5 お酒は、絶対やめた
そうして、しばらくして、
「はぁ……、はぁ……」
ドン・ヨンファは、まだ少し息が乱れながらも、落ち着く。
席について、パク・ソユンのプロモ動画を、ふたたび皆で視る。
画面は、また、サーフィンの、波に乗る前のパク・ソユンを映し出して、
「う、ん――?」
と、ドン・ヨンファが、気がついた。
「これは、アレだね? ナザレ、でしょ?」
「ぽよ」
「どっちの、『ぽよ』だよ……。まあ、ナザレで、いいんだね?」
と、相変わらず『ぽよ』で答えるパク・ソユンに、ドン・ヨンファが「やれやれ」と言う。
「てか、まあ、ナザレしかないでしょ」
と、パク・ソユン。
爽やかな青い大波。
白亜の崖の岬に築かれた、石造の構造物。
そして、石造の土台に、ちょこんと設けられた赤い灯台と思しき建築物。
まあ、ナザレだろう。
そうしつつ、動画は少し進んで、
「というか……、この、画面の切り替わるCG、いいよね」
と、ドン・ヨンファが言って、
「う、ん――?」
と、パク・ソユンが聞き返す相づちをした。
画面に映るのは、ビッグウェーブを滑り終えてから、崩れる水と、泡が――、大小の、ブルーハワイのような青いクールなキューブになって、次へと切り替わる際のCG演出だった。
それを見ながら、
「しかし……、水の、キューブ、ねぇ……」
と、ドン・ヨンファは、“何かキーワード”が、頭に連想しかかった。
ただ、それを自分でスルーしながら、
「ああ? そういえば、なんだけど、」
と、ドン・ヨンファは、それよりも先に何かを思い出した。
そのまま、
――スッ――
と、取り出してみせた、“ナニカ”。
「う、ん――?」
丸サングラスのカン・ロウンが、反応し、
「あ、ん?」
と、キム・テヤンも、続けて怪訝な顔をした。
そして、
「ぽよ」
と、パク・ソユンが、一番最後に、気の抜けた反応をするという。
皆が、注目した先、
「何でい? その、グラス?」
と、キム・テヤンが、しかっめ面しながら指さしたのは、まさに匣というかキューブとでもいうべきか――、真四角の、ロックグラスだった。
なお、その面には、まるで、水面の波紋が立つような加工が施されており、中を満たせば、“水の匣”のようにもみえるだろう。
「ああ、ちょっと、僕の知り合いのデザイナーが、ね? 試作品を、くれてね」
ドン・ヨンファが答える。
財閥のボンボンで、なおかつ、道楽的に実業家をやっており、さまざまな方面に顔が広いというだけのことはある。
「ほら、ソユン、使いなよ」
と、ドン・ヨンファが、その四角いグラスを、
――コ、ン……
と、置いてやる。
「はぁ、」
パク・ソユンが、気の抜けた相づちしながら、受け取る。
「お、っ?」
それを見て、キム・テヤンが、何か思いついたようで、
――ザッ、ザッ、
と、何やら氷の塊を切ったり、削ったりしはじめた。
すこしして、
――スッ――
と、取り出してみせたのは、ちょうど、四角いグラスに収まる大きさで、こちらも、まさしく立方体の形をした“氷”だった。
それを、グラスに入れると、すっぽりと収まった。
「ほら? ロックだろぉ?」
キム・テヤンが、冗談っぽく言うと、
「は? これじゃ、“水”が飲めない、ぽよ」
と、パク・ソユンが『ぽよ』をつけて、グラスを手にして見せる。なお、もう片方の手は、おもむろに焼酎の瓶を手にしながら。
「いや、水じゃねぇだろ。お前が、飲むんは、よぉ」
「何? その、“ウォッカを『水』って言い張る人たち”を、見るみたいな目で」
「てか、まだ、一本開けるの? ソユン」
と、ドン・ヨンファが、少しだけの驚きと呆れを交えて、指さすと、
「はぁ、だから、言ってんじゃん? お酒は、絶対やめたって」
「「はいはい、また出た。その、『お酒は絶対やめた』ネタ」」
と、まるで、タバコを吸いながら『タバコは絶対やめた』と答える会見のようなパク・ソユンの言葉に、ドン・ヨンファとキム・テヤンが一緒につっこんだ。
そのようにしながら、
「まあ、とは言え――」
と、キム・テヤンが、前置きのように言いながら、
――ゴソ、ゴソ……
と、何かを、取り出しはじめた。
「ぽ、よ?」
焼酎を入れようとしていたパク・ソユンが、手を止める。
そして、
「すこし、ここらで箸休めと、酔い覚ましでもしとけよ」
と言いながら、
――スッ……
と、キム・テヤンが取り出したのは、まさに冷たいスイーツと、アイス。
四角くキューブ状の、色とりどりのシャーベットだったり、爽やかに冷やされたゼリーのスイーツ……、それから、同じくキューブ状の、キンキンに冷えた、こちらリンツ・チョコのように色とりどりのチョコレートだった。
「おおっ、」
と、あまり喋っていない、リーダーのカン・ロウンが思わず感嘆の声をあげ、
「こんなものまで、あるんだ」
と、ドン・ヨンファが、それに続き、
「確かに、“こんなの”まで出てくるんだ。ただの、チジミ屋台のオッサンだと思ってたわ」
「けっ、」
と、キム・テヤンが、“こんなの”呼ばわりに、舌打ちして答える。
続けて、流れるように、
――トポ、トポ……
と、氷の入ったグラスにコーヒを注ぎ、
「ほら、アイスコーヒーだ」
「はぁ、」
と、そのまま、アイスコーヒーにしてやった。
もはや、どんな屋台か、というところであるが……
そうして、四角いグラスのアイスコーヒーに、冷たいキューブ状のスイーツと、四角づくしになりながら、
「――それで、“四角”が沢山でてきたついでに、そろそろ話そうか?」
と、リーダーの、カン・ロウンが前置きした。
「ん……?」
キム・テヤンと、
「う、ん?」
と、ドン・ヨンファが反応する。
「今日、自分と……、たまたま、ソユンのふたりで、マーさんたちの現場に、調べに行ってきてね」
「ああ、」
と、キム・テヤンがピンときて、
「ん? ソユンも?」
「うん。日中、ヒマだったし」
と、聞いたドン・ヨンファに、パク・ソユンが答える。
「マーたちの現場って、例の、“アレ”か?」
察したように聞く、キム・テヤンに、
「ああ。例の、“水の匣事件”だ」
と、カン・ロウンが答えた。
【水の匣事件】――
“とあるキーワード”が、出てきた。
いちおう不可思議な事件を調べる探偵サークルのメンバーとして、皆それぞれ、この事件の名は知っていた。
「水の匣って……、ほんとうに、水だけでできた、“匣”だったのかい?」
ドン・ヨンファが、聞いた。
「ああ」
カン・ロウンと、
「そうよ」
と、パク・ソユン順に答える。
「どうして……、何か、水槽のような、ガラスやアクリルのケースなど無しに、水だけで、“匣の形”をたもてるのか――? これが、大きな謎だな」
カン・ロウンが言うと、
「いや、それよりも、大きな謎があるわ――」
とここで、パク・ソユンが意味深に間に入って、
「なんで? 箱なんかにする必要、あるの――? ぽよ」
と、スバッ――と、セリフをキメたように言った。
聞いて、キム・テヤンとドン・ヨンファが、
「「は――? いま、何つった? お前?」」
「は? 何故ぽよ?」




