46 東京駅前の石畳に、トライフォースというかミツウロコを
(3)
『協力、だと――?』
マー・ドンゴンが、顔をしかめた。
「ああ……」
妖狐が、ドヤ顔で答える。
すると、指先の緑色のオーラから、
――にょ、きッ……
と、“植物と思しきナニカ”が具現化される。
三角形3つの葉っぱが特徴的な、緑色をした葛のつる葉と、それに寄り添う形で、電子回路をイメージしたような金細工のようなファイバー。
妖術の、“葛葉”――
そして、具現化された葛の“つる”が、テレビ電話として置かれていたスマホ画面へと伸びる。
すると、
――にゅ、るんッ――!!
と、まさに画面を突き破ろうとしたとき、
『『おぅ、わっ――!?』』
と同時に、画面の向こうの、マー・ドンゴンとイム・ジェユルが驚いて声をあげた。
なお、
『『――!?』』
と、イ・ヨンヒとチャク・シウのふたりは、マー・ドンゴンたちとは対照的に、すこし驚きはするものの、声をあげるほどではなかったが。
そうして、画面を突き破るかと思いきや突き破らず非破壊的に、“葛葉”の“先っちょ”はスマホ画面をつうじて時空間を超えて貫通し、マー・ドンゴンたちのほうにも現れたのだ。
『なッ!? 何だ、こいつは!?』
マー・ドンゴンが、まだ驚いた顔したまま聞いた。
「ふむ。こいつは、情報蒐集術の、“葛葉”でな――。あらゆる通信網に侵入して、情報を得たり、ハッキングしたり……、また、そのまま解析することができるという、けっこうチートな妖術とでも言おうか」
『ああ”? ハッキングだと?』
マー・ドンゴンが、ハッキングの言葉に反応し、
『あっ? 自分で、“チート”、言っちゃうんだ?』
と、イム・ジェユルがチャラけた様子で言ったところ、
「おい、うるさいぞ、うんこ」
『『『うんこ――!?』』』
と、妖狐のウンコ呼ばわりに、チャク・シウ以外の三人が声をそろえた。
『何? その、小学生みたいな悪口』
イ・ヨンヒが、とりあえず妖狐につっこんでおいた。
気を取りなおして、話を進めていく。
『――で? こいつで、どうするつもりなんだ?』
と、マー・ドンゴンが、妖狐に尋ねようとした。
その矢先、
『って――!? おい!! 何だ、こりゃ!?』
と、マー・ドンゴンが驚きの声をあげた先――
そこには、スマホ画面から伸びる“葛葉”のつる葉が広がり、それらはマー・ドンゴンやイ・ヨンヒたちのノートパソコン、あるいは休憩室外の、警察の通信網にまで侵入していた。
「ちょっと、な――」
妖狐は、ドヤ顔しながら、
「貴様たち、韓国の警察のコンピュータ網にもハッキン――、いや入らせてもらったぞ」
『は? いま、ハッキングって、言いかけたでしょ?』
『ああ”? ハッキングだと?』
と、さすがに“ハッキング”との言葉には、イ・ヨンヒとマー・ドンゴンも反応を変えるものの、
「まあ、そういきり立つな。“それ”をしたところで、特に、情報が漏れたり、貴様たちの通信網やコンピュータがダメになることはないから、気にする必要もなかろう」
『気にする必要ないって、な……』
と、呆れるマー・ドンゴンと、
『それで、いったい? 何を、するつもりなの?』
と、その傍らから、イ・ヨンヒが聞いた。
「何を――? って、もちろん、調査に決まっておろう」
『いや、それは分かってるけど、どういうふうにするわけ? その、妖力っていうので』
「ふぅ……、めんどいが、答えてやろう」
妖狐は、「やれやれ」と身振りしながら、
「すでに、十数件以上続いている、この“水の匣事件”――、さきほど、貴様たちは、もし犯人が異能力を使っているとすれば、数百キロから千キロ以上離れた距離でも通じる遠隔的な力の可能性がある――、との仮説を、話したよな」
『まあ、そうだが、』
と、マー・ドンゴンが相づちする。
「それで、だ――」
妖狐が、何か、前置きしようとする。
「――?」
カン・ロウンと、
「あん?」
「う、ん……?」
と、キム・テヤンとドン・ヨンファの、しばらく蚊帳の外だった三人が、反応する
妖狐は、スマホ画面だけでなく、カン・ロウンたちのほうも見えるように角度を変えながら、
「――もし、そのような“遠隔的な異能力”を、仮に、自分が使えるとすれば、どうやって犯行を行うだろうか? おのおの、考えてみるのだ」
と、カン・ロウンたち三人と、スマホ画面の向こうにいる四人の、あわせて七人に同時に問うた。
「仮に、自分が犯人とすると――、ですか?」
カン・ロウンが聞き、
「ああ……」
妖狐が、うなづいた。
まず、
「まあ、どんな形の異能力か分からねぇが、ドローンの群れみてぇに、水のキューブが動いていたということを考えると……、オペーレーターみたいに、“見て”、操るってのが、必要になんのか?」
と、キム・テヤンが投げかけると、
『ドローンの、オペレーターね……。戦争でも、使われるようになって久しい』
と、イ・ヨンヒが言った。
確かに、現代の戦争で当たり前のように用いられるようになったドローンと、その攻撃場面の様子が、皆おのおの頭に浮かぶ。
そこへ、
『その、“見る”場合の視点ですが……、それは、ドローンに搭載するカメラのような視点なのかですか? それとも、現場を、俯瞰で見るような視点、なのでしょうか?』
と、チャク・シウも、疑問を投げかける。
