45 デスノートっつうのは
(2)
すこし、時間は戻って――
同時に、場面も、韓国のソウルの、マー・ドンゴンのほうへと変わる
将来はシーシャを置きたい、ヤニカス部屋にて、
「なあ、お前たち――?」
と、マー・ドンゴンの呼びかける声に、
「は、い……?」
と、チャク・シウが、ゆるりとマー・ドンゴンのほうを見、
「ん――?」
と、イム・ジェユルと、
「は? 何?」
と、イ・ヨンヒが、注目した。
「黒魔術、つったけど……、その、ちょっとした疑問でな。黒魔術の力ってのは、どれくらい離れた相手まで、伝わんだろうな?」
と、マー・ドンゴンの問いに、
「はぁ?」
と、イ・ヨンヒが、「どゆこと?」の顔をし、
「距離、ですか――?」
と、イム・ジェユルが、聞き返した。
「ああ、距離に決まってんだろ」
「そっすねぇ……、何か、古いアメリカの映画とかに出てきそうな黒魔術だと……、隣の街とか、州とかまでは、届くんじゃないんすか?」
と、イム・ジェユルの答えに、
「あっ、何か、そんなイメージありそ」
と、イ・ヨンヒが言った。
また、マー・ドンゴンが、
「――けどよう? その、何だ? 日本のマンガの、デスノートってあるじゃねぇか。あれも、広義の意味で、黒魔術みてぇなもんだろ?」
「まあ、黒魔術の定義なんか考えたことないけど」
「とりま、黒魔術か、“みたいなもん”として考えると……、デスノートっつうのは、それこそ、日本からアメリカにいる人間も、地球の裏側にいる人間も、殺せるわけだろ」
「まあ、そうだろね」
と、イ・ヨンヒが相づちし、
「すると? 警部は、今回の水の匣事件でも、デスノートと同じように、数百キロから数千キロ離れたところにいる犯人が、“何らかの力”を以って、水を操って犯行を行った――と、考えているのですか?」
と、チャク・シウが、聞いた。
「まあ、な……。おそらくロウンたちは、“そこまでの遠距離でも働く異能力”ってのを想定してねえから、その、妖狐ってやらが数キロ圏内を調べようが、永遠に犯人なんて感知するわけないってこった」
「つまり、“遠くから過ぎて”分かんない――、ってことでしょ?」
「ああ」
と、マー・ドンゴンが、イ・ヨンヒにうなづいた。
「灯台、下暗しってやつっすね」
イム・ジェユルが、言いながらサングラスをくいッとして光らせ、
「全然、違うだろが」
と、マー・ドンゴンはつっこみながらも、
「まあ、マンガにしろゲームにしろ、出てくる遠距離攻撃魔法ってのは総じて、
せいぜい戦場、フィールド内までしか通じないイメージがありますもんね」
「ああ、国をまたいだ、ミサイル戦略シミュレーションゲームとかくらいじゃないのか? 数百から数千キロ単位の攻撃距離が出てくんのって」
と、イム・ジェユルに答えた。
「それで? その可能性で、調べていくつもりなの?」
イ・ヨンヒが聞いた。
「いや、俺たちはさすがに、こんな俺の思いつき程度のもんで捜査をするわけにはいかねぇだろ」
マー・ドンゴンは、すこし馬鹿馬鹿しそうに答えながら、
「まあ、あいつらが、数キロ程度の遠距離ってのを想定しながら堂々めぐりしてるのも気の毒でな、ちょっと、アドバイスくらいしてやるよと思ってな――」
******
――というわけで、時間軸と場面は戻って、
『そういうわけで……、数キロ離れたていどの距離なんてもんじゃなくて、もっと、数百キロから千キロくらい離れた遠方からの異能力ってのを、想定したらどうかと、思ってな』
マー・ドンゴンが、これまでの経緯をまとめて言った。
「数百キロから、千キロか……」
途方もない距離に、カン・ロウンもポカン……となり、
「そんな、戦略ミサイルじゃあるまいに」
と、キム・テヤンと、
「確かに、そんな遠くからの異能力って、イメージしたことないよなぁ」
と、ドン・ヨンファが言った。
『まあ、俺は、そのタヌキか、妖狐だったか――? のことは、あんまり知らねぇが、もし、その妖狐ってヤツも、そんな遠距離を想定してなかったのなら、調べなおす必要があるんじゃないのか?』
「う~む……、確かに」
マー・ドンゴンの言葉に、カン・ロウンはうなづき、
「じゃあ、あとで、タヌ、キツネさんにも、この話をしようよ」
と、ドン・ヨンファが言った。
その言葉に、
「そうだな」
と、カン・ロウンが同意しようとした。
その時、
「――ほう? “あとで”、か?」
と、突如として、頭上から声が響いた。
「へ――?」
ドン・ヨンファが、すこし嫌な予感とともにキョトンとすると、
「なかなかに、悠長なことを言うな、キノコヘア」
と、声と同時に、
――グ、ワシッ――!!
