56 バッテリーのように減るかどうか
そして、
――ファァン……
と、倉沢くららは、“水の器”に、力をこめる。
――ぽ、ちゃん……
と、波紋が立つ。
光速、もしくは光速を超えた速さで、“共鳴”は伝わり、遠く離れたところにある水を操ることができる。
パソコン画面に映る中、まだ人の姿がチラホラある豫園のちかくで、水のキューブを操り、“水の匣”をつくろうとした。
そうして、事件を起こせば、またドン・ヨンファや妖狐たちは釘づけになってしまい、日本に向かうわけにはいかなくなるだろう。
さらに、あわよくば、先ほどは殺せなかったパク・ソユンふくめて、皆殺せるかもしれない。
まあ、残る妖狐の力は未知数だが、それで邪魔する者は、ほぼ排除できたことになるだろう。
だが、
「――ん?」
と、突然、倉沢くららの表情がかわる。
「どう、した……? くらら?」
ス・イジュンも、おそるおそる聞く。
倉沢くららは、何か違和感、異変を感じており
「おかしい、わ……」
「おかしい――、だって?」
と、ス・イジュンが、怪訝な顔で聞き返す。
この時点で、ス・イジュンも、彼女が感じている違和感を、半ば察しており、
「せや……、何か、力が伝わらへんのよ」
「力が、伝わらない……、だと?」
と、ますます、表情を険しくさせる。
ス・イジュンが、
「もしかすると、ヨンファたちのほうに、何か、より強力な異能力者が……、いや、妖狐か――! そいつが、“ブロック”しているんじゃないか?」
とここで、妖狐のことにピンと来た。
「せや、たぶん、イジュンの言うとおりやで。その、妖狐っちゅうんやない?」
倉沢くららが言うと、
「ちっ――!! くっそ!! ヨンファのヤツら!!」
と、ス・イジュンが、声を荒げた。
「ほんま、腹立たしいね」
倉沢くららも、言葉をあわせる。
腹立たしいか、そうでないにしろ、どちらにせよ、ここでふたりの立てた見立ては崩れることになる。
そこへ、ス・イジュンが、
「ただ……、待てよ、」
「ん?」
倉沢くららが、反応すると、
「くらら、その、水の器っていうのは……、異能力を使うにつれ、だんだんと、消耗したりは、しないかい?」
と、バッテリーのように減るかどうか気になった。
「い、え……、そんなことは、なさそうだけど……。ずっと使っている時も、何か、エネルギーだったりが、減るような様子はないと思うわ」
「そうか……、すると? ワンチャン、無尽蔵に、この異能力を出せる可能性は、あるよな」
「ま、あ……、せやね」
倉沢くららは確信は持てないものの、確かに、この“水の器”の力が尽きることが無く感じる。
すると、
「くらら、このまま、アイツらを――、妖狐を妨害するよう、いたるところで水の匣をつくり続けよう」
「え――?」
と、ス・イジュンの言葉に、倉沢くららが思わず驚いた。
「どゆ、こと?」
「まあ、これは、俺の勘だけど……、その妖狐ってのは、おそらく、妖力を使い続けていると消耗して、弱体化してくるんじゃないか?」
「は、ぁ……、まあ、マンガ的な設定だと、あり得るわね」
「ああ……」
ス・イジュンは、うなづきながら、
「――だから、その可能性を踏んで、このまま妖狐の力を、できる限り削って弱体化させる」
「あ、あ……」
とここで、倉沢くららも合点した。
「それで、日本に、俺たちの前に来たときは、遠隔の力でなく……、直接、やつらを出迎えてやるんだ」
「やね。うちも、その時は、覚悟決めとくわ」
と、ふたりは、腹をくくる。
そして、ス・イジュンは嗤う。
「ふふっ……、ヨンファ、来るなら、来いよ……。こんどは、パク・ソユンのヤツといっしょに、お前も、水の匣で、いっしょに殺してやるよ」




