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【水の匣】※書き直し  作者: 石田善二郎
第一章 落水庭園

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4/12

4 □□□□□ □ □ □□  □ □□




          (3)




 場面は変わって――

 南欧の、とある海岸でのこと。


 ――カ、ァーンッ……!!


 と、太陽の、強い日差しが燦々とする下。

 スカイブルーの海が、 


 ――グ、ワァァンッ……!!!

 

 と、大きくせりあがった!!

 2、30メートルと、まさにビルのような高さの大波!!

 すなわち――

 ここは、大波に挑むサーファーたちの聖地、ポルトガルの、ナザレである――!!

 大西洋の深海峡谷や、海岸線の形など、様々な要因がかなさることで、まれな大波が発生する一大スポットとなっていた。

 そして、


 ――ゴゴゴ、ゴゴォッ……!!!


 と、今まさに、最高点まで上昇しようとするビッグウェーブ!!

 それを、


 ――ズ、シャァァッ!!!


 と、切り裂くかのごとく!! サーフボードで滑る、女の姿があった!!

 白のカチューシャの目立つ長い黒髪を結った、キリッとした美人顔。

 そして、まさに、モデルというべきスタイルの女――

 実際にモデルとしても活躍している、韓国人DJのパク・ソユンは、この大波に挑んでいたのだ。


 ――グ、ワンッ――!!!

 

 と、水の“うねり”は最高点に達する!!

 そこから、


 ――ザッ、パァァン――!!!


 と、その形を崩しながら!! パイプのように巻いていく!!

 それを、

「……」

 と、パク・ソユンは眉一つ動かさずに、動じることなく冷静にして、サーフボードで滑り続ける。

 その、ビッグウェーブの頂点から崩れるループと――、ひとつ間違えれば甚大な水に飲みこまれかねない、まさに、極限の緊迫の連続だ――!!

 すると、そこへ、



「――おい」



 とここで、あろうことか――?

 これは、天からの声なのか? どこからか、唐突に男の声がした。

「ん――? 何?」

 パク・ソユンが、酒屋のテーブルかカウンターにいるかのように、気だるそうに、“その声”に答えると、

「――全部、同じ顔じゃねぇーか」

 と、ふたたび、中年の男のつっこむ声が、こんどはテーブル越しの、“そこ”にいるかのように返ってきた。

 すなわち――

 

 □□□□□ □ □ □□  □ □□

 □ □□ □□  □  □ □ □ □

 □□□□ □ □  □    □ 

 

 ――と、大波のループの崩れた、“水の塊と泡が混じる”のが、まるで、CGアートのように、“水のキューブ”群に変化する演出のように、場面の変わること――

 夕暮れの、日が落ちたころのこと、

 ――ジュワーッ……

 と、鉄板の音と、香ばしい匂いの漂う、ソウル市内の屋台街のことである。

 チジミに、焼いた海鮮に、チキンやトッポギ。

 キムチに、ナムル。

 キンキンに冷えたビールに、焼酎やマッコリ酒。

 また、酒の中には、洒落たシャーベット酒も混じる

 すなわち――

 ナザレで大波に乗っていたパク・ソユンと、天の声としてつっこんだ屋台のオッサンことキム・テヤンは、カウンター越しに、酒を交わしていた。

 まあ、これは、異世界間を移動するように、瞬間移動したわけではない。

 彼らは、置かれた一台のスマホの、画面を見ていたのだ、

 そこに映るのが、まるで、プロモ動画のように――、まあ、実際にプロモーション動画なのだが、このモデル兼DJのパク・ソユンが、大波でのサーフィンや、パルクーリング、はたまたクリフダイビングなど、さまざまなエクストリーム競技に挑戦する模様を、編集した動画だった。

