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【水の匣】※書き直し  作者: 石田善二郎
第一章 落水庭園

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5/12

5 お酒は、絶対やめた


 そうして、しばらくして、

「はぁ……、はぁ……」

 ドン・ヨンファは、まだ少し息が乱れながらも、落ち着く。

 席について、パク・ソユンのプロモ動画を、ふたたび皆で視る。

 画面は、また、サーフィンの、波に乗る前のパク・ソユンを映し出して、

「う、ん――?」

 と、ドン・ヨンファが、気がついた。

「これは、アレだね? ナザレ、でしょ?」

「ぽよ」

「どっちの、『ぽよ』だよ……。まあ、ナザレで、いいんだね?」

 と、相変わらず『ぽよ』で答えるパク・ソユンに、ドン・ヨンファが「やれやれ」と言う。

「てか、まあ、ナザレしかないでしょ」

 と、パク・ソユン。

 爽やかな青い大波。

 白亜の崖の岬に築かれた、石造の構造物。

 そして、石造の土台に、ちょこんと設けられた赤い灯台と思しき建築物。

 まあ、ナザレだろう。

 そうしつつ、動画は少し進んで、

「というか……、この、画面の切り替わるCG、いいよね」

 と、ドン・ヨンファが言って、

「う、ん――?」

 と、パク・ソユンが聞き返す相づちをした。

 画面に映るのは、ビッグウェーブを滑り終えてから、崩れる水と、泡が――、大小の、ブルーハワイのような青いクールなキューブになって、次へと切り替わる際のCG演出だった。

