50 すこし強引な“ご都合主義”も交えて
(3)
「何だって――!?」
と、ドン・ヨンファが、思わず声をあげた。
「ス・イジュンが、だって……?」
と、事件の容疑者、倉沢くららについて調べている中で、友人の名が出てきたことに、心底おどろいているようだった。
だが、
「それは、アレじゃないか? この、倉沢って人物も、水の研究者なんだろ? 互いに水の研究者だから、面識があって、連絡を取りあってた――とかじゃないのかい?」
と、ドン・ヨンファは冷静になりながも、妖狐の神楽坂文に聞く。
それを聞いて、横からカン・ロウンが。
「まあ、この水の匣事件は、水の研究者としては、大変興味深い事件だというのは間違いないからな。その件について、連絡を取りあって、例えば、意見や見解を交換したり、議論をしていても、おかしくないだろうな」
と、言葉をはさむ。
すると、
「ふむ。そしたら、キノコヘア? この、ス・イジュンに、連絡を取ってみるのだ」
と、妖狐が提案した。
「まあ、そうだね」
ドン・ヨンファも、そろそろ連絡してもいいかなと思うので、電話をしてみる。
そうして、電話をかけたところ、
――プルルルル……、プルルルル……
と、ずっと鳴らしてもつながらず、しまいには留守番電話になる。
数回、すこし間をおいてかけても、同じようにしてつながらなかった。
「う~ん……、電話に、出ないなぁ」
ドン・ヨンファは、まいったなと言う。
また、電話をしてみるのだけでなく、チャットでもメッセージを送っており、
「メッセージのほうは、どうなんだ?」
と、カン・ロウンの問いに、
「うん。既読は、つくんだけどね」
と、メッセージの既読自体、つくのを確認しながら、
「ま、あ……、忙しいだけ、なんじゃないのか?」
「ふむ……」
と、妖狐も相づちしながら、考えこむような顔をした。
そのようにしながらも、傍らでは“葛葉”での調査は続いていた。
そして、
――ピーン……!
と、来たように、
「むむ、む……?」
と、妖狐は、“何か”に気がついた。
「――?」
「う、ん……?」
「あん”? どうした?」
妖狐の様子に、三人が反応する。
葛葉をとおして、瞬時に確認した情報。
それによって、
「どうやら……? この、ス・イジュンだが、さきほど、日本行の飛行機に乗ったようだな」
妖狐の言葉に、
「――!?」
と、カン・ロウンが目を見開き、
「なっ、何だって――!?」何だと――!?」
と、また同じように、ドン・ヨンファとキム・テヤンが、驚愕の声をそろえた。
「ふむ。ここから、すこし強引な“ご都合主義”も交えて、推測してみよう」
前置きしながら、妖狐が、
「恐らく……、倉沢と、ス・イジュンとは、仲の良い間柄なのだろう。ともに、水に関して研究をしているし……、この、ネットゲーでも、交流をしているようだ」
と、ホログラフィに、蒐集し解析した情報を映し出してみせる。
そこには、ネットゲームの個人データとともに、キャラクターらしき者がうつっていた。
何か、髪の長い、水つかいの愁いを帯びた顔の美青年であり、
「あ、あ……? クラリティ何とかって、ハンドルネームがどうこう、言ってたね」
と、ドン・ヨンファも思い出した。
妖狐が続けて、
「それで、関係を深めていった中で、どの時点かは分からぬが……、倉沢とス・イジュンのどちらかが、異能力、もしくは異能力を発動するアイテムかナニカを入手したとする」
「……」
「……」
と、間を置きながら、
「そうして……、動機は謎だが、“遠隔で水を操作できる力”というのをもって、この、“水の匣事件”の犯行を行うようになった、と――」
と、話した。
まだ、カン・ロウンたちは、
「……」
「……」
と、沈黙したまま、注意して妖狐の言葉に耳を傾けようとしていた。
妖狐が、そのまま続けて、
「ああ? こう、仮定しようか? 倉沢が、この水の匣事件を起こしており、それを、ス・イジュンが知ってしまった――。まあ、そこで、彼女の犯行に積極的に協力しているのか……、あるいは、彼女が水の匣事件の犯人というのが周囲や世にバレてしまわないように、彼女を守ろうとしているのかは定かでないが……、そのどちらかの理由で、倉沢と何らかの連絡を取っているのだろう」
