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(3)
場面は変わって――
南欧の、とある海岸でのこと。
――カ、ァーンッ……!!
と、太陽の、強い日差しが燦々とする下。
スカイブルーの海が、
――グ、ワァァンッ……!!!
と、大きくせりあがった!!
2、30メートルと、まさにビルのような高さの大波!!
すなわち――
ここは、大波に挑むサーファーたちの聖地、ポルトガルの、ナザレである――!!
大西洋の深海峡谷や、海岸線の形など、様々な要因がかなさることで、まれな大波が発生する一大スポットとなっていた。
そして、
――ゴゴゴ、ゴゴォッ……!!!
と、今まさに、最高点まで上昇しようとするビッグウェーブ!!
それを、
――ズ、シャァァッ!!!
と、切り裂くかのごとく!! サーフボードで滑る、女の姿があった!!
白のカチューシャの目立つ長い黒髪を結った、キリッとした美人顔。
そして、まさに、モデルというべきスタイルの女――
実際にモデルとしても活躍している、韓国人DJのパク・ソユンは、この大波に挑んでいたのだ。
――グ、ワンッ――!!!
と、水の“うねり”は最高点に達する!!
そこから、
――ザッ、パァァン――!!!
と、その形を崩しながら!! パイプのように巻いていく!!
それを、
「……」
と、パク・ソユンは眉一つ動かさずに、動じることなく冷静にして、サーフボードで滑り続ける。
その、ビッグウェーブの頂点から崩れるループと――、ひとつ間違えれば甚大な水に飲みこまれかねない、まさに、極限の緊迫の連続だ――!!
すると、そこへ、
「――おい」
とここで、あろうことか――?
これは、天からの声なのか? どこからか、唐突に男の声がした。
「ん――? 何?」
パク・ソユンが、酒屋のテーブルかカウンターにいるかのように、気だるそうに、“その声”に答えると、
「――全部、同じ顔じゃねぇーか」
と、ふたたび、中年の男のつっこむ声が、こんどはテーブル越しの、“そこ”にいるかのように返ってきた。
すなわち――
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――と、大波のループの崩れた、“水の塊と泡が混じる”のが、まるで、CGアートのように、“水のキューブ”群に変化する演出のように、場面の変わること――
夕暮れの、日が落ちたころのこと、
――ジュワーッ……
と、鉄板の音と、香ばしい匂いの漂う、ソウル市内の屋台街のことである。
チジミに、焼いた海鮮に、チキンやトッポギ。
キムチに、ナムル。
キンキンに冷えたビールに、焼酎やマッコリ酒。
また、酒の中には、洒落たシャーベット酒も混じる
すなわち――
ナザレで大波に乗っていたパク・ソユンと、天の声としてつっこんだ屋台のオッサンことキム・テヤンは、カウンター越しに、酒を交わしていた。
まあ、これは、異世界間を移動するように、瞬間移動したわけではない。
彼らは、置かれた一台のスマホの、画面を見ていたのだ、
そこに映るのが、まるで、プロモ動画のように――、まあ、実際にプロモーション動画なのだが、このモデル兼DJのパク・ソユンが、大波でのサーフィンや、パルクーリング、はたまたクリフダイビングなど、さまざまなエクストリーム競技に挑戦する模様を、編集した動画だった。
そして、屋台にいたのは、パク・ソユンとキム・テヤンだけではなかった。
キノコヘアに、黄色シャツの、ドン・ヨンファ。
それから、某億再生プロモ動画のミュージシャンに似た、小太りの丸サングラス男のカン・ロウン。
すなわちの、すなわち――
SPY探偵団の四人は、このキム・テヤンの屋台に集まって、酒を飲んでいるわけである。
それで、ふたたび、パク・ソユンの動画にフォーカスする。
「――で? 全部、同じ顔なわけ?」
パク・ソユンが聞くと、
「ああ、全部、同じ顔じゃねーか」
と、キム・テヤンが、まだ再生する動画を指しながら答える。
なお、そのプロモ動画のコメント欄には、
『何か、あまり、表情が変わってないように見える……』
『顔だけが、躍動感が無い』
『パフォーマンスに極限に集中しているから、ずっと、無表情なのかな?』
『免許証の写真みたいな顔で、緊張感なくて草』
『DJやってる時と全然違うんだけど! 何なんだろ?』
と、確かに、それを裏付けるコメントが散見される。
「ぽよ」
と、パク・ソユンが言う。
「だから、『ぽよ』じゃなくて、よ……」
キム・テヤンが、「また、こいつは……」と云わんかの顔で呆れると、
「てか? 『全部、同じ顔じゃねぇーか』って、何か、こち亀の、『全部同じじゃないですか!』みたいじゃない」
「だから、“そういうこと”だってんだよ。そう、見えっからだろ」
「いや、よく見るぽよ」
と、パク・ソユンが、スマホを操作して、
「波に乗る前の、緊張して、こわばる表情……。パイプをくぐる時の、極限まで集中した表情……。それから、フィニッシュしたあとの、解放感あふれる表情……。全部、違うじゃない」
と、スクショを撮りながら、並べて見せた。
ただ、それはコンマ数ミリ程度の誤差のようにしか変化がなく、
「けっ……、徹頭徹尾、ほぼ全部同じ表情だろが。まるで、免許証か、パスポートの写真みてぇによ」
キム・テヤンが舌打ちし、
「僕も、そう思う」
と、キノコヘアのドン・ヨンファが、横から覗き込んできた。
それを聞いて、
「は? 何が、『僕も、しょー思う』、よ?」
と、パク・ソユンが、
――ピ、クリ――
と、反応した。
「へっ――?」
ドン・ヨンファが、間の抜けた声を出した。
次の瞬間、
――コッ、ポォッ――!!
「うぐッ――!?」
と、気づいたときには――、パク・ソユンが水の入ったコップで、ドン・ヨンファの鼻口を塞いでいた。
「う”っ!? う、ごごォッ――!!」
ドン・ヨンファが、パニクったように、鼻口を塞がれたまま叫ぼうとする。
もがくドン・ヨンファを、
「ねぇ? 知ってる? 人間って、さ? コップ一杯の水で溺れることもあるの――」
「ゴ、ボッ――!! お、溺れ”ッ――、溺れる”ッ!!」
「ねぇ、知ってる? ジョジョの、荒木飛呂彦も、さ? コップ一杯の水ので、溺れそうになったこと、あるの――」
と、パク・ソユンが
――グ、ワシッ――!!
と、拘束しつつ、水の入ったコップで強引に塞ぎ続ける。
「ゴ、ボボッ――!! だッ、ら、ライd――、誰か助けッ――!! て、テヤ、ロウン!! 助ッ、けてッ!!」
何とか開いたコップの隙間から、ドン・ヨンファが助けを求める。
「おいッ!! その辺でやめとけって!! う、るせぇんだよッ!! てめぇらは、よぅ!!」
キム・テヤンが、いい加減にしろと叫んだ。
と、ここでようやく、
――ポ、ン……
と、パク・ソユンは、ドン・ヨンファをコップから解放してやった。
――フッ……
と、糸の切れたように、ドン・ヨンファは力が抜けるなり、
――ド、サッ……
と、そのまま、膝をついて崩れた。
「う、ぐっ……、ゲホ、ゲホッ――!! ゲホッ!! ゲホ!!」
ドン・ヨンファは咳きこんだ。




