↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖狐、神楽坂文のコンサル譚09 【水の匣】  作者: 非常口どん八
第八章 調査と停滞

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/62

42 スタイリッシュに紅茶を淹れるが如く――




          (4)




 場面はかわって、蘇州の街にて。

 夕暮れの陰翳――、蘇州の家々や柳の陰影が、水面に浮かび、幻想的な光景となる。

 美しい光景に、また夕時となって涼しくなってきたことから、街を歩く人々も増えてくる。

 そんな中、カン・ロウンたち三人は、アクア・キューブリック社から戻って来ており、水辺の茶館のテラス席で茶を飲んでいた。

 蘇州の、銘茶――

 一口味わうと、

「ふぅ……」

 と、カン・ロウンが、ゆっくりとため息をついた。

 それに便乗するように、

「まったく……、疲れたな」

 と、キム・テヤンが言うと、

「ああ……」

 と、カン・ロウンと

「だよね」

 と、ドン・ヨンファが、軽く相づちした。

 すると、

「あぁ”? 『だよね』って、てめぇが、どうして疲れんだよ! タコ!」

 と、キム・テヤンが、キレツッコミしてきた。

「い、いや、僕だって疲れるさ? それに、主に能力使ってたの、僕じゃないか!」

 ドン・ヨンファが、キム・テヤン言い返す。

 まあ、確かに、主に異能力を発動し、なおかつ、それなりに水の匣を無力化するのに貢献していたのは、この三人の中でいえばドン・ヨンファであるのは間違いない。

 ゆえに、理不尽であり、ドン・ヨンファが言い返すのも当然である。

 話に戻って、

「でも、よぅ? それも、結局、あんのタヌキの助けがあってだろうが?」

「それを言ったら、テヤンも、そうだろ?」

 と、まだ、キム・テヤンとドン・ヨンファが軽く言い合っていると、

「まあまあ、よせよ、ふたりとも」

 と、カン・ロウンが間に入って、仲裁してきた。

「けっ、」

 キム・テヤンが舌打ちし、

「フン……」

 と、ドン・ヨンファも、すこし苛立つ。

 まあ、ここ蘇州に来てからというものの、イベント会場でのパク・ソユンへの襲撃、そして先ほどのアクア・キューブリック社での警察の捜査への参加するなど、慌ただしかった。

 ただ、それらに労力を使ったわりには、“水の匣”についての調査は、思うように進まない。

 疲労と、フラストレーションが、溜まっているのかもしれない。

「しっかし……」

 どちらかというとコーヒー派のキム・テヤンだが、茶に手をつけつつ、

「はぁ……、結局、何も進展ねぇな」

 と、ため息した。

「まあ、な」

 カン・ロウンが、相づちしながら続けて、

「仮に、異能力によるものだとしても……、神楽坂さんが、“それらしき犯人”は、周辺に“いなかった”というからね」

「いなかった、ねぇ……。本当に、そうなのか? アイツの、妖力ってのが鈍いだけなんじゃねぇか?」

「いや、そんなことないだろ。まあ、これまでに、私たちSPY探偵団の調査において、妖狐の力を目の当たりにしてきたじゃないか。その、どれもが、本物だと言わざるを得ないものだろう。なので、例えば、仮に数キロ先に異能力の使い手がいても、本来であれば、察知できるだろう」

