49 オカルト漫画の名ゼリフのように
(2)
「「「『『『なっ!? 何だって――!?』』』
と、オカルト漫画の名ゼリフのように、話は再開する。
皆が、注目する先――
妖力によって出力される、ホログラフィ。
そこには、“とある若い女”の姿が、映っていた。
おそらく、プロフィール写真の類、だろうか?
凛としながらも、柔和な感じで、なおかつ、淀みの無く澄んだ目をした女。
名を、倉沢くらら、という。
東京都在住の、日本人の30代の女で、そして、何かの偶然か――? この倉沢くららも、水の研究者だという。
そして、妖狐の“葛葉”と韓国警察のスパコンなどを使って解析した結果、この倉沢くららが、水の匣事件の、ほぼすべての現場を“見ていた”ことが分かった。
そこまで、皆で確認して、
『本当に……、この、倉沢って日本人で……、間違いはないのか?』
マー・ドンゴンが、妖狐に聞いた。
まあ、自分たちのスパコンも利用して確認しているわけであり、ほぼ確信は持ちたかったのだが、念のためにだろう。
「まあ……、“巧妙に隠そうとした”ところもあるが……、すべてのカメラ、映像にアクセスしていたのは、この倉沢だ」
妖狐が、すこしドヤ顔して答えた。
ただ、
「ちなみに、その、監視カメラについては、ハッカーが手を貸した痕跡があるというのだろ? それは、どうなんだ?」
と、こんどは、こちら側にいるキム・テヤンが、ホログラフィを指して妖狐に聞いた。
『いくら優秀な科学者とはいえ、マンガの万能キャラクターみたいに、監視カメラやセキュリティ網に外部から侵入するハッキング能力とかまでは、持ってなかったかぁ……』
と、呑気そうなイム・ジェユルに、
『まあ、そんなもんでしょ。そんな、マンガや映画に出てくるような、超人的なスペックの人間なんて、真に受けちゃダメでしょ』
と、イ・ヨンヒが言った。
彼らふたりの会話はスルーして、
『まあ、ハッカーが手を貸した痕跡があること自体は、今回の解析でも見て取れるが……、この、ハッカーと容疑者、倉沢をつなぐやり取りの記録というのは……、残念ながら、“葛葉”でも、蒐集することはできなかったな」
妖狐が言いながら、膨大なデータを解析した結果が、何かそれっぽくホログラフィに表示されていた。
「タヌ、神楽坂さんの妖力でも、ダメだったんですか?」
カン・ロウンが、すこし驚いた様子で聞いた。
「うん。ダメだった」
妖狐が、軽い言葉で返しながらも、
「まあ、ここだけはワンチャン……、何か、邪神だったり、“それに類するような存在”、あるいは結社や犯罪グループというものが、関わっている可能性もあるが――」
と、すこし意味深な雰囲気を出して、答えた。
『――で、だ? 巧妙に、自分や、協力者たちの痕跡を隠しながらも……、その、倉沢くららって女が、すべての現場を“リアルタイムで見ながら”、犯行を行った可能性がある――、ってわけか?』
マー・ドンゴンが、確認するように妖狐に聞いた。
「まあ、すべての現場を見ていただろうってことは、犯人の可能性は、いちばん高くなろう。数現場だけなら、たまたまの可能性もあろうが……」
『そう、ね……、十数件のケースで、犯行時刻と“見ていた時間”が一致するなんて、よほど、天文学的な確率だしね』
妖狐の答えに、イ・ヨンヒが補足した。
そうしながらも、
『しかし……、こんなので、犯人を決めていいのか? おい?』
と、まだ、マー・ドンゴンが納得してなさそうな顔で聞いた。
「“こんなの”とは、失礼な。ギャンブルで負けての、なけなしの妖力を使ったのだぞ。この、うんこ」
「「『『だから、うんこ、やめれっての』』」」
こちら側とスマホの向こうで、妖狐につっこむ声がそろった。
気を取りなおして、
「まあ、いずれにせよ……、この、倉沢くららが、水の匣事件の犯人で、ほぼ確定で、いいだろう」
と、妖狐が言いつつ、スマホの画面をむこうの、マー・ドンゴンたちに向かって、
「それで、あとは、我々がやろう」
『我々が、って?』
イ・ヨンヒと、
『タヌキ、お前さん、と……?」
と、マー・ドンゴンが聞き返すと、
「ああ……。この、変人の三人だ。“変人”の――」
と、変人と強調しつつ、妖狐はドヤ顔で、カン・ロウンたちを露骨に指さしてみせた。
変人呼ばわりされ、
「けっ、てめぇに、変人言われたくねぇっての」
と、キム・テヤンは舌打ちし、
「そうだよ」
と、ドン・ヨンファも、面白くなさそうな顔をすると、
「あぁ”? てめぇとロウンは、変人でいいだろが」
「何で、だよ」
と、「俺を一緒にするな」と突き放した。
ふたりをスルーして、妖狐が、
「とりま……、この倉沢は、日本にいるわけだから、どちらにしろ、行くのは我々になるだろう」
『まあ、私たちのほうでも、タヌキさん、貴方の分析を参考にして調べるわ。あと、日本の警察にも協力するわ』
と、イ・ヨンヒが答え、
「おい。だから、タヌキじゃなくて、キツネだと言っておるだろが、このウンコ」
『あら? 私は、それは、初耳だけど』
「妖狐だから、タヌキになるわけなかろう。覚えておくのだ、次タヌキ呼ばわりしたら、ウンコ確定な、貴様」
と、ここらで、マー・ドンゴンたちとのテレビ電話でのやりとりが終わった。
…………
蘇州の、古民家の居間が静かになって、
「そう言えば、だ――」
と、妖狐は、こんどはドン・ヨンファのほうを向いて、
「お前の、友人とやらは、どうした?」
「友、人……?」
ドン・ヨンファが、キョトンとしながらも、
「あ、あ……!」
と、ピンと来て、
――ポン!
と、手のひらを叩いた。
一番最初に、水のサンプルを持っていって分析を頼んだ友人、ス・イジュンのことを思い出した。
妖狐は、ホログラフィの、解析データを見せながら、
「偶然か――? この倉沢と、通信している記録があるぞ」
「――!?」
と、カン・ロウンが、サングラスの奥で目を見開き、
「「何、だって――!?」だと――!?」
と、ドン・ヨンファとキム・テヤンが、声をそろえて驚愕した。




