57 「え――? いまさら、それ言う、お前?」みたいな、気まずい空気
(3)
場面は変わって。
カン・ロウンと、妖狐たちは、新幹線で新大阪に向かっており、京都に近づいていた。
まだ、妖狐は、
「ハァ、ハァ……」
と、苦しそうにしていた。
顔には、小さなヒビが入ったままで、脂汗が垂れていた。
他の乗客や、乗員に心配されてもアレなので、窓際の席で目立たないようにしていた。
「大丈夫、ですか……?」
カン・ロウンが、心配すると、
「まあ、な……」
妖狐は、答える。
ドン・ヨンファが、
「もしかして……、まさか、まだ、ずっと、妨害し続けているのかい? イジュンたちの、異能力を」
「ああ、そのまさかだ。バカみたいに、ずっと異能力を使いおって、やつら」
妖狐が、「バカみたいに」と、口悪くして答える。
これには、
「な、何だって!」
「「――!」」
と、何人かは驚いた。
「まあ……、やつらは、ワンチャン、この私の妖力が、消耗してくものだと気がついた可能性があるな」
「そ、そんな……」
「ど、どうやって、」
と、ドン・ヨンファとカン・ロウンが困惑するが、
「――なので、連中は、嫌がらせのように、あらゆる場所で遠隔の力を発動させ、この私を、できる限り消耗させたいのだろう」
「まあ、確かに、嫌がらせみたいに、嫌らしいですね」
と、ケ・ジウォンが、言った。
そこへ、
「はぁ、」
と、パク・ソユンが、気の抜けた声で相づちしながら、
「てか、さ――? タヌキ」
と、妖狐に、何か言おうとした。
「う、ん……?」
「ん? ソユン……?」
と、カン・ロウンとドン・ヨンファが反応し、
「ふむ。何だ?」
と、妖狐が、聞き返す。
注目の集まる中、ひと呼吸おいて、
「そもそも、さ? 犯人たちの、パソコンでもスマホでも、ぶっ壊せばいいんじゃない? その、遠隔の力ってのを使うには、ライブカメラか何かだっけ――? の映像を見て、リアルタイムでやってんなら、さ? パソコンぶっこわせば、できないじゃん」
と、パク・ソユンが、言った。
それを聞いて、
「「あっ――?」」
と、カン・ロウンとドン・ヨンファの、声が漏れ、
「「――!?」」
と、キム・テヤンとケ・ジウォンが、声にならず驚愕した。
…………、…………
と、沈黙が――、「え――? いまさら、それ言う、お前?」みたいな、気まずい空気がただよった。
「貴様……、いまさら、それ言う? 鬼畜か?」
と、当の妖狐も、そう言うも、
「いや、まあ……、もっと早く気がつけばよかったけど、さ? 私も、いま、思いついたし」
と、パク・ソユンは答えると、
「ふむ。まあ、いいか……。いうて、そこまで、消耗はしてないだろう……」
「おい、ほんとかよ、」
と、「問題ない」との妖狐に、キム・テヤンが疑問の顔で言うと、
「それに、もし、パソコンをぶっ壊せばぶっ壊せばで……、やつらは、何をするか――」
「……」
「……」
とここで、暗示のように言った妖狐に、沈黙がはさまる。
「確かに、神楽坂さんが言うように……、もし、パソコンを破壊した場合……、犯人たちはどう動くか、予想のできないことをする恐れも、ありますな」
と、カン・ロウンが言い、
「ああ……。すくなくとも、パソコンを使っての遠隔の異能力と、それに対して、我が妖力で妨害を続けているかぎりは……、やつらの力の、水の匣の犠牲者は、出ることはなかろう」
「ま、まあ、確かに、」
と、ドン・ヨンファが、あいまいに相づちし。
「そうすると、そのまま、バカみたいに匣をつくらせといたほうがいいだろう」
と、妖狐が、強引にまとめた。
恐らくは、すこし、やせ我慢のようなところもあるが。
「まあ、アンタがいいなら、いいけど。てか、いまさら、遅いけど」
パク・ソユンが、言った。
まあ、その今さらを言ったのは、このパク・ソユンなのだが。
また、そこへ、
「あ、のぉ……?」
と、DJアクティブ・クラブこと、ケ・ジウォンが、妖狐に何か聞こうとした。
「ん?」
「あ、ん?」
ドン・ヨンファとキム・テヤンヤツ
「ぽよ」
と、パク・ソユンが反応する中、
「何だ? 何かオレンジのヤツ?」
