48 いや、夜神ラ〇トのスペックは、一般人的じゃないでしょ
(1)
「――それで、犯行をしたい現場の、リアルタイムの映像さえあれば……、犯人は異能力をもって水を操り、“水の匣”をつくることが可能だというのはわかったが……」
カン・ロウンが、まず、まとめるように言った。
その流れで、
「これまでのケースは、どうなんだ? マー?」
と、キム・テヤンが続いて、スマホ画面の向こうの刑事たちに聞いた。
「ああ……、これまでの、ケースは……」
マー・ドンゴンが、思い出しながら答えようとした。
だが、それより速く、
――フ、ァァン……
と、またホログラフィが、マー・ドンゴンたちとカン・ロウンたちの両方のほうに現れた。
映し出された内容はというと、何やら、捜査資料らしきもので、
「ふむ。これまでのケースは、ライブカメラや、監視カメラ……、もしくは被害者もしくは付近にいた第三者が、SNSなどで、動画でリアルタイムに発信されていた――、のいずれかの条件を満たしているな」
と、妖狐が内容を見ながら言うと、
『あっ、』
と、イ・ヨンヒが、何かを察した。
ほぼ同時に、
『おいっ!! お前、うちのデータにハッキングしただろ!?』
と、マー・ドンゴンも、声を大きくして妖狐に問いつめる。
「うん。“する”って、言っただろう」
『うん、じゃねぇよッ!!』
『そうよ!』
と、マー・ドンゴンとイ・ヨンヒが、怒ってみせるが、
「まあ、いずれにしろ、話を進めるうえで、遅かれ早かれ出す必要のある資料だろ? 貴様たちが、わざわざ出す手間が省けたではないか」
『いや、そうだけどさ、』
と、イ・ヨンヒが呆れるも、続きを話すのをやめた。
そういうわけで、資料を見ていく。
先日の、ソウルの別荘地区のケース。
地区にあるカメラと、邸宅敷地に設けられた監視カメラ。
監視カメラの記録には、落水庭園ともいえる場所から、まさに水のキューブ群が現われ、ガイシャたちを襲う始終の映像がのこっていた。
それから、マー・ドンゴンとチャク・シウがコーヒーブレイクに寄っていたカフェでは、SNSのいくつかから、映る水辺から、水のキューブが出現するのが見てとれる。
また、これは韓国警察の資料ではないのだが、本日のさきほど、中国は蘇州の如水イベントの動画サイトでの発信に映る、パク・ソユンが水のキューブに襲撃される様子。
さらに、アクア・キューブリック社にある、美しい水の室内庭園の様子が、ライブカメラにて映し出されており、やはり、そこから水のキューブの大群が出現していた。
それから、日本の黒部峡谷のケースや、池袋のサンシャインシティでの水の匣のケースなど、おおむね確認しつつ、
「確かに、すべてのケースで、異能力者が水のキューブを操るのに充分な、リアルタイムのカメラ映像というのが、ありますね」
と、カン・ロウンが言い、
「これらの映像を見ながら、犯人が、異能力を、現場付近にあった水にこめて操るわけかい?」
と、ドン・ヨンファが、確認するように言った。
ただ、そこへ、
『まあ、だけど……、厳密には、最終的には。カメラに写ってない場所で“水の匣”につかまってしまった被害者もいるのだけど?』
と、イ・ヨンヒが、資料を見ながら気になると、
「ふむ。まあ、そこは、水のキューブの“ドローン”さえ作ってしまえば、それらが、なかば自律的にターゲットを襲う――。そうすると、襲撃の、カメラに写っていない部分も説明できるのではないか」
『何? そこは、都合がいいのね』
「うん。異能力なんて、そんなもん」
『はぁ、何? その、軽いノリ』
と、補足した妖狐につっこんだ。
また、話を続けて、
「――で、ここまでのことを、考えるに……、まあ、監視カメラに関しては、誰でも彼でもアクセスできるわけではないから、何らかのハッキング技術がいるだろうが……、その辺の、小っちゃいことは、気にせずに、だ――」
と、妖狐が前置きすると、
「いや、気にしろよ」
と、キム・テヤンと、
『小っちゃいことじゃ、ないでしょが』
と、イ・ヨンヒがつっこんだ。
ただ、それらをスルーして、
「あとは、簡単に考えるため、犯人が単独犯であると仮定すれば、だ――、犯人が、おおよそ全ての現場を“見た痕跡”というのが、残っているはずだ」
と、妖狐が言った。
『“見た痕跡”って、アクセスした記録とか、かな?』
イム・ジェユルが聞き、
『まあ、そうでしょが』
と、イ・ヨンヒが答えた。
「ふむ。何らかの形で、電子空間上に、犯人がアクセスした記録が残っているだろう」
「だが、よぅ? そんなもの、簡単に、残すものか? タヌキ」
妖狐に、キム・テヤンが疑問を投げるも、
「まあ、“我々が今しているような調査をする者”がいることを、もし、犯人が想定しているというならアレだが……、まあ、ふつうは、そんなことなど、想定してないだろう」