 と、妖狐の力について、擁護してやり、

「アレじゃない? 妖力が、弱ってる、とか――? ほら? よく、『ギャンブルで負けて、妖力が減った――』とか、言ってるじゃないか?」

 と、ドン・ヨンファも、そう付け加えた。

「まあ、確かに……、本来はチートクラスの妖力を使えるとはいえ、けっこう、それで消耗して弱体化するみたいだからな」

 カン・ロウンが、まとめ、

「けっ……、まったく、ふざけた存在だぜ。あのタヌキも」

 と、キム・テヤンが舌打ちしてみせた。

 会話に間が空いて


 …………


 と、蘇州の水辺の、静寂が漂った。

 束の間の静寂なひと時を、茶とともに、すこし味わいながらも、

「まあ、もしかすると、異能力の使い手――、犯人というのが、気配を隠すのが上手いのか……?」

 カン・ロウンが、自答するように言い、

「そう、だなぁ……? それに、タヌキのヤツの妖力が減った状態が重なっちまえば、犯人の気配を探知するってのは、より難しくなるだろうしな」

 と、キム・テヤンが受け答える。

 また、カン・ロウンが、

「それ、とも……? あるいは、異能力っていうのが、“何か特殊な形”で発動されているのか……?」

「特殊な形――?」

 と、ドン・ヨンファが、その言葉が気になって聞きなおす。

「ほら? “使い手の手から離れて発動される異能力”――、っていうのは、色んなマンガで描かれるじゃないか。未来に発動する力というのが、プログラムのように、あらかじめ仕掛けられている、とか」

