58 できたら、人さんに、迷惑かけたないねんけど
(3)
妖狐たちが大阪に近づいている中、いっぽう、倉沢くららとス・イジュンも動こうとしていた。
「その、妖狐――、キツネはんたちは、そろそろ、来るやろか?」
倉沢くららが、そう言うと、
「そう、だな……」
と、ス・イジュンは、すこし考えながら、
「ヨンファのやつらは、昨夜、俺に電話してきたが……、あの時間から、蘇州から、なるべく早く日本に来るとしたら――」
「……」
と、沈黙して耳を傾ける倉沢くららに、間をおいて、
「午前の、今ごろ――、だろうか?」
と、予想した。
そうすると、
「ここでは、あかんやろうね」
と、倉沢くららが言い、
「ああ……」
と、ス・イジュンは、うなづいた。
続けて、
「もし、いまここに、ヨンファたちが来たら、操れる充分な水がない」
「せや……。大量の水があればこそ、水のキューブを操って、何とかできるけど……、ここに、来られた時点で、お手上げやね」
と、ふたりは確認する。
「そうすると……、いつでも自在に水が操れて、なおかつ、そうだな……? 人質は、要るかい?」
「う、う~ん……、せや、なぁ……? できたら、人さんに、迷惑かけたないねんけど……」
「まあ、今回ばかしは、仕方がないかな」
「ほんま、堪忍やね」
などと、ふたりは会話を交わす。
そうして、大阪駅を中心として、場所を検討する。
水の都市、大阪――
中心部にも、水をテーマとした場所や、建築も多くある。
その中で、条件から考える。
大量の、清らかな水があること。
妖狐やカン・ロウンたちと戦闘になった際、水のキューブをトラップのように複雑に配置でき、なおかつ、自分たちは逃げやすいこと。
ある程度の数の人がおり、場合によっては人質、盾とすることができうる場所。
そして、“水の匣”を、つくりたいと思える、アーティスティックな要素のある場所であること――
これらの条件を、もとに、迎え討つべき場所を考える。
その時、
「ん……?」
と、ある場所が、ス・イジュンの目に留まった。
「ここなんか……、いいんじゃ、ないか?」
倉沢くららに聞くと、
「ん……? ほんまや!」
と、驚きと感嘆のまじった声をあげた。
迎えうつための条件を満たし、また、デザインのセンスもある場所。
それを、確認して、
「じきに、ヨンファと妖狐のやつらは、ここに来るだろうから、モタモタしている暇はない」
と、ス・イジュンは、意を決して、
「よしっ! そしたら、ここで、ヨンファと妖狐のやつらを、迎え討とう」
「ええ!」
と、倉沢くららも、覚悟を決めた。
そうして、ふたりは動き出す。
「――それで、皆、始末しよう。くらら」
「ええ……。美しく、清き、“水の匣”にいれて、ね――」
***
――そうして、カン・ロウンと妖狐の神楽坂たちは、大阪についた。
新大阪から、大阪駅まででており、
「ふむ。やつらは、部屋を出たようだ」
と、妖狐が確認した。
“葛葉”と、魔界の虫を超小型ドローンのようにして、倉沢くららのマンションを調べてみた結果、分かったことだ。
「まあ、当然か……」
キム・テヤンが、言い、
「やつらは、水があればこそ、異能力で以って操ることができる。ゆえに、そのまま部屋にいることは、無防備極まりなかろうからな」
と、妖狐が続けた。
「すると、逃げようと、しているのかい?」
ドン・ヨンファが聞き、
「だが、彼らも、妖狐という存在を知っているとすれば、逃げらないことなど分かるし……、それに、こっちの、日本の警察にも、こんな特殊な事件を調査する部署も、別組織も、“ある”」
と、カン・ロウンが答える。
「ふむ。考えてみよ、貴様たち。追いつめられた状態で、すること――。遠隔で、異能力を発動しようとすると、妨害される……。そうすると、考えられるのは――」
妖狐が言うと、
「う、ん……?」
と、カン・ロウンと、
「まさか――!?」
と、キム・テヤンが、すぐにピンときた。
妖狐は、ドヤ顔して、
「ああ……。彼らは、直接的に、水を操って……、何か、大規模にコトを起こす可能性がある」
「「「……」」」
と、皆の顔が、険しくなる中、妖狐は“葛葉”を用いながら、
「その、条件を満たす場所というのが――」




