呼ぶにふさわしい中国のビッグアップルこと、重慶などでも、“匣”は出現していた。

 なお、いずれの現場にしても、“匣”に、ガイシャが閉じ込められているのは共通であるが――

 それは、さておいて、

「うーん……」

 と、マー・ドンゴンが、水の匣を前にして唸っていると、

「あっ、マー警部」

「お疲れ様です」

 と、刑事たちから挨拶される。

「ん? おう、」

 と、マー・ドンゴンは、答える。

 また、ある刑事が、

「最近は、黒魔術も勉強されているそうで?」

「ああ”? 何の、ことだ? 黒魔術なんか、俺は、使ってねぇぞ?」

 と、マー・ドンゴンが、まさに「何だ、そりゃ?」の顔をし、

「誰か、人違いなのでは?」

 と、チャク・シウが、添えた。

 まあ、何かの人物と間違えているのかもしれない。

 そのように、話しながらも、


「――こいつが、例の、【水の匣】ってのか?」


 と、マー・ドンゴンが、改めて【水の匣】を、指さしてみせた。

「ええ……」

 先に現場にいた、捜査員が答える。

 目の前に、異様な存在感で佇む、水の匣。

 鏡面のように、完全に静止した水の表面――

「これは、ほんとうに……、全部、“水”……、なんだよな?」

 マー・ドンゴンが、聞いた。

 捜査員が、薄いゴム手袋をしながら、

「ええ……。触れると、分かりますが……」

 と、言いながら、その指先を

 ――ぽ、ちゃんっ……

 と、関節ひとつ分だけ、水の中に入れる。

 小さな波紋が、匣の表面に広がる。

「これは、何か、水槽のように、“入れもの”があるわけでもない……。ほんとうに、不思議なことに……、この表面も、純粋に、水なのです」

 捜査員が、続けて言った。

「ほ、ぉ……」

 マー・ドンゴンが、眉をよせたまま、

「……」

 と、チャク・シウがインテリ眼鏡の奥ですこし目を細め、水の匣を、じっ……と見る。

 まさに、水の【匣】―― 

 匣によっては、直方体だったり、立方体だったりするが、その、“辺”というのは、まるでミクロン単位のズレもないほどに正確な、真の直線でできた辺。

 そんな【匣】の中には、まるでブランドのディスプレイだったり、あるいはアート作品のように、“ガイシャ”の姿が……

 これは、いったい、何なのか――?

 そして、何かアクリルだったりなどのケースもなしに、どうやって? 直方体であれ立方体であれ、この、“匣という形”を保っているのか――?

 そんな“謎”を、皆が抱く中で、

「しかし……」

 と、マー・ドンゴンのそばにいるチャク・シウが、口をひらいた。

「あ、あ……?」

 マー・ドンゴンと、

「う――?」

「ん……?」

 と、ほかの刑事、捜査員たちが、

 ――ピ、クリ……

 と、反応する。

 そうして、注目のあつまる中、


「――何で? 箱にする必要なんか、あるんですかね?」


 と、チャク・シウが、その続きを言った。

「「「「「……」」」」」

 皆が、ゆるり……と向きながら、沈黙をした。

 そして、

 「「「おい? いま、何つった?」」」

 マー・ドンゴンをはじめ、刑事たちが声をそろえた。

「……?」

 チャク・シウは、一瞬、すこしキョトンとしながら、

「――と、言いますのは?」

 と、その表情を変えずに、怪訝な様子で聞いたものの、


 …………、…………


 と、しーん……として、その答えは返ってこなかった。

 ただ薄っすらと、日本の、とある合宿所をテーマにした映像作品が思い浮かびながら……

 そんな、謎の空気が流れる中


 ――ジャン、ジャカ♪ ジャンジャカ♪ 


 と、突然に――、現場に、“音楽”が流れ始めたのだ。

「あ、ん――?」

 マー・ドンゴンが、目を細めて反応し、

「――?」

 と、チャク・シウも、相変わらず、その表情を変えずに、音楽のほうに振り向く。

 すると、

 ――タッタカ、タッタカ♪ タッタカ、タッタカ――♪

 と、刑事、鑑識たちが、あろうことか――!?

「うっ――!?」

「うぉ!?」

「なっ、何してるんで――、へ――!? か、身体が勝手に!?」

 と、女が叫んだように、身体が操られているかのように踊り出した!!

 まるで、プロモーションの、映像作品のように踊る刑事たち!!

 ある者は、水の匣を調べながらもポーズをきめたり――、また、ある者は、立ち入り禁止のテープを豪快に、パフォーマンスしたりするという!!

 そんな、騒々しくも、不可思議なことが起きているのを前にして、

「……」

 チャク・シウが、眼鏡を、クイッとあげなおし、

「ああ”……?」

 と、マー・ドンゴンがすでにしかめっ面になった表情から、さらに露骨に眉をひそめる。

 ふたりの様子は、「また、か……」と云わんかのように、どこか慣れた様子があった。

 そして、

 ――タッタカ、タッタカ♪

 と、ステップが聞こえると、


「おい!! ロウン!!」


 と、マー・ドンゴンが、叫んで名前を呼んだ。

 すると、

 ――タッタカ、タッタカ――♪ 

 と、軽快な、乗馬のようなステップとともに、丸サングラスをしたSPY探偵団リーダーこと、カン・ロウンが姿を現した。

「ああ? マーさん、久しぶりだな」

 カン・ロウンが、返事した。

 こちらも、慣れた様子だった。

「ああ……、貴方、ですか」

 チャク・シウと、

「ったく、また、てめぇか」

 と、マー・ドンゴンが、呆れたように言った。

 そこへ、さらに、


「――あっ? ロウンだけじゃ、ないんだけど」


「う、ん――?」

「あ、ん……?」

 と、続いて聞こえた女の声に、チャク・シウと、マー・ドンゴンが順に反応した。

 そうして、

 ――

 と、こんどは、フラメンコのような情熱的なステップで、モデル美女が――、すなわち、パク・ソユンが現れた。

「あ、ら……?」

 これには、チャク・シウも、すこし驚き、

「ああ”? 何だ? “お前も”、いんのかよ? ソユン」

 と、マー・ドンゴンが聞いた。

「うん。いちゃ、悪い?」

「てか、お前も、日中は、暇なのかよ?」

「ああ、今日は、たまたま、よ。仕事が空いて、オフで」

 と、パク・ソユンが答える。

「て言っても、明日から、中国の、蘇州のほうに行くんだけど」

「DJ、ですか?」

 と、チャク・シウが聞くと、

「ぽよ」

「「だから、どっちの『ぽよ』だよ」ですか」

 と、パク・ソユンの『ぽよ』に、ふたりの刑事がつっこんだ。

 つっこみつつ、

「まあ、だいたいは、肯定の『ぽよ』でいいんだろうが……」

 と、マー・ドンゴンが「やれやれ」と言いながらも、

「――というか、毎回、言ってっだろ! うちの人間、わざわざ、てめぇの変な術に巻き込むんじゃねぇって! ロウン」

 と、ここで改めて、異能力を使って現場に乱入してきたカン・ロウンに文句を言った。

「まあ、そうじゃないと、入れてくれないじゃないか」

「けっ、」

 と、あまり悪びれないカン・ロウンに、マー・ドンゴンが舌打ちした。

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