61 てか、もう、あんまし道頓堀ウォーターが残ってないんだけど
(3)
「なっ……!?」
「ど、どないなってんの、これ?」
と、ス・イジュンと倉沢くららのふたりにとって、これは想定外のことだった。
水のキューブによってパニックを起こし、混乱状態に乗じてカン・ロウンたちの身動きをとれなくする、あるいは、彼らも水の匣に閉じ込めてしまう予定だった。
だが、カン・ロウンの異能力によって、群衆のパニックは制御され、また、水の匣も、パク・ソユンの持つ謎の注射器によって破壊されてしまうという。
最初、圧倒的に有利だと思っていた状況が揺らぐ。
ただ、それでも、
「くらら、これじゃ、まだ甘い。もっと、飽和攻撃のように、やつらを」
「ええ……」
と、この空中庭園から、水のキューブは依然として多量のドローンのように作る出すことができ、
――ギュ、ィィン――!!
と、先ほどの二倍か三倍の数の水のキューブを、空中に展開させる。
面、空間を飽和する圧倒的な量に、
「「――!?」」
「「なっ――!?」」
と、カン・ロウンたち四人と、
「う、嘘でしょ!?」
と、ケ・ジウォンが驚愕するも、その暇すら与えず、
――ドドド、ドドッ――!!!
と、水のキューブの飽和攻撃が襲い来る!!
すると、先ほどまでは、なんとか避けれなくもなかった攻撃に、
「うっ、うわぁぁ!!」
「だ、ダメェだぁぁッ!!」
「こ、こんなの、逃げ場がッ――!! う、ぐッ――!!」
と、人びとが捕まり、水の匣に閉じ込められてしまう。
パク・ソユンが注射器で水の匣の破壊を、ケ・ジウォンが襲来する水のキューブをハサミで迎撃するものの、
「くっ!!」
「か、数が多すぎるわ!!」
と、キム・テヤンとケ・ジウォンが、思わず声をあげる。
「ちょっと! アンタも何かしなさいよ!」
ここで、パク・ソユンと、
「そうだぜ! てめぇは、ボサッとし過ぎなんだよ!」
と、キム・テヤンが、ドン・ヨンファに向かって怒鳴る。
「あ、ああ、」
ドン・ヨンファが遅ればせながら、ようやく動く。
――シュ、ババッ――!!
と、蘇州で使ったのと同じく、石灰の蔓バラともいうべき、“疑似植物”を異能力で以って召喚させる。
それらは、空間を縦横無尽に広がり、
――ジュワァァッ!!
と、音を立てて、水のキューブを取りこみ、この場の群衆たちを守らんとする。
しかし、それでも、大量の水のキューブに対して防御しきれるものではない。
半分以上は、すり抜けてしまい、
「つ、捕まるっ――!?」
「いやぁぁぁ!!」
「た、助け――、」
と、また何人も、水の匣に捕まってしまう。
それらは、カン・ロウンたちに対しても、同様だった。
格闘で応戦していたキム・テヤンだが、前方の水のキューブを蹴散らしていた隙に、
――ギューン!!
と、死角から襲われてしまい、
「ちっ――!? しまった!!」
と、背後、足を取られ、水の匣に捕まってしまう。
「て、テヤン――!!」
カン・ロウンが叫ぶも、自身も同様に水のキューブに囲まれてしまい、
「うっ――!? うぉぉッ!!」
と、同じく、水の匣に閉じ込められていく。
そんな様子を、倉沢くららとス・イジュンのふたりは、上から眺めながら、
「よしッ! これで、俺たちは逃げよう」
「やね! これで、ちょっとは、時間を稼げるやろ」
と、この場から逃走した。
「あっ――! に、逃げた!」
ドン・ヨンファが反応をする。
その刹那、
「ちょっと――! ヨンファ!」
「へっ――?」
と、突然、パク・ソユンの声がして、飛び込むようにして真横に現れるや、ドン・ヨンファを
――ドゴッ!!
