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妖狐、神楽坂文のコンサル譚09 【水の匣】  作者: 非常口どん八
第十章 日本へ

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51 来る、ぽよ




          (4)




「「「そ、ソユンッ――!!」」」


 と、三人の驚く声が、古民家の部屋に響いた。

「ぽよ」

 相変わらず、「ぽよ」と、パク・ソユンは締まりのない返事をする。

「えっ――? た、退院したの? もう」

 ドン・ヨンファが、おそるおそる聞くと、

「ぽよ」

 と、パク・ソユンはダルそうな様子で相づちしながらも、

「いや、脱出、してさ?」

「「だっ、脱出……?」」

 怪訝な顔する、カン・ロウンとドン・ヨンファのふたりに、

「うん。脱出した」

 と、パク・ソユンが答える。

 その、ふりかえるところは、こうである――



 ――すこし前、蘇州市内の病院。

 五階にある病室にて、

「――は? 出ちゃダメ、ぽよ?」

 と、パク・ソユンは、すこし不服そうな様子できいた。

 目の前には、威厳ありそうなドクターと、自分と同じ年代くらいの女医、それから研修医らしき若い医者やナースたちと――、およそ10人くらいが、白い巨塔のように鎮座していた。

「ダメです」

 と、女医が、動じること無さそうな冷たい目で答える。

「いや、何とも無いから、さ? 退院、したいんだけど? ぽよ」

 パク・ソユンは言うも、

「いや、念のために、入院してください」

「検査も、ありますから」

「てか、『ぽよ』って、何です?」

 などと、医療チームの面々は説得してくる。

 ただ、パク・ソユンに直接は言わなかったものの、医者たちとしては、1時間近くも溺水状態にあったにもかかわらず、命に何の別状もなかったパク・ソユンに、医学的な興味があったのだ。

 それゆえに、このまま入院してもらい、色々と検査を受けさせたかったのだろう。

 そして、パク・ソユンに入院するよう説得し、

「じゃあ、このまま安静にして、出歩かないでくださいね」

「ぽよ」

 と、パク・ソユンはうなづく。

 そして、医療チームは病室から出終えようとした時、冷たい目の女医が、

「くれぐれも……、脱走なんて、考えないでくださいね。パク・ソユン、さん」

 と、念を押してきたので、

「うん。分かったー」

 と、パク・ソユンは、絶対に分かってない「分かった」で返事した。

 そうして、


 …………


 と、医療チームは去って、病室は、しーん……となった。

 しばらくして、

「……」

 と、パク・ソユンは期をうかがった。

 窓をあけ、

 ――ガ、シッ……!!

 と、足をかけて、構えるなり、


「ぱぁぁっー!!」


 と、パク・ソユンは叫びながら、何とあろうことか――!? 斜め前に、勢いよく飛び降りたのだ!!

 そうして、

 ――スッ、タッ――!!

 と、着地し!! 勢いのまま、

 ――ゴロ、ゴロッ……!!

 と、芝生を転がって、衝撃を逃がす!!

