59 あと、小バカにしてるんじゃなくて、若干、けっこうバカにしてるぽよー
(1)
大阪、なんばアクアガーデン――
曲線に囲まれた、斬新な空中庭園と、高層建築の組み合わせ。
庭園内には柱状の噴水だったり流水があり、また、水の織りなすアートは建物の内と外にもつながる。
敷地内と建物は、ほどよく迷路のようになっており、行きかう人も、それなりに多い。
そして、大量の水――
すなわち、水のキューブを自在に操る犯人たちにとって、好都合きわまりない場所だった。
ここに、倉沢くららとス・イジュンのふたりが向かったとの情報を得て、カン・ロウンたちSPY探偵団とケ・ジウォンの五人は、やってきた。
妖狐の神楽坂文は、万一の場合に、静養しながら待機している。
曲線で囲われ、段々のようになった空中庭園と、接続される建物を見て、カン・ロウンが、
「思ったより、複雑になった場所だな……。もし、ここで、犯人たちの異能力で、水のキューブに襲われたら、厄介だな」
「ああ……。おおかた、ここで騒乱を起こして……、それに駆けつける俺たちを始末し、そのまま、逃走する算段かもしれないな」
と、キム・テヤンが答える。
すると、
「ふふ……、そのとおりだよ」
「「「――!?」」」
と、会話を聞いていたのか、上から声がした。
声のほうを見て、
「いっ、イジュン――!!」
と、ドン・ヨンファが叫んだ。
そこには、上からこちらを見下ろすかっこうで、ス・イジュンと、倉沢くららの姿があった。
「フン……、来たか、ヨンファ」
ス・イジュンは、鼻で笑うような態度を見せる。
また、
「やっぱ、来はったね」
と、倉沢くららも、迎えうつ犯人として、堂々と佇んでいた。
「い、イジュン、どうして? あんなことを?」
ドン・ヨンファが、まだ動揺した様子で聞いた。
「おいおい? また、動機を聞くんなんて、ベタなことを」
ス・イジュンが、やれやれとジェスチャーして、
「どうせ続けて、『こんなことはやめるんだ』と、友人としての忠告ってのを、するんだろ?」
「い、イジュン、」
と、ドン・ヨンファが、友人に対して動揺を見せる。
いっぽう、
「……」
と、ス・イジュンは、不敵な笑みを浮かべながら、バーコード・ヘアを手で流してキメて見せた。
すると、
「いや、アンタが友だちか実は友だちじゃないかは、別に、どうでもいいけど、さ? 何で、こんなことしてんのか? 純粋に知りたい」
と、パク・ソユンが割りこんできた。
「う、ん……?」
ス・イジュンの表情が、一瞬、ピクッとなり、
「純粋に知りたい、ですか?」
と、倉沢くららが、聞き返した。
「ぽよ」
パク・ソユンが答えたところ、
「「ぽよ――!?」」
と、倉沢くららとス・イジュンの、犯人ふたり組も、さすがに驚愕した。
いっぽう、
「うわ……、出たよ、“ぽよ”」
「まった……、こんなとこでも、緊張感なく、“ぽよ”かよ……」
と、聞きなれたドン・ヨンファとキム・テヤンは、顔をしかめて呆れていたが。
彼らの反応を無視して、
「だって、さ? あんな、“ただの水”の箱なんかに入れて、さ? 何か、意味あるわけ? あんま、意味ないと思うんだけど」
「意味がない――、ですか?」
倉沢くららが、聞き返す。
どこか、面白くなさそうな表情になりながら。
「うん。ちょっと意味が、ないと思う。というか、意味がない寄りの、意味が無いよー」
パク・ソユンが、軽い調子で言うと、
「何だい? その、小バカにしたような態度は?」
と、ス・イジュンの表情を険しくしながら、ドン・ヨンファのほうを向いて、
「ヨンファ」
「う、ん……?」
「友人として、忠告しておくよ。こんな失礼な女を、君は相方にしているようだが、やめておいたほうがいいよ」
と、冷たい表情で言うと、
「あっ? 残念でしたー。そもそも、相方じゃないし……、あと、小バカにしてるんじゃなくて、若干、けっこうバカにしてるぽよー」
「ちょっ! ソユン!」
「おっま! 何、刺激するようなこと言って!」
と、表情は変わらずにおちょくるようなことを言うパク・ソユンに、ドン・ヨンファとキム・テヤンが慌てるも、
――ピ、キッ――
と、すでに、ス・イジュンと倉沢くららの“何か”が切れる。
同時、
――ズ、シャッ――!!
と、剛速球よりも速く――!! 新幹線なみのスピードで、つぶてのように放たれた水のキューブがパク・ソユンを掠める。
そのまま、
――バシャァッ――!!
と、水のキューブは、床に弾ける。
「「「――!?」」」
何人かが、思わず驚くも、
「……」
と、パク・ソユンだけは、眠そうにぼーっとした様子で、動じなかった。
「まったく、品性のないヤツだな。まあいい……、ヨンファ、どうせ、お前たちなどに、彼女の――、くららの考えなど分かるまいし、説明しても意味はないだろうな」
ス・イジュンが、やれやれと言うと、
「いや、説明するぽよー。もうすこし若干バカにしたいから、説明するぽよー」
と、パク・ソユンが、さらに刺激する。
「「そ、ソユン! やめなって!」」
カン・ロウンとドン・ヨンファと、
「だから、刺激するなっての! お前は!」
と、キム・テヤンが、制止しようとするも、
「フッ……、もういい、身をもって思い知るがいい、バカどもが!」
と、ス・イジュンはパク・ソユンたちに声を荒げながら、
「くらら」
「ええ」
と、倉沢くららに、合図した。
すると、
――ギュ、ィィン――!!
と、まるで領域展開のごとく――!!
広場内のあらゆる水場から大小の水のキューブ群が現れるなり、整然と、360度の2、30メートル四方八方に、立方体状に並びながら広がっていく!!