「まあ、そうだろうが、」
と、キム・テヤンが、何か言いたげに相づちし、
「とりあえず、今回は、そんな想定をせずに……、どちらかというと、“一般人的な犯人”というのを仮定して話を進める」
『何よ? その、“一般人的な犯人”って』
と、イ・ヨンヒが、妖狐のあげたキーワードに引っかかり、
『たまたま、デスノートを拾った夜神ラ〇ト――、みたいな?』
と、イム・ジェユルが思いつくも、
『いや、夜神ラ〇トのスペックは、一般人的じゃないでしょ』
と、つっこまれた。
「まあ、夜神〇イトはアレだが……、一般人が、たまたま、何か異能力を手にした、もしくは異能力を発動できるようなアイテムを手にした――、みたいに考えてよかろう。とりあえず、その仮定で調べていくぞ」
「ええ」
と、カン・ロウンと、
『ああ、分かったよ』
と、マー・ドンゴンが、仕方なさそうに頷いた。
妖狐が続けて、
「それで、もし、犯人が、“現場を見た記録”が残っているとすると、だ――、こんな、水の匣事件、十数件の現場すべてを、犯行時もしくは犯行前に見ている人物などというのは、限られるだろう」
『だろうな――。数現場くらいなら、たまたま見ていた人間なんざ、何人か、被るがだろうが……、十数件だとな』
と、マー・ドンゴンが、同意ぎみに捕捉し、
『まあ、天文学的な確率でしょうね』
と、イ・ヨンヒも、つけ加えた。
そうして、
「では――、ちょっと、“見て”みようか?」
と、妖狐は言うなり、
――ポ、ワァァンッ……
と、身体のまわりを覆うオーラが、強くなる。
“葛葉”の、出力が上がり、インターンネット空間上の、膨大な情報・記録を蒐集せんとする。
それには、少々時間がかかるわけで、
「……」
「……」
と、カン・ロウンたちと、
『……』
『……』
と、マー・ドンゴンたちともに、しばし、ジッ……と待つ。
「妖力とは、そんな都合よいものか」と言いたかったが、とりあえず、黙って見る。
――フ、ァァン……
と、“葛葉”の“つる”と金糸は、光ファイバーにように光っていた。
情報の蒐集だけでなく、ちゃっかりと警察や調査機関などのコンピュータも拝借しつつ、情報を解析していく。
『まだ、かかるのか?』
マー・ドンゴンが、聞く。
「ああ……」
妖狐はうなづきながら、
「我が妖力、けっこう弱体化していてな……、先日、私の居る異世界の住人どもとギャンブルしてて、負けてしまってな」
「「だから、それ、やめればだろが」いいじゃん」」
と、キム・テヤンとドン・ヨンファのつっこむ声が、途中まで重なる。
『何? ギャンブルで負けたら、減衰する仕様なの? アナタの妖力』
イ・ヨンヒが聞くと、
「うん」
と、妖狐の返事に、
「「『『うん、って、軽いな』』」」
と、こんどは、こちら側とスマホの向こうの声が重なった。
また、妖狐が、
「ああ、ちなみに……、データ解析には、貴様たちのスパコンやらを、ちゃっかり使わさせてもらっているからな」
『あぁ”?』
と、マー・ドンゴンが食いつくと、
「まあ、そう言うな。我が妖力、先ほど言ったように、無尽蔵でなくてな……、ギャンブルで負けて、減っているのだ。野獣か、貴様?」
『だから、ギャンブルやめれってんだよ。てか、野獣呼ばわりするなっての、タヌキ』
と、嫌そうな顔で言った。
また、
『それで、その、アナタの、“葛葉”だったかしら――? そんな簡単に、犯人らしき人物が、ひっかかるの?』
と、イ・ヨンヒが効いてきた。
「ふむ。そうだ、な……」
妖狐は、「もうすこし時間がかかる」と、答えようと思いきや、
――ピーン……
「むむ、む――?」
と、“葛葉”から、“何か”感じ取った。
その様子に、
『『ん――?』』
と、マー・ドンゴンとイム・ジェユルが反応し、
『何か、分かったの?』
と、イ・ヨンヒが、そう直観して聞いたところ、
「ああ……。おおよそ、“絞れた”ぞ」
妖狐が、ドヤ顔で答えた。
「おおっ……!」
カン・ロウンが思わず声をあげ、
「「何、だって――?」」
と、キム・テヤンとドン・ヨンファが続いた。
「まあ、監視カメラからの画像については、ハッカーの形跡など、ある場合もあるが……、おおむね、“ある人物”が、すべての事件ケースの現場の映像を見ていたり……、また、現場付近の情報を、おそらく、犯行前に品定めするように調べていたみたいだな」
妖狐が言うと
「「『『――!?』』」」
と、こちら側のカン・ロウンと、スマホ画面の向こうのマー・ドンゴンたちが、同時に驚愕する。
その反応を見ながら、
「それで、だ――。“犯人と思しき者”のアクセス……、それは……」
と、妖狐は間を置いて、
「――日本からだ」
「「「『『『なっ!? 何だって――!?』』』




