54 見る、ぽよ。富士山が、見える、ぽよ
(1)
翌日のこと。
SPY探偵団の四人と、パク・ソユンが無理やり連れてきたDJ仲間のアクティブ・クラブことケ・ジウォン、それから、妖狐の神楽坂文とともに、日本へと降り立った。
そして、朝の新幹線で、東京から新大阪駅へと向かっていた。
「はぁ…、何で、私まで」
と、ケ・ジウォンが、ため息すると、すべての元凶のパク・ソユンが、
「まあ、そんな、気を落とさなくていいんじゃない? ついでに、日本に旅行しに来たと思えば」
「いや、気を落とさないでいいって、私、自腹で来てるんだけど」
「まあ、仕方ない、ぽよ。ほら? 見る、ぽよ。富士山が、見える、ぽよ」
と、窓の外に見える富士山を指さした。
今日は、天気がよく、確かにくっきり見えていた。
「いや、見るぽよじゃなくて……。何? 富士山、見えたから、自腹がペイしたってこと?」
「ぽよ」
「いや、『ぽよ』じゃないし」
と、ケ・ジウォンは、すこしイラつく。
後ろの席から、ドン・ヨンファが、
「ま、まあ、彼女のぶんは、僕が、払っておくからさ」
と、言ってきた。
「は? ダメよ、ヨンファ。甘やかしちゃダメ、ぽよ」
「「いや、甘やかしじゃなくて、お前が拉致したんだろがい」」
と、ドン・ヨンファとケ・ジウォンが、いっしょにつっこんだ。
すると、
「おい、やかましいぞ、ゴミ芥ども」
と、妖狐が、言ってきた。
「は――?」
と、パク・ソユンが、反応した。
振りむいて、何か、文句のひとつ言おうと思ったところ、
「ん――?」
と、妖狐のようすの変化に、気がついた。
妖狐は、疲れきったように深く背をもたれ、「はぁ、はぁ……」と、肩で息をしているようだった。
顔は、妖力の消耗のせいか――、すこしヒビが入っており、麗しい黒髪も、一部白く、ガサついてなっていた。
「まあ、ここは、気をつかってやりなよ、ソユン」
と、カン・ロウンが言った。
「う、ん」
パク・ソユンは、相づちする。
妖狐の神楽坂文は、うっすらとオーラを帯びながらも、あまり目立たないように“葛葉”を召還しており、そのツルはパソコンとつながっていた。
「これで、犯人が――、倉沢くららが、ネットを通じて、遠隔力を発動するのを、ずっと、防いでいるのかい?」
ドン・ヨンファが聞くと、
「ああ……」
と、妖狐は、返事した。
「何か、辛そうにみえますが……? 神楽坂さん」
カン・ロウンが、声をかけると、
「ふむ。辛いにきまっとろ、がい……」
と、妖狐は、嫌そうな顔しながら、
「まあ、“出力”としては……、それほど、大したものではないものの……、ハァ、ハァ……、ネット空間で、先回りしてヤツの異能力を防ぎ続けるのも……、なかなか、妖力を消耗するな」
「大したことないって言っても、けっこう、キツそうじゃねぇか」
キム・テヤンが言うと、
「だから……、ハァ、ハァ……、以前から、妖力が減って……、弱体化していると、言っておるだろ……、タコ」
「タコって、な」
と、妖狐は、息をつぎながら答えつつ、
「し、かし……、相手のほうは……、どれだけの力を、消費するのか――」
と、言った。
ここで、ふりかえる――
――先日の、夜遅く。
蘇州から上海へ出て、深夜、日本に向けて飛び立つことにした。
夜行高速鉄道というのが走っており、その車内で、
「そういえば、ですが……? タヌ、神楽坂さん」
と、カン・ロウンが、妖狐に、
「ふむ。何だ?」
「その、犯人が……、倉沢くららが、こちらの動きに気がついた可能性というのは……、ないのでしょうか?」
「……」
「彼女が、インターネット上で、ライブカメラなどを見ていたり……、あるいは、協力者がいるとすれば、ハッカーなどの力を借りて、街中のカメラの映像から、 我々の動きを捕捉したりなどすれば――」