『そう、だな……?』
マー・ドンゴンが、考える仕草をする。
『多数の水のキューブの、同時に操るんだったら……、現場を、ある程度の範囲で見ることのできる、俯瞰的な視点のほうが、いいんじゃないか? 俺は、ゲーム的には、そっちの視点のほうが好きだぜ』
と、イム・ジェユルが、チャク・シウのほうを見て答えた。
それを聞いて、
『そうすると……、犯人は、犯行を行いたい場所の――、“水の匣”を作りたい場所の、定点ライブカメラだったり、監視カメラの映像だったり……、もしくは、誰かがSNSでライブをしてる、スマホのカメラの映像さえあれば、犯行を行なえるってことか?』
と、マー・ドンゴンが、まとめるように言った。
『あら? いい感じに、まとめたわね。さすが』
『まったく、さすがじゃねぇよ』
と、イ・ヨンヒに、やれやれと言いながら。
ここまで話が進んで、
「ふむ。まあ、悪くない仮説だな。貴様たちにしては」
『何よ、貴様たちにしては、って』
『人様に考えさせて、偉そうにしやがって』
と、イ・ヨンヒとマー・ドンゴンのふたりがつっこむと、
「まあ、そう言うな。私だって、この、貴重な妖力を使ってあげているだろ」
と、妖狐が言った。
そこへ、
「それで、タヌ、キツネさん? “そんな異能力”ってのは、その……、本当に、実在しうるのかい?」
と、こんどはスマホ画面の向こうからではなく、少し斜め横くらいから、ドン・ヨンファが聞いてきた。
「何だ? まだ、そこを疑うのか? このキノコヘア。このウンコ」
「何だよ、わざわざウンコ呼ばわりして」
と、ウンコ呼ばわりにつっこむドン・ヨンファに、
「まあ、そうだな……?」
と、妖狐は、天井を仰ぐしぐさをしながら、
「――そしたら、“実演”してやろう」
と、言った。
「「実演だと――?」だって――?」
キム・テヤンとドン・ヨンファ、それと、
『『実演――?』だと――?』
と、イ・ヨンヒとマー・ドンゴンの声が、ほぼ同時に重なった。
「ああ……、そっちのほうが、説得力あるだろう」
妖狐が答える。
そうして、
――フ、ァァン……
と、ホログラフィがあらわれるなり、そこには、夕闇の、東京駅が映し出された。
「あん?」
キム・テヤンが、目を細め、
『『ん……?』』
刑事たちも、同様の反応をする。
「ここ、は……?」
カン・ロウンが、ピンと来そうになったところで、
「東京駅――、かい?」
と、ドン・ヨンファが、先に答えを言った。
「ああ……、そのとおりだ」
妖狐が、うなづく。
映し出される東京駅の丸の内がわだが、石畳から、水が出るようになっており、打ち水の役割をするのもそうだが、出てきた水によって濡れた石畳が、まるで鏡のようになって、幻想的な光景をつくりだす。
ゆえに、写真を撮って映えるスポットとしても有名だった。
『それで? ここで、何をするんだ?』
マー・ドンゴンが聞いてき、
「まさかっ――」
と、キム・テヤンが、悪い予感のするときの顔をして察した。
「ああ。その、“まさか”だ――」
妖狐が、すこしドヤ顔で答える。
同時、
――シ、ャァァッ……
と、ホログラフィの中に映る東京駅前の石畳から水が出てくる。
それらは、石畳を濡らしながらも、
――シュシュ、シュ、シュッ……、シュシュ、シュシュッ……
と、まるでCG作品のように、水の、ちいさな三角錐のような立体が集まりながら、“何かの形”をつくっていく。
そして、
――シャッ、キーン……
と、すなわち――、東京駅前の石畳に、トライフォースというかミツウロコを、くり返しつづく入れ子構造にしたような、“フラクタル立体”が形成される。
これには、
『『なッ――!?』』
『『――!?』』
と、スマホ画面向こうの、休憩室にいる刑事たちと、
「あん――!?」
「「――!?」」
と、カン・ロウンたちが同時に驚く。
水の立体オブジェというか、大小多数の水の三角錐で構成される、高さにして5メートルほどはありそうな、ピラミッド型のフラクタル立体――
それらは夕闇に染まる東京駅前の灯りを、ダイヤモンドでできたシャンデリアのように眩く、幻想的に映し出す。
これには、
『うぉぉ……、すっげ……』
と、イム・ジェユルと、
『これは……、綺麗ね……』
と、イ・ヨンヒのふたりも、思わず見とれ、感嘆の声をあげる。
だが、同時に、
『――てか? もしかして……? 犯人、タヌ、キさん――? だったりしない?』
と、イム・ジェユルが、おどけて言ってみせるも、
「おい。殺すぞ、ウンコ」
露骨に、「殺すぞ」の顔する妖狐に、
『あっ……? ごめん。じ、冗談だって。ウンコ呼ばわり、やめて』
と、詫びた。
そうしながらも、ホログラフィに映る東京駅前のこと、まるで映像アート作品のように美しい水のピラミッドが出現したわけであり、当然のこと、騒ぎになっていた。
驚く者やガヤガヤ騒ぐ者たち、また、あまりに美しいことからスマホカメラにおさめたり、SNS映えのために背景にして撮影しだす者たちが入り乱れ、
『てか? おい? 騒ぎになってんじゃねぇか』
と、マー・ドンゴンが言うと、
「おっ? めんご、めんご。これは、やりすぎたかもな」
「『やりすぎたかもじゃねぇだろ、まったく』」
とここは、マー・ドンゴンとキム・テヤンが同時につっこんだ。