 そして、屋台にいたのは、パク・ソユンとキム・テヤンだけではなかった。

 キノコヘアに、黄色シャツの、ドン・ヨンファ。

 それから、某億再生プロモ動画のミュージシャンに似た、小太りの丸サングラス男のカン・ロウン。

 すなわちの、すなわち――

 SPY探偵団の四人は、このキム・テヤンの屋台に集まって、酒を飲んでいるわけである。

 それで、ふたたび、パク・ソユンの動画にフォーカスする。

「――で? 全部、同じ顔なわけ?」

 パク・ソユンが聞くと、

「ああ、全部、同じ顔じゃねーか」

 と、キム・テヤンが、まだ再生する動画を指しながら答える。

 なお、そのプロモ動画のコメント欄には、

『何か、あまり、表情が変わってないように見える……』

『顔だけが、躍動感が無い』

『パフォーマンスに極限に集中しているから、ずっと、無表情なのかな?』

『免許証の写真みたいな顔で、緊張感なくて草』

『DJやってる時と全然違うんだけど! 何なんだろ?』

 と、確かに、それを裏付けるコメントが散見される。

「ぽよ」

 と、パク・ソユンが言う。

「だから、『ぽよ』じゃなくて、よ……」

 キム・テヤンが、「また、こいつは……」と云わんかの顔で呆れると、

「てか? 『全部、同じ顔じゃねぇーか』って、何か、こち亀の、『全部同じじゃないですか!』みたいじゃない」

「だから、“そういうこと”だってんだよ。そう、見えっからだろ」

「いや、よく見るぽよ」

 と、パク・ソユンが、スマホを操作して、

「波に乗る前の、緊張して、こわばる表情……。パイプをくぐる時の、極限まで集中した表情……。それから、フィニッシュしたあとの、解放感あふれる表情……。全部、違うじゃない」

 と、スクショを撮りながら、並べて見せた。

 ただ、それはコンマ数ミリ程度の誤差のようにしか変化がなく、

「けっ……、徹頭徹尾、ほぼ全部同じ表情だろが。まるで、免許証か、パスポートの写真みてぇによ」

 キム・テヤンが舌打ちし、

「僕も、そう思う」

 と、キノコヘアのドン・ヨンファが、横から覗き込んできた。

 それを聞いて、

「は? 何が、『僕も、しょー思う』、よ?」

 と、パク・ソユンが、

 ――ピ、クリ――

 と、反応した。

「へっ――?」

 ドン・ヨンファが、間の抜けた声を出した。

 次の瞬間、


 ――コッ、ポォッ――!!


「うぐッ――!?」

 と、気づいたときには――、パク・ソユンが水の入ったコップで、ドン・ヨンファの鼻口を塞いでいた。

「う”っ!? う、ごごォッ――!!」

 ドン・ヨンファが、パニクったように、鼻口を塞がれたまま叫ぼうとする。

 もがくドン・ヨンファを、

「ねぇ? 知ってる? 人間って、さ? コップ一杯の水で溺れることもあるの――」

「ゴ、ボッ――!! お、溺れ”ッ――、溺れる”ッ!!」

「ねぇ、知ってる? ジョジョの、荒木飛呂彦も、さ? コップ一杯の水ので、溺れそうになったこと、あるの――」

 と、パク・ソユンが

 ――グ、ワシッ――!!

 と、拘束しつつ、水の入ったコップで強引に塞ぎ続ける。

「ゴ、ボボッ――!! だッ、ら、ライd――、誰か助けッ――!! て、テヤ、ロウン!! 助ッ、けてッ!!」

 何とか開いたコップの隙間から、ドン・ヨンファが助けを求める。

「おいッ!! その辺でやめとけって!! う、るせぇんだよッ!! てめぇらは、よぅ!!」

 キム・テヤンが、いい加減にしろと叫んだ。

 と、ここでようやく、


 ――ポ、ン……


 と、パク・ソユンは、ドン・ヨンファをコップから解放してやった。

 ――フッ……

 と、糸の切れたように、ドン・ヨンファは力が抜けるなり、

 ――ド、サッ……

 と、そのまま、膝をついて崩れた。

「う、ぐっ……、ゲホ、ゲホッ――!! ゲホッ!! ゲホ!!」

 ドン・ヨンファは咳きこんだ。

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