「まあ、何となく、イメージできるけど……」

 と、いくつか、漫画のキャラクターが思い浮かぶ。

「使い手の手から離れて発動される異能力、か……」

 キム・テヤンも言葉にして、何かイメージしようとする。

「ああ……。“巧妙なもの”だと、それを“仕込んだ異能力者”を追跡、特定することも、難しくなるだろうな」

 カン・ロウンが、言った。

 そのように、ああでもない、こうでもないと話していると、



 ――ゆ、らり……



 と、枝垂れる柳のように、黒髪が垂れてきた。

 そんな、突然の出来事に、

「む――!?」

 と、カン・ロウンが、眉をピクリ――と、動かし、

「おうわ!?」

 キム・テヤンと、

「わわッ!?」

 と、ドン・ヨンファも驚き、のけ反りそうになる。

 そうして、上下逆さになっていた麗しい黒髪の持ち主はというと、


 ――くる、り――


 と、宙で舞って、向きを変えつつ、


 ――ス、タッ――


 と、地面に降り立った。

 まあ、すなわち、妖狐の神楽坂文が、三人のまえに戻ってきたのだ。

 すると、

「おいッ!! 何やってんだ!! このタヌキッ!!」

「お、おいおい!! 驚かせないでくれよ!! 僕ら、お茶をこぼしちゃうとこだったじゃないか!!」

 と、キム・テヤンとドン・ヨンファが、そろって先ほどの登場に抗議しそうになるも、

「けっ、それで、茶をぶちまけそうなのは、てめぇだけだってんだ!! タコ」

「ああ、もうっ!! いちいち、うるさいなぁ!!」

「おいおい、そんな、子供みたいに喧嘩をするなよ。ふたりとも」

 と、カン・ロウンが、ふたりをなだめた。


 そんな三人を前にして、宙から降り立った妖狐であるが、湯呑を持っていた。

 その、湯呑より3、40センチくらいうえのほうの空中では、お茶がキューブ状になりつつ、まるで、宇宙ステーション内に漂うかのように浮いていた。

 そうして、御茶のキューブであるが、

 ――スッ……

 と、ゆっくりと湯呑へと入っていき、その、器の形に収まった。

 続けて、

「ふむ……。やっぱり、サボりおって、貴様たち」

 と、妖狐が、三人に向かって言った。

「い、いや、すみません、神楽坂さん」

 カン・ロウンが詫びるも、その横から、

「ああ”? いいだろ、一服ぐらいしてよ? ロウンも、こんなタヌキに、いちいち謝るなっての」

 と、キム・テヤンが、妖狐に苛立って見せつつ、

「というか、お前も、何か分かったのかよ?」

「いや、あまり」

 と、ケロッとして答える妖狐に、

「はぁ? 何も、収穫が無かったのかよ?」

「フハハ」

「けっ、フハハじゃないっての、」

 と、やれやれと呆れてみせた。

 妖狐は、続けて、

「まあ、先ほどは……、邪神というわけではないが、似たような力を使えるヤツと合ってきてな」

「な、何と――!?」

「何だって――!?」

 と、カン・ロウンとドン・ヨンファの驚く声が、ほぼ重なり、

「まあ、一連の水の匣事件だが……、何者か、邪神か、それに類する者が手を貸している可能性があってな……、話を聞いてきたのだ」

「邪神か、それに類する存在が、手を貸しているって――?」

 ドン・ヨンファが聞く。

「ふむ。例えば、だ――」

 妖狐は言いながら、


 ――スッ――


 と、“何か”を、取り出してみせた。

「あぁ”?」

「これ、は――?」

 キム・テヤンと、カン・ロウンに続いて、

「青銅、器……?」

 と、ドン・ヨンファが聞いた。

 すなわち、先ほどの芙蓉鎮で、異形の古神が見せた、青銅器の水差しである。

「ふむ。“これ”は、“どこでもドア”のように、水が、湧き出る青銅器――、水差しといったところか」

 妖狐は答えながら、デモンストレーションをしはじめる。

 まず、


 ――グッ――


 と、妖狐は、水差しを高く持ち上げた。

 反対の手には、湯呑から変わって、青銅器のティーカップ。

 そして、


 ――サッ――


 と、妖狐は頭上の水差しから、腰ほどの高さに持ったティーカップに向かって、スタイリッシュに紅茶を淹れるが如く――、水を注ぎ始めた。

「「なッ――!?」」

「――!?」

 三人が、同時に驚く。

 水差しから、絶え間なく湧き出るように出てくる水もそうであるが、驚くべきは、それだけではなかった。

 すぐにでも水でいっぱいになり、ドバドバに溢れてしまいそうなティーカップからは、いつまで経っても水が満たされ、溢れることもなかった。

「この、水差しからは無限に水が出る、ということは……」

 恐る恐る、カン・ロウンが聞くと、

「ああ……。この、ティーカップのほうは逆に、無限に水を注げるティーカップとでもいうべき、か――」

 妖狐が、ドヤ顔で答えた。

「こ、これは……、いったい?」

 ドン・ヨンファが、聞いた。

「ふむ。先ほど合ったヤツから、仮パk――、いや、ちょっと、拝借してきてな」

「借りパクって言おうとしただろ、お前」

 と、キム・テヤンのつっこみが入りつつも、

「それで、“これ”が、事件で使われた可能性があるというわけですか?」

 と、こんどは、カン・ロウンが聞いた。

「いや、こいつの持ち主とは、このような道具ではないだろうなとの、話になってな。例えば、この道具で、水を出現させ……、それが、昼のイベント会場の事件のように、“操ることのできる水”であったとしても、だ……、どうしても、ある程度は犯行現場の近くで、それを行う必要があるだろ?」

「ま、あ……」

「え、ええ」

 ドン・ヨンファと、カン・ロウンがうなづいた。

「もし、そのように現場に近くで何かをすれのであれば、先ほどは、私は犯人を捕捉できてもおかしくなかっただろう」

「まあ、それは、」

 と、ドン・ヨンファが相づちしつつ、

「だが、まったくと言っていいほど、犯人の気配がなかったわけなのだ」

 と、妖狐が言った。

 そこへ、

「――なので、どうなんだ?」

 と、キム・テヤンが、ざっくりと問うた。

「そう、だな……?」

 妖狐は、天を仰ぎながら、

「この青銅器と同じように、何か、“遠隔的に水を操る”力だったり、道具というのが必要なのでは――? と、私は、考えるな」

「でも、遠隔って言っても……、犯行現場の周辺にも、怪しい気配は、無かったんだよね?」

 と、ドン・ヨンファ。

「ああ……。ゴルゴ13が狙撃をするのよりも、はるかに距離を広げて察知しようとしたがな……、それでも、犯人らしきものの気配は、引っかからなかったのだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。