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妖狐、神楽坂文のコンサル譚09 【水の匣】  作者: 非常口どん八
第十章 日本へ

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53 いわば、清らかながら、どこか、生まれながらにして悪の放火魔の放火“癖”に似たような“ナニカ”

 それはさておき、話を戻して、

「これは、いったい――? 何か、昔の、古代中国の、青銅器みたいですけど……?」

 倉沢くららは、“水の器”を見ながら尋ねた。

「ああ……、まあ、大まかな成分は、銅だが……、この、超微細で緻密かつ、多次元構造は、あと何十年先の、人間の技術でも凡そ実現できないかもしれぬ――」

 と、異形の美青年は、前置きする。

 確かに、古代の青銅器のようでありながら、最新の半導体のように、なおかつ、ゆらめく構造色をおびていた。

 この者のいうとおり、何か、超微細な構造を持っていることが分かる。

 異形の美青年は続けて、

「“これ”に、清浄な水を湛えると、だ――」

 と、言いながら、これまた青銅器の水差しで水を入れる。

 そうして、張られた水面からは、

 ――ぐ、ぐっ……

 と、水のキューブが生じて、

「こちらの世界の、物理法則の制約を超えて……、遠く離れた水と、共鳴し、操ることができる」

 と、異形の美青年は、“実演”してみせる。

 まず、

 ――ぽ、ちゃん……

 と、張られた水と、水のキューブに、軽く波紋が立つ。

 すると、すこし離れた滝の水辺から、


 ――ビ、ィィン……


 と、例の水のキューブが、いくつか生じる。

 それらは、操る力で、こちらのほうに浮遊してくる。

 異形の美青年は、ひょいと空中に向かって、何か、赤い美しい花を投げると、

 ――ぐぐ、ぐっ……

 と、水のキューブの数々は、花を閉じこめるようにして融合し、件(くだん)の“水の匣”になったのだ。

「あっ――」

 倉沢くららは、思わず声をあげた。

 目の前に生じた、美しくも清純な“水の匣”の中に佇む、赤い花――

 まさに、それは“作品”だった。

「……」

 倉沢くららは、目を見開いた、

 そのとき、彼女の中で、“何か”が芽生えたのか、いや、元からあった“スイッチ”が入ったのか――? 半ば深層意識のように、人やものを、この“水の匣”に“閉じ込めたい衝動”というのが、生じていた。

 いわば、清らかながら、どこか、生まれながらにして悪の放火魔の放火“癖”に似たような“ナニカ”が――

 また、倉沢くららは聞く。

「“これ”を、どうして? 私に?」

「う、む……。お主が、“この力”を、使いこなせると思ってな」

「私、が……?」

「ああ……、“それ”によって、面白いことになる――と、思ってな」

 と、異形の美青年は、意味深な顔で答える。 

「……」

 倉沢くららは、ジッ……と、異形の美青年の目を見た。

 沈黙をはさみながら、

「目的、は……? そして、貴方たちは、何者なの?」

 と、聞いた。

「う、む……、そうだな……?」

 異形の美青年は、少し考えるようにして、

「我々は、この確率じかけの世界で、“神遊び”――、賭けごとをしていると、言うべきか」

「賭け、ごと……?」

 と、倉沢くららが聞くと、

「ああ……。ワンチャン、世界を作った神連中を、殺せる者が出てくるか――? それを、賭けていてね――♪」

 と、答えて微笑してみせた――

 ――――


 ――と、ここまでが、回想になる。

 倉沢くららは、

「……」

 と、ジッ……と、“水の器”を見つめる。

 そうして、自分の中にある、どこか清らかながらも放火魔にも似た衝動で、これまでに、“水の匣”に多くの人間を閉じ込め、作品としてきたのだ。

 だが、

「……」

 と、倉沢くららは、表情が硬くなる。

 問題が起きたのだ。

 まず、一つは、如水イベントでは、モデル兼DJとして有名なパク・ソユンを“水の匣”に閉じこめてみたのだが、パク・ソユンの仲間たちの、恐らくは異能力によって、水の匣が破られてしまったのだ。

 これは、まったく、予期せぬことだった。

 なお、40分も水の匣に閉じこめたにもかかわらず、パク・ソユンはケロッとしているというが、彼女の異能力、もしくは体質によるものだという。「体質とは……」と、つっこみたくなるところだが。

 もうひとつは、アクア・キューブリックで騒動を起こしてみたのだが、先の異能力をもつ者たちに加え、まさかの、“妖狐”というものが現れ、阻止されてしまった。

 さらには、そのような特殊な能力をもっている、彼らと妖狐のことだ。

 何らかの手段で、“水の匣事件”の犯人である“自分”のことを、探っている可能性がある。

 いや、もしかすると、もう、犯行を行った“やり方”も、自分の居場所なども、分かっているのかもしれない。

「異界の、妖狐、ね……」

 倉沢くららは、呟いてみた。

 以前、この水の器をくれた異形の者が、“神遊び”というものについて話したのを、ふと思い出す。

「もしかすると……、“お遊び”が過ぎちゃったから、妖狐が、出てきはったんやろか? まいったわぁ」

 倉沢くららは、言った。

 ただ、深刻そうな表情ではなく、どちらかというと、「あちゃ~、やっちゃったか」のような顔で、どこか、トラブルを愉しんでいるようにも見えた。

 とは言え、もし、いまは中国の蘇州にいる妖狐たちが調査のために、あるいは、自分を逮捕などするために、こちらにやって来るのであれば、何かしらの手を打つ必要がある。

 すると、


 ――ピィィン、ポーン……


 と、部屋の、インターホンが鳴った。

 倉沢くららは、玄関に行って、モニターを見ると、

『くらら……!』

 と、すこし心配したような声とともに、流水をイメージしたバーコードヘアの男の姿が――、すなわち、ス・イジュンの姿が映し出された。

 倉沢くららは、すぐにドアを開け、

「イジュン!! 来てくれはったんやね! おおきに!」

「ああ……、君のことが、心配でね」

 と、ふたりは、抱き合った。

 再開の喜びはそこそこに、中へと入って、お茶をいれる。

「恐らく、くららも、把握していると思うが……、俺の、友人がね? まあ、趣味で、探偵サークルのようなことをやっているアイツが、妖狐とともに、君のことを、僕たちのことを、つきとめた可能性がある」

 すこし重い表情で話す、ス・イジュンに、

「せ、やね」

 と、倉沢くららは、うなづいた。

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