と、突き飛ばしたのだ!!
「うぉぉッ――!?」
と、ドン・ヨンファが声をあげながら、
――ズ、サァァ――!!
と、転んで、床をすべっていく!!
倒れた状態から、
「ぐっ……、な、何を、」
と、「何をするんだ!?」と、文句を言おうとした、その時、
「なッ――!?」
と、驚愕して目を見開いた。
自分が、さきほどいた場所に、
――ドドド、ドドッ――!!!
と、水のキューブが多方向から、パク・ソユンへと襲いかからんとしていた。
すなわち、自分がボサッとしていたところを、どかして庇ったのだ。
「そ、ソユンッ――!!」
「ソウちゃん――!!」
ドン・ヨンファとケ・ジウォンが叫ぶ。
それでも、
「……」
と、パク・ソユンは動じずに、最後まで水のキューブの動きを見切る。
下半身が、水のキューブに捕まるも、逸らした上半身は注射器を手にしており、自身を包んでいく水のキューブに対して、
――チューッ
と、道頓堀の水を注入していき、
――バシャァッ……
と、その“形”を失わせ、破壊する。
パク・ソユンは、捕まりかけた状態から脱出し、
「ああ、もうっ! 何やってんのよ、アンタたち!」
と、カン・ロウンたちを、まず助けにかかる。
手際よく、道頓堀の水を注入して破壊し、カン・ロウンとキム・テヤンが“水の匣”が崩れてできた水たまりに、
――ドサッ――
と、吐き出される。
ふたりは、床に手をついて立ち上がろうとしながらも、
「ゲホゲホッ……!」
と、カン・ロウンのほうは、苦しそうに水を吐く。
いっぽうで、
「す、すまねぇな、ソユン」
と、キム・テヤンのほうは、情報部時代に鍛えていた――10分近い潜水にも耐えれるように訓練していたせいか、ケロッとしていた。
ただ、これで終わりではない、
「てか、これ? 全部、助けるんだよね?」
と、ドン・ヨンファが聞く。
まだ、この場にいた多くの人たちが、水の匣に捕まってしまっていた。
「まあ、さすがに、ほっとくわけにはいかないでしょ」
パク・ソユンが答える。
先ほどまで、倉沢くららとス・イジュンのふたりを驚かせ、追いつめることができると思ったが、それどころではなかった。
さらに、悪いことに、
「てか、もう、あんまし道頓堀ウォーターが残ってないんだけど」
と、パク・ソユンが手に持つ、注射器であるが、水を無尽蔵に出せるわけではない。
しかも、まだ、水のキューブは数十体ほど残っており、自分たちを攻撃する期をうかがっている。
それらから防空するドン・ヨンファが先ほど召還した疑似植物の姿もあるが、こちらも無制限に召還・具現化できるわけではなく、限界にきていた。
「くっそ、どうするか?」
キム・テヤンが、険しい顔で焦り、
「何とかしてよ? このままじゃ、逃げられちゃうし」
と、水の匣に対処しているパク・ソユンが、言った。
「う、む……」
カン・ロウンと、
「……」
と、ドン・ヨンファが、焦りを募らせる。
犯人をみすみす逃げ指すわけにはいかないし、水の匣に捕まっている人間を放っておくこともできない。
ただ、助けると言っても、依然として水のキューブによる攻撃のある状況で、助けきれるかも分からない。
すると、
「――おい、先を行け」
「「「――!?」」」
と、突如、どこかから声がした。
「た、タヌキ――!」
「神楽坂さん!」
と、妖狐の神楽坂文が現れる。
「ここは、あとは、私が何とかするから、貴様たちは、倉沢くららとス・イジュンのふたりを追うのた」
妖狐が言った。
「ああ”?」
「な、何だって?」
「は? アンタが、これ? 何とかするの」
と、皆が反応すると、
「ああ……。だから、貴様たち――、ソユンとヨンファ、そして、何かオレンジのヤツは、犯人たちを追うのだ」