と、上からアイアンクロウのように!! ドン・ヨンファの頭が鷲掴みにされる!!
「わ、わっ!?」
ドン・ヨンファが、驚きの声をあげる。
また同時に、
――く、るッ――
と、頭上から現れた者は、回転しながら、
――ス、タッ――
と、床へと降り立った。
その姿に、
「かっ、神楽坂さんッ――!?」
と、カン・ロウンが驚きの声をあげ、
「おいおい、おい!! だから、どっから現れんでい!! てめぇはよぅ!!」
と、キム・テヤンが声を荒げた。
すなわち、先ほどは別れたはずの、妖狐の神楽坂文がふたたび現れた。
テレビ電話で見ながら、
『何だ何だ? ああ……? そいつが、妖狐ってのか』
と、マー・ドンゴンが、ピンときて言った。
まあ、宙に逆さに浮いていることから、妖狐以外の何者でもないだろう。
なお、
『へぇ、これが、妖狐ねぇ』
『おっ、美人じゃん』
と、イ・ヨンヒとイム・ジェユルも、ちゃっかり後ろに映っているという。
そんなテレビ電話画面に、
「ふむ? 誰だ、この、野獣みのある、何かパワー系の体育教師みたいなオッサンは?」
と、妖狐が、メインで映るマー・ドンゴンの姿を見て言った。
『ああ”? 誰が野獣だってんだ』
画面の向こうの、マー・ドンゴンが苛立つも、
『あら、的確な表現じゃない?』
『ププッ、』
と、思わず、イム・ジェユルが笑いだしそうになり、
『あぁ”!? てめぇ、笑いかけてんじゃねぇぞ!!』
『い、いやっ、すんません!!』
と、キレるマー・ドンゴンに詫びた。
そんな、画面の向こうのドタバタはスルーして、
「で、この、オッサンは?」
と、妖狐がふたたび聞いた。
「ああ、刑事の、マー・ドンゴンさんです」
カン・ロウンが答える。
「ふむ。確かに、なかなかに盲点だったぞ。そこまで、“数百キロレベルの遠距離”ってのは、想定してなかったな」
『その、妖狐だったかしら――? 妖狐のアナタでも、そこまで遠くの異能力を検知するっていうのは、難しいの?』
イ・ヨンヒが聞いた。
「まあ、な……。それに、いくらチートクラスとはいえ、我が妖力、基本こっちでは弱体化する一方でな」
『おっ、自分でチートクラスいうんだ』
と、イム・ジェユル。
「まあ、いずれにせよ、この“仮説”で――、数百キロもしくは千キロの遠方からの異能力の可能性もあるという方向で、調べてみようか」
「え、ええ……」
カン・ロウンが、すこし困惑気味にうなづく。
そこまで遠距離の異能力など、過去の事件で、あまり目にした記憶はないからだろう。
また、
「けど? 調べるたって、どうするんだ?」
と、キム・テヤンが聞いた。
「ふむ。そこは、我が“妖力”というのを、使うに決まっておろう」
妖狐がドヤ顔で答えるなり、
――ポ、ワァァッ……
と、金色と、緑色をあわせたオーラをおびる
「おおっ、」
「おっ、」
と、カン・ロウンとキム・テヤンが、いちおう、ちょっとは驚いてやり、
「また、妖力?」
と、ドン・ヨンファは、驚かなかった。
まあ、妖狐の眼前にいる三人は、見慣れているのもあって、この反応だった。
いっぽう、画面の向こうでは、
『『うぉっ!?』』
と、マー・ドンゴンとイム・ジェユルが、たまげて声をあげ、
『『――!?』』
と、チャク・シウとイ・ヨンヒは、表情こそすこし変えるものの、声が出るほど驚かなかった。
妖狐が、
「それ、と……? マーだったか?」
『あ、ん?』
「妖力を使ってやるが、貴様たちも、ちょっと協力するのだ」