と、そこまで仮定を話したところ、
「まあ……、“それ”は、あるかもな」
「「「――!?」」」
と、妖狐の言葉に、数人が驚いた。
「というか、そもそも、だ――」
妖狐が、ドン・ヨンファのほうを向いて、
「貴様が、ス・イジュンのやつに、連絡などするからだ、このうんこ」
「うんこ、言うなよ。小学生かよ」
ドン・ヨンファは呆れながら、
「というか、そんな……、ス・イジュンが、犯人の、倉沢くららと連絡をとりあっているなんて、知らなかったんだけど」
と、弁解した。
ここで、キム・テヤンが、
「ただ、そうすると……、攪乱として、蘇州や中国で、また、事件を起こさないか? 犯人の、倉沢ってヤツは、よぅ? ワンチャン、犯人としての目を逸らさせたり、こっちに釘づけにして、俺たちを動けないよう、足止めするために」
と、気になった。
「確かに、もし、こちらの動きをつかんだのであれば、妨害として、それをすることはあり得るな」
と、カン・ロウンと、
「それで、立て続けに犯行をするのであれば、そのつど、火消しするように対処しないといけないのかい?」
と、ドン・ヨンファが言った。
すると、
「おい、何を言っとるんだ、この、うんこども」
「「「は――?」」」
とここで、唐突な妖狐のうんこ呼ばわりに、数人が声をそろえた。
困惑する中、
「見よ――」
と、妖狐が、
――ボウッ……
と、薄っすらとだが、わざわざオーラを出してみせた。
オーラは、“葛葉”を中継しており、
「貴様たちが言うような妨害は、すでに、ネット空間で、先取りして対処しておる」
と、妖狐は、ノートパソコンの画面を見せながら言った。
画面には、おそらく犯人やその協力者が、蘇州や上海など、中国内のさまざまな場所のカメラにアクセスしている様子が表示される。
「ヤツの、遠隔の異能力が水に伝わるのを、妨害しているのだ」
妖狐は、手からオーラが伸びるのを見せつける。
「それを……、いま、ずっとやってんの?」
パク・ソユンが聞くと、
「ああ……」
と、妖狐は答えた。
同時に、
――ピ、キッ……
と、妖狐の顔に、わずかにヒビが入る。
「――?」
パク・ソユンが、それに気づき
「「「ッ――!?」」」
と、他の三人も、すこし遅れて気がついた。
すると、
――ド、サッ……
と、突然、妖狐は席から崩れ落ちた。
「は――?」
パク・ソユンと、
「――!?」
と、ドン・ヨンファが反応し、
「か、神楽坂さん!?」
「おい! 大丈夫か!」
と、カン・ロウンとキム・テヤンが、駆けよった。
最後に、
「だ、大丈夫、ですか」
と、ケ・ジウォンが続いた。
皆がひととおりの心配をするも、
「いや、問題ない」
と、妖狐は言う。
「「問題ないって、な、」」
キム・テヤンとドン・ヨンファが、「本当かよ?」の顔をする。
また、妖狐が、
「いずれにしろ……、いま、ヤツの全ての妨害を、防ぎ続けている状態でな。これを止めると、また新たな犠牲者が出てしまうかもしれないだろう」
「そうすると、早めに、何とかする必要がありますな」
と、カン・ロウンが言い、
「何とかって、逮捕、とかかい?」
と、ドン・ヨンファが聞くと、妖狐が、
「まあ、それしかなかろう。我が妖力とちがって……、おそらく、“あちら”には、消耗するといった制限は、無い可能性もあるだろう。永延と、ヤツの異能力の妨害を続けろというのか? 鬼畜か? このゴミ芥」
「い、いや、そうは言ってないって」
また、続けて、
「ただ、このまま、遠隔の力を防ぎつづければ……、当然、ヤツらは、やり方をかえるだろう」
「やり方を、変えるだと?」
と、キム・テヤンが聞くと、
「ああ……。ヤツらは、ネット空間を通じてでなく……、直接、ターゲットとしたい場所に現れるだろう」
「「「――!?」」」




