36 頭を逆さにした格好で宙に浮いているという、非現実的な光景
電子レンジから、本題に戻って、
「まあ、まとまると……、如水イベントの会場以外の場所のケースでも、水のキューブに、その、エネルギーの供給ってのは、可能というわけだな?」
ベテラン刑事そうな男が、その言葉どおり、まとめるように聞いた。
「ええ……、そういうことです」
科学分析チームが答え、
「――というわけで、我々からは、イベント会場以外の現場でも、水のキューブにエネルギーを供給し、水の匣をつくることは可能なのでは――、という結論が出ましたが」
と、アクア・キューブリック社がわへと投げかけた。
すると、
「ですが……、ここで、さらに疑問があります」
と、インテリそうな男が、そう返してきた。
「ん――?」
「何だ? まだ、あるのか?」
刑事ふたりが、顔をしかめ、
「何、でしょうか……?」
と、科学分析チームのほうは、、まだ冷静そうに聞き返した。
いっぽうの、アクア・キューブリック社がわは、
「その、現場で、水のキューブがドローンのように人を襲い、匣に閉じ込める――、これには、“それなりのエネルギー”が必要と思われますが……、その、果たして、現場では、必要な量のエネルギーを送信できるのか――? という疑問があります」
「まあ、恐らく、電磁波を照射する特殊な車両などを現場付近に用意することになるのでしょうが……、そもそも、そのような特殊車両で、まず電磁波を送信し、それを水のキューブの中の物質が受信し、エネルギーへと変換する、と――。まあ、仮にエネルギー変換効率が良いとしましても、変換過程というのを、二つも経るわけですから……、その時点で、効率も悪いと思われますし」
「また、そのような特殊車両というのは、目立つものになりませんでしょうか?」
と、疑問点を投げかける。
それを聞いて、
「うーむ……? 必要な、エネルギーか……」
「確かに、水のキューブが浮遊するだけでも、それなりのエネルギーを使用するように思われますね」
と、科学分析チームは、その点は納得しつつも、
「フン、それも、我々がスパコンで計算すればいいことだ」
「とにかく、これから、アンタたちの会社を調べさせてもらうからな」
と、刑事たちは、せっかちにも調査・捜査を進めたがる。
「そ、そんなっ、」
「それに、私どもの会社以外にも、同様の材料、素材を開発している企業はあるじゃないですか?」
と、アクア・キューブリック社がわは訴えるも、
――ガサ、ガサ――
と、警察がわは、家宅捜査をどんどん進めていこうとする。
そんな、物々しい圧で、調査・捜査をしていく中で、
「ん……?」
ベテラン刑事が、ふと、何か違和感を感じた。
その、以心電信というか、以心伝心というか、
「――?」
と、やや中堅そうな女刑事も、その“何か”に気がついた。
ベテラン刑事は、
「……」
と、表情を険しくしながらも、思う。
ふたりは、
「……」
「……」
と、無言で、顔を見合わせながら、
「(なあ? レイ君)」
「(はい)」
と、小声でヒソヒソと、
「(これは、私の、刑事の直観というヤツか? もし、アクア・キューブリック社が、水の匣事件に関係があるとすれば――)」
「……」
「(我々は今、その、アクア・キューブリック社の開発する材料がある場所にいる)」
「……」
「(そして、同時に、今、この場所にあるのは……)」
「(あっ――!)」
と、そこまで、小声で会話を交わした中で、
((大量の、水――!!))
と、ふたりの、心の声が一致したように――
研究所内を見るに、そこにあるのは、流水アートだったり、ガラスや強化アクリルの容器に水が湛えられたスペース……、および、研究に用いているであろう水のタンクの数々。
さらには、研究所という、充分な電力・エネルギーを供給できる環境――
すなわち、もし仮に、このアクア・キューブリック社が“水の匣”に何らか関与しているのであれば、いまここで水の匣を出現させることが可能な状況――
そこまで、思考が浮かびそうになった、その時、
――ぐ、ぐっ……
――シュ、バッ……、シュバッ――!!
と、まるで、ドローンの群れのように、水のキューブ群が――!! この、あらゆる“水の場”から、出現したではないかッ――!!
それらは、
――ゆ、らぁぁ……
と、広がりながらも、どこか、この場にいる人間たちに狙いを定めているようにも見える。
そして、次の瞬間――!!
――ギュ、イィィン――!!
と、水のキューブが!! いっせいに襲撃しにかかる――!!
その、巧みに連携して囲うかのような動きに、
「くッ――!?」
と、刑事のひとりの反応が遅れてしまう!!