と、ある程度話すと、
「ま、あ……、守ろうとしているんじゃ、ないか?」
と、ドン・ヨンファは言った。
それほど根拠はないが、知り得るス・ミンジュン友人の人間性から、少なくともそう信じたかった。
「それで――、そんな矢先に、ヨンファが、サンプルを持って行った。すなわち、貴様たちSPY探偵団が、この件に対して調査をする――という、好ましくない事態が起きたわけだ」
妖狐が言い、カン・ロウンも続けて、
「まあ、我々、胡散くさいサークル活動のようなものながらも、これまでに、それなりに多くの、奇妙な事件の解決に貢献してきたという実績がありますから……、もしかすると、『犯人が倉沢である』という真実に、我々がたどり着いてしまう可能性があることを、ヨンファの友人は、危惧したのかもしれません」
と、推測をした。
また、妖狐が仮の話を続けて、
「そこで、ヨンファからサンプルの分析の依頼を受けたス・イジュンは、調査の話をするのは、のらりくらりとかわしながらも……、“何か”を考えていたのだろう」
「う、ん……」
と、ドン・ヨンファが相づちし、
「そのとき、ちょうど、タイミングが良かったのか……、パク・ソユンが蘇州に行くことと……、それに合わせて、ヨンファと、SPY探偵団も蘇州に行くということを、ス・ミンジュンは知った」
「……」
「……」
「……」
と、カン・ロウンたち三人は、沈黙したながら次の言葉に注意し、
「そこで――、如水イベントで、“水の匣事件”を起こすことで、SPY探偵団を蘇州に釘づけにし……、なおかつ、アクア・キューブリック社に疑いをかけるべく、一連の、事件を連続で起こした――」
「……」
「……」
「……」
と、三人の顔が、緊迫した表情になりながら、
「それで……、まあ、あわよくば、パク・ソユンとあわせて、貴様たち、SPY探偵団を殺すつもりだったのだろう」
と、妖狐の言葉を聞いて、
「そ、そんなっ!? 僕は、友人だぜ!?」
と、ドン・ヨンファが、自身を指さしてみせると、
「けっ、てめぇが、友人だと思ってるだけじゃねぇのか?」
「はぁ、嫌なこというなぁ」
と、舌打ちして茶化してきたキム・テヤンに、嫌そうな顔をした。
話を戻して、
「ふむ。まあ、本当の友人であろうと、知り合いていどであろうと……、そんなのは問題でなかろう。もし、この倉沢という女が、ス・イジュンにとって重要な存在であれば……、友人を天秤にかけて、殺すことも厭わないだろう」
と、妖狐の言葉に、カン・ロウンとドン・ヨンファはともに、
「……」
「……」
と、重そうな表情で、沈黙した。
沈黙しつつ、
「ま、あ……」
と、ドン・ヨンファは相づちした。
確かに、友人としてはそれなりの間柄だが、もし、どちらかの命だったり人生をかけたりしなければならないとすると、ス・イジュンは自分よりも、大事な女を選ぶのは仕方がないだろうと思った。
また、続けて、
「ただ、“そう”はいかなかった――。如水イベントの続報がはいる中で、パク・ソユンが、水の匣に閉じ込められたにもかかわらず、命に別状はないこと――、そして、今しがた、ヨンファから電話と、メッセージがあったわけだ。如水イベント会場での襲撃が上手くいかなかったことを、ス・イジュンは分かったと思われる」
「あ、あ……」
ドン・ヨンファと、
「ええ……」
と、カン・ロウンが、相づちしつつ、
「それで、焦ったのか――? あまり考えも無しに――の行動なのかは分からぬが、韓国から、わざわざ日本へと飛び立ったのだろう」
と、妖狐が言った。
それを聞くなり、
「じゃあ、我々も、すぐに日本へ、」
と、カン・ロウンが慌てそうになった。
その時
「ぽよ……」
と、どこからか聞こえた声に、
「「「――!?」」」
と、カン・ロウンたち三人が驚いた。
そうして振り向いて、声の主を確認した。
そこには、
――ゆらり……
と、パク・ソユンの姿があった。
その、先ほどまで病院にいたような服装をしたパク・ソユンに、
「「そっ、ソユン――!!」」
と、三人が声をそろえた。