 それで、何事もなかったかのように、

「……」

 と、パク・ソユンはケロッとした顔で、

 ――むくっ……

 と、立ち上がった――



「――てな感じで、5階から飛んで、脱走したわけ」

 と、ここまでが、パク・ソユンの話した経緯である。

 それを聞いて、

「お、おう……」

 と、カン・ロウンと、

「は、ぁ……」

 と、ドン・ヨンファも、困惑気味に相づちした。

 キム・テヤンだけは、

「ったく……、ほんと、ふざけた身体してんな」

「何、ぽよ? ふざけた身体って」

「けっ、水に1時間いても死なない、5階から飛び降りてもケロッとしてるって人間離れしたヤツが、ふざけてないわけねぇだろ」

 と、呆れてみせた。

 異能力補正があるとしても、まあ、確かに、いろいろとおかしいと思うのは無理もない。

 本題にもどって、

「――で? 話をちょろっと聞いてたけど、日本に、行くわけ?」

「ああ」

 と、カン・ロウンが、パク・ソユンにうなづいた。

 そして、かいつまんで説明する。

 遠隔の異能力――

 それも、数百キロから千キロほど遠くからの力によって、水のキューブが操られ、“水の匣”がつくられるという仮説。

 そして、いままでの全ての現場は、カメラによって、リアルタイムで映像をみることができた。

 ゆえに、犯人はそれらを見ながら犯行を行ったはずだと仮定し、“葛葉”で調べてみたところ、日本人の容疑者、倉沢くららが浮上したのだ。

 そこまで、ざっくりと説明して、

「はぁ、数十メートルとか数百メートルとかじゃなくて……、もっと、数百、千キロ離れたところからの、遠隔ってわけね、ぽよ」

 と、パク・ソユンは、理解した。

「まあ、そうだと仮定すれば……、タヌ、キツネさんが、犯人の気配を掴めなかったというのも、説明できるからな」

 カン・ロウンが、受け答えると、

「それで? そんな異能力をもった人間を、タイーホしにいくわけ?」

「ああ……」

 と、うなづいた。

 また、パク・ソユンは聞く。

「いや、私は、水の匣に閉じ込められても、何とも無かったから、いいけどさ? アンタたちは、大丈夫なわけ?」

「まあ、もちろん……、我々だけじゃなくて、神楽坂さんの力も、すこし頼る前提ではいるが、」

「う、ん……? 力を貸すとは、まだ言ってないぞ? 他力本願か? まったく、このゴミ芥ども」

 と、妖狐が、ブンブンと拒否の手を振ると、

「い、いや、すみません」

「まあ、協力してやらんこともないが……」

 と、申し訳なさそうに詫びるカン・ロウンに、そうつけ加えてくれた。

 また、カン・ロウンが、

「まあ、確かに……、ソユンが心配するように、あいにく、私とテヤンの異能力というのは、直接、“水の匣の水”を倒したり、対処するには、すこし力不足かもしれないな」

「まあ、な」

 と、キム・テヤンも、うなづく。

「そう、すると……? 何か、別の能力が必要になるか? あるいは、そうした分を捕捉するような、タヌ――キツネさんの妖具が必要になるのかい?」

 ドン・ヨンファが、問いを投げるように言う。

 すると、


「あっ――?」


 と、パク・ソユンが、何かに気がついた様子で、

「――“いる”、じゃん」

 と、言った。

「“いる”――、って?」

 ドン・ヨンファが、キョトンとして聞き返すと、パク・ソユンが、

「ぽよ。その、そこそこ“それっぽい能力”を持ったのが――」

 


          ******




 場面は変わって――

 昼間、如水イベントに出演していたDJ仲間、アクティブ・クラブことケ・ジウォンは、夜の蘇州ライフを愉しんでいた。

 イベントこそ事件によって中止になったものの、パク・ソユンも無事であることが分かったので、せっかくなので蘇州のナイトライフを楽しんでいたわけである。

 テラスから、夜の、水郷の街を眺める。

 すこし先には、太湖が見え、星々や都市の灯りが映って美しかった。

「ああ……、綺麗……」

 思わず、アクティブ・クラブ――、ケ・ジウォンは感嘆の声をもらす。

 そのとき、


「――来る、ぽよ」


 と、突然、背後からした声に、

「ぽよ――!?」

 と、慌てて反応し、振り向こうとするも、

 ――グワ、シッ――!!

 と、背後からロックをキメられてしまう!!

「ふぐっ――!?」

 ケ・ジウォンは、変な声が出ながらも、チラッと斜め後ろを見て、

「ちょっ!? そっ、ソユンッ――!?」

 と、パク・ソユンの姿を確認した。

 パク・ソユンは、ケ・ジウォンを拘束しつつ、 

「ぽよ。来るぽよー」

 と、言う。

「いやっ!? 来るぽよって、何なの!? ねぇねぇ!?」

 ケ・ジウォンは、困惑しながらもがくと、 

「すまねぇな、姉ちゃん。ちょっと、アンタに、手伝ってほしいことがあってな」

 と、現れたキム・テヤンが、訳アリのように言う。

「へ? て、手伝ってほしいこと――、って?」

「ぽよ。ちょっと、この水の匣事件の件で、日本に行くから、さ? アンタも、来るぽよ」

「は、ぁ――? に、日本……!?」

 と、ケ・ジウォンは、たまげる。

 そうして、パク・ソユンは半ば強引に、アクティブ・クラブことケ・ジウォンを連れてきて、調査に協力させることにした。

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