と、妖狐が、質問の内容を聞くと、
「えっと……、タヌ、キツネさんの妖力が、消耗するのは分かったんだけど……、犯人のほうは、どうなのかな――? って、思って」
と、オレンジのヤツこと、ケ・ジウォンが答えた。
「確かに……」
ドン・ヨンファが、同調する。
もし、相手の異能力も妖力と同じように、使えば使うほど減るのであれば、都合がよい。
だが、
「さあ、な……? やつらが異能力を使うことで、その力というのが、減っているのかどうかは、分からんな」
と、妖狐の答えは、期待に応えるようなものでなかった。
「そんな、」
ドン・ヨンファが、気落ちするような顔をし、
「神楽坂さんでも、分からないんですか?」
と、カン・ロウンも、同様の顔で聞いた。
「まあ、分からんものは、この私でも分からんのだ」
妖狐は、答える。
「もし、減ってなかったら……?」
ドン・ヨンファが、悲観的な顔で聞く。
「ふむ。そうだな……?」
妖狐は、天井を仰ぎながら、
「その時は……、何か、万が一の際の……、手を、考えておいたほうがいいだろう」
と、言った。
「万が一の、手か……」
キム・テヤンが、言葉をくり返すと。
「ああ……」
と、妖狐はうなづきながら、
「先日の、如水での場合……、ギリ、妖力を用いたから、水の匣から、ソユンのやつを助け出すことができたが……、最悪のケース、妖力が、一時的に枯渇寸前までいってしまうこともありえる――」
「「「「――!?」」」」
と、告げた言葉に、衝撃が走った。
これまで、何だかんだ、妖狐の妖力を使えば、何とかなる節はあったのだが、そうはいかない場面のあることを突きつけられる。
例えるなら、大長編のドラえもん映画で、秘密道具がいっさい使えない――、もしくは、ドラえもんがおらず、限られた秘密道具しかない――、それに似た状況だろうか。
「……」
「……」
と、カン・ロウンとドン・ヨンファをはじめ、皆が重い表情をしていると、
「まあ、その時は……、本当になけなしの妖力・妖具と、お前たちの異能力の合わせ技で……、何とか、するしかないだろう」
と、妖狐が、課題を出すように言った。
「何とか、か……」
キム・テヤンが、反復すると、
「ああ……、何か、思い浮かぶことは、ないか?」
と、妖狐が、皆に投げかける。
「う~ん……」
カン・ロウンが、考えるようにうなり、
「思い浮かぶ、ことかぁ……?」
と、ドン・ヨンファも、同じように、頭をひねろうとする。
すると、
――ガタン、ゴトン……、ガタン、ゴトン……
と、レール音が、車内にも聞こえてきた。
列車は減速しており、京都駅に近づいていた。
「あっ、」
ドン・ヨンファと、
「もう、京都か」
と、キム・テヤンが、気がついて言った。
京都と聞いて、
「京都かぁ……、清水寺、行ってみたいわ」
と、ケ・ジウォンが言うと、
「は? 何、言ってんの? これは、仕事じゃないのよ。真剣に、やるぽよ」
と、パク・ソユンが、タモリの名言みたいなこと言って、つっこむも、
「いや、『遊びじゃない――』の、間違いじゃ、ないのかい?」
と、ドン・ヨンファに、さらにつっこまれる。
また、ケ・ジウォンが、
「いや、そもそも、こっちは、アンタに無理やり連れてこられた立場の人間なんだけど」
と、そもそもの、不平を言うと、
「まあ、とりあえず……、すまないが、協力してくれないか? ケ・ジウォンさん」
「ああ。そんで、終わったら、京都でも、ゆっくり行くこった」
と、カン・ロウンとキム・テヤンが、なだめた。
「ま、まあ……、いいですけど」
ケ・ジウォンは、そこは、うなづいた。
その横で、
「しかし、清水寺、かぁ……。久しぶりに、行きたいよね? ソユン」
と、ドン・ヨンファが、呑気にも、パク・ソユンに話をふる。
「清水寺、ねぇ……?」
パク・ソユンが、清水寺との言葉に、何か考える仕草をする。
スマホで検索し、『清水寺』との漢字についても、見てみると、
「清水寺――、清らかな、水――」
と、単純に、漢字を分けてみたところ、
「ん――?」
とここで、パク・ソユンが、何かにピンときたようだった。