まさに、水のキューブ群に捕らえられんとする時、
「警部――!!」
と、女刑事が飛び込んだ!!
同時に、
「うぉぉッ――!?」
警部とされる男が驚き叫ぶ声がしながらも、
――ズ、サァァッ――!!
と、半ば転びかけるような形になりながらも、間一髪――!! 水の匣に捕まるところを回避した!!
また、別の刑事たちが、
「フン――!!」
と、ある者は、大きなマントを振り回し!!
またある者は、
「ハァッ――!!」
と、傘を盾として突くかっこうで、襲い来る水のキューブに対抗せんとする!!
いずれも、水のキューブに襲撃されることを想定に、疎水性を高めた装備である。
そうして、警察たちは何とか一度目の襲撃をやりすごすも、彼らの頭上、周囲には、
――グ、ォォーン……
と、水のキューブ群が、フォーメーションを複雑に変えながら浮遊していた。
いつまた襲撃してくるか分からない、複雑かつ、規則的かつ不規則に変化する水のキューブの大群の動き。
だが、ぐるぐると回る、その動きを見ているうちに、
「こ、これは……?」
「わ、“我々だけ”に狙い定めているぞ――!!」
と、警察たちは、この場にいる人間のうち、自分たちだけに狙いが定められていることに気がついた。
そして、
「お、襲ってくるぞッ!!」
と、ふたたび、水のキューブたちは警察らへと襲いかかる――!!
その一部は、
――ドドドッ――!!
と、ひとりの刑事に狙いを定める!!
「うッ――!? うわぁぁんッ!!」
と、三方向から襲われた刑事が叫んだ!!
「ちっ!!」
「り、劉ッ――!!」
と、仲間が呼ぶも虚しく、劉という刑事が捕まってしまい、水の匣に閉じ込められていく!!
「く、くそッ!!」
「俺たちだけを襲ってくるってことは、」
「まさか、お前たちのしわざか――!?」
刑事たちが、アクア・キューブリック社がわの人間たちを見て叫んだ。
だが、
「い、いやっ、」
「そんな、」
と、アクア・キューブリック社の彼らのほうも、突然のことに狼狽えているよう にも見えた。
ただ、警察としては、彼らが水のキューブをコントロールしている可能性もあり、何らかの手を打ちたいところだが、
――ギュオォーンッ!!
と、襲いかかる水のキューブの編隊が、
「くっ――!?」
と、その手を阻む!!
警察の面々は何とか回避し、抵抗をくり返すも、
「くっ!! くそぉッ!!」
「こ、このままでは、マズい……!!」
と、徐々に追い込まれる。
そうして、
――ドド、ドドドッ――!!
と、ふたたび、いっせいに!! 水のキューブ群が、彼らに襲いかかる!!
「あっ――!?」
「う、わぁぁんッ――!!」
二人が、まさにやられかけんとせん、その時、
――ぐ、ぐッ……
と、唐突に――、どこからともなく、まるで、“大きな里芋のような葉っぱ”が現れる。
「「へっ――?」」
と、警察のふたりの、間の抜けた声がそろう。
その、次の瞬間、
――く、るんッ――!!
と、葉っぱは、二人の刑事を防護するように覆うや否や、つっこんできた水のキューブを、
――バ、シッ――!! バシィィッ――!!
と、弾いてしまったではないかッ――!!
周りで見ていた刑事たちが、
「「なッ――!?」」
「「何だァァッ――!?」」
と、思わず叫んだ。
そうして、彼らが驚きながら見た先――
そこには、研究所の重厚なセキュリティのあるドアが、
――ド、シャァンッ――!!
と、蹴とばされる形で開く!!
すると、そこには、
――ふ、わり――
と、白い滝行衣装を身にまとった妖狐の神楽坂文が、何故か――? 頭を逆さにした格好で宙に浮いているという、非現実的な光景が広がっていた。
「えっ――?」
「な、何で、逆さになってるの?」
「というか、何者――!?」
と、困惑する反応のなか、
「コン、コーンッ――!!」
などと、妖狐はすこしテンションが高くなりながらも、無重力的に反転して浮いている状態から、
――シュ、タッ――!!
と、床へと降り立つ。
続けざま、奥のほうから
「「お、おーい!!」」
「待て、っての!! タヌキ野郎!!」
などと、叫ぶ声が聞こえながら、体力のあるキム・テヤンを先頭に、ドン・ヨンファとカン・ロウン、SPY探偵団の三人が続けて現れた。