 それを見ながら、

「しかし……、水の、キューブ、ねぇ……」

 と、ドン・ヨンファは、“何かキーワード”が、頭に連想しかかった。

 ただ、それを自分でスルーしながら、

「ああ? そういえば、なんだけど、」

 と、ドン・ヨンファは、それよりも先に何かを思い出した。

 そのまま、


 ――スッ――


 と、取り出してみせた、“ナニカ”。

「う、ん――?」

 丸サングラスのカン・ロウンが、反応し、

「あ、ん?」

 と、キム・テヤンも、続けて怪訝な顔をした。

 そして、

「ぽよ」

 と、パク・ソユンが、一番最後に、気の抜けた反応をするという。

 皆が、注目した先、

「何でい? その、グラス?」

 と、キム・テヤンが、しかっめ面しながら指さしたのは、まさに匣というかキューブとでもいうべきか――、真四角の、ロックグラスだった。

 なお、その面には、まるで、水面の波紋が立つような加工が施されており、中を満たせば、“水の匣”のようにもみえるだろう。

「ああ、ちょっと、僕の知り合いのデザイナーが、ね? 試作品を、くれてね」

 ドン・ヨンファが答える。

 財閥のボンボンで、なおかつ、道楽的に実業家をやっており、さまざまな方面に顔が広いというだけのことはある。

「ほら、ソユン、使いなよ」

 と、ドン・ヨンファが、その四角いグラスを、

 ――コ、ン……

 と、置いてやる。

「はぁ、」

 パク・ソユンが、気の抜けた相づちしながら、受け取る。

「お、っ?」

 それを見て、キム・テヤンが、何か思いついたようで、

 ――ザッ、ザッ、

 と、何やら氷の塊を切ったり、削ったりしはじめた。

 すこしして、

 ――スッ――

 と、取り出してみせたのは、ちょうど、四角いグラスに収まる大きさで、こちらも、まさしく立方体の形をした“氷”だった。

 それを、グラスに入れると、すっぽりと収まった。

「ほら? ロックだろぉ?」

 キム・テヤンが、冗談っぽく言うと、

「は? これじゃ、“水”が飲めない、ぽよ」

 と、パク・ソユンが『ぽよ』をつけて、グラスを手にして見せる。なお、もう片方の手は、おもむろに焼酎の瓶を手にしながら。

「いや、水じゃねぇだろ。お前が、飲むんは、よぉ」

「何? その、“ウォッカを『水』って言い張る人たち”を、見るみたいな目で」

「てか、まだ、一本開けるの? ソユン」

 と、ドン・ヨンファが、少しだけの驚きと呆れを交えて、指さすと、

「はぁ、だから、言ってんじゃん? お酒は、絶対やめたって」

「「はいはい、また出た。その、『お酒は絶対やめた』ネタ」」

 と、まるで、タバコを吸いながら『タバコは絶対やめた』と答える会見のようなパク・ソユンの言葉に、ドン・ヨンファとキム・テヤンが一緒につっこんだ。

 そのようにしながら、

「まあ、とは言え――」

 と、キム・テヤンが、前置きのように言いながら、

 ――ゴソ、ゴソ……

 と、何かを、取り出しはじめた。

「ぽ、よ?」

 焼酎を入れようとしていたパク・ソユンが、手を止める。

 そして、

「すこし、ここらで箸休めと、酔い覚ましでもしとけよ」

 と言いながら、

 ――スッ……

 と、キム・テヤンが取り出したのは、まさに冷たいスイーツと、アイス。

 四角くキューブ状の、色とりどりのシャーベットだったり、爽やかに冷やされたゼリーのスイーツ……、それから、同じくキューブ状の、キンキンに冷えた、こちらリンツ・チョコのように色とりどりのチョコレートだった。

「おおっ、」

 と、あまり喋っていない、リーダーのカン・ロウンが思わず感嘆の声をあげ、

「こんなものまで、あるんだ」

 と、ドン・ヨンファが、それに続き、

「確かに、“こんなの”まで出てくるんだ。ただの、チジミ屋台のオッサンだと思ってたわ」

「けっ、」

 と、キム・テヤンが、“こんなの”呼ばわりに、舌打ちして答える。

 続けて、流れるように、

 ――トポ、トポ……

 と、氷の入ったグラスにコーヒを注ぎ、

「ほら、アイスコーヒーだ」

「はぁ、」

 と、そのまま、アイスコーヒーにしてやった。

 もはや、どんな屋台か、というところであるが……


 そうして、四角いグラスのアイスコーヒーに、冷たいキューブ状のスイーツと、四角づくしになりながら、

「――それで、“四角”が沢山でてきたついでに、そろそろ話そうか?」

 と、リーダーの、カン・ロウンが前置きした。

「ん……?」

 キム・テヤンと、

「う、ん?」

 と、ドン・ヨンファが反応する。

「今日、自分と……、たまたま、ソユンのふたりで、マーさんたちの現場に、調べに行ってきてね」

「ああ、」

 と、キム・テヤンがピンときて、

「ん? ソユンも?」

「うん。日中、ヒマだったし」

 と、聞いたドン・ヨンファに、パク・ソユンが答える。

「マーたちの現場って、例の、“アレ”か?」

 察したように聞く、キム・テヤンに、

「ああ。例の、“水の匣事件”だ」

 と、カン・ロウンが答えた。

【水の匣事件】――

“とあるキーワード”が、出てきた。

 いちおう不可思議な事件を調べる探偵サークルのメンバーとして、皆それぞれ、この事件の名は知っていた。

「水の匣って……、ほんとうに、水だけでできた、“匣”だったのかい?」

 ドン・ヨンファが、聞いた。

「ああ」

 カン・ロウンと、

「そうよ」

 と、パク・ソユン順に答える。

「どうして……、何か、水槽のような、ガラスやアクリルのケースなど無しに、水だけで、“匣の形”をたもてるのか――? これが、大きな謎だな」

 カン・ロウンが言うと、

「いや、それよりも、大きな謎があるわ――」

 とここで、パク・ソユンが意味深に間に入って、

 

「なんで? 箱なんかにする必要、あるの――? ぽよ」


 と、スバッ――と、セリフをキメたように言った。

 聞いて、キム・テヤンとドン・ヨンファが、

「「は――? いま、何つった? お前?」」

「は? 何故ぽよ?」

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