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【水の匣】  作者: 石田善二郎
第七章 進展と違和感

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34/37

34 最近、我が家も買いましたよ

 そこへ、

「まあ、そいつは分かったが……、じゃあ? お前は、どう考えるんだ? タヌキ」

 と、キム・テヤンが聞いてきた。

 それを見て、

「そ、そうだ!」

「そっちの考えも、聞かせろよ」

「こっちに、質問するだけじゃなくて、」

 と、刑事たちも便乗し、妖狐に自分の仮説を話せと促してくる。

「まあ、そうだな……?」

 妖狐は、天を仰ぎながら、

「私も、とくに、仮説という仮説があるわけではないが、」

「あぁ”?」

「ねぇのかよ?」

 と、断りを入れると、ヤジが入った。

 すると、


 ――ボ、ゥッ……、ボゥッ……


 と、突然に――、空中に、青白い炎が六つほど灯って浮かんだ。

 まさに、鬼火というか狐火とでもいうべき炎――

「うぉッ――!?」

「なッ!? 何だ、こりゃ!?」

「狐火……?」

 驚く声が聞こえる中、さらに、


 ――ジジッ……、ジジッ……


 と、炎のカオスに揺らめく形から、今回の“水の匣”事件のような秩序だった形――、すなわち、立方体の、“キューブの形”へと変わる。

 それらを見て、

「何だ? また、妖術か?」

 キム・テヤンが、慣れた様子で言うと、

「よ、妖術だと……?」

 と、警察たちのほうは、怪訝な顔をした。

「ああ、そうだ……。だが、この“炎”というのは、未知の物質や異世界の物質で出来ているわけでもなし……、“そこらへんにあるもの”で、出来ていてな――」

 妖狐がドヤ顔で答えつつ、幾何学的に変化し続ける狐火を指さす。

「“そこらへんにあるもの”、だと――?」

 ベテランそうな刑事のひとりが、聞き返すと、

「もしかして、プラズマ――、ですか?」

「おおっ! さすが、科学分析チームだけあるな」

 と、妖狐より先に、科学分析チームの男が、その答えを言った。

「そのとおり、空気中の分子を、我が妖力でコントロールし、プラズマにしているのだ。最近の、コンロでもあるだろ? 燃料を使わずに、電気だけで、けっこうな火力が出せる」

「ああ、」

「最近、我が家も買いましたよ」

 などと、補足をしつつ。

「――で? この狐火がどうした、ってんだ? アレか? わざわざ、妖力というものを、見せてやったというわけか?」

 と、キム・テヤン。

「まあ、そういったところだ。デモンストレーションというわけだ。貴様たちならまだしも、この警察連中は、異能力など、見たこともない者も多かろう」

「はぁ、」

「まあ、“これ”を見せられたら、さすがに、貴方のいう異能力というものは“ある”――と、認識を変えますね。これが、巧妙な、イリュージョンとかでない限り」

「ふむ」

 妖狐は、ドヤ顔でうなづきながら、

「それで、いまは分かりやすく、狐火を出してみせたが……、この妖力のように、遠隔的に物質を――、それこそ、今回の事件のように、“水などといった物質を分子単位のレベルや、もっと大きなクラスターのレベルで操作できる異能力”というのは、存在すると考えてもおかしくない」

「その、異能力を使っている可能性があると、お前は考えるわけか?」

 と、刑事が聞くと、

「まあ、仮説を言えというなら、ざっくりと、“そうした異能力”による可能性がある――、との答えにさせてもらうだけの話だ」

「はぁ、」

「それに、科学万能、かつハイテクの最先端を行っている貴様たちの国とはいえ、“不可思議な事件”というのも、ちょくちょく、起きておるだろう? 科学だけでは説明できないような」

「ま、あ……」

「あるには、ありますが」

「――だろ? “そっちの可能性”というのも、考えてもよかろう。純粋に、異能力だけを使った可能性……、それから、異能力と、貴様たち人間のガジェットをコラボした可能性も」

「は、ぁ、」

「けっ、何が、コラボだってんだ」

 と、キム・テヤンが舌打ちした。

「まあ、その、異能力による可能性を探るなら、お前たちはお前たちで、好きにしろ」

「ええ。我々としましては、この会場で起きた以上……、少なくとも、アクア・キューブリック社に関して、調査をしなければなりませんので」

 刑事たちは、そう言って、

「ふむ。それは、そのとおりだ」

 と、妖狐はうなづいた。


 また、妖狐が、

「そう言えば、ヨンファ? 貴様は、友人に、水の匣のサンプルを調べてもらっていたようだが……」

 と、どこで知ったのか、ス・イジュンに依頼した分析について聞いてきた。

「おお、そうだ」

「どうなったんだ? おい?」

 と、カン・ロウンとキム・テヤンが続くと、

「あっ……? そう、いえば……」

 と、当の本人も、すっかり忘れていた。

「まあ、その結果の如何いかんによって……、警察連中の言うように、アクア・キューブリック社が関わっているのか、それとも、何か異能力によるものなのかが変わってくるかもしれなかろう」

「そ、それも、そうだね」

 ドン・ヨンファは、妖狐に相づちしながら、スマホを取り出し、ス・イジュンに電話をかけた。


  ――プルルルル……、プルルルル……

 

 と、しばらくコールすると、電話はつながる。

「もしもし、イジュン? いま、大丈夫かい?」

『おっ、ヨンファ。ああ、大丈夫だけど』

 はじめに、そう言葉をかわすなり、 

『――と言うより、ちょうど、さっき、流れてきたニュースで見たぞ!』

「ニュース?」

 と、やや興奮気味で言ってきたス・イジュンに、ドン・ヨンファが聞き返す。

『ああ……、お前の女、パク・ソユンが、大変なことになったみたいじゃないか? 何でも、“水の匣”が現れて、2、30分もの間、閉じ込められていたと……!』

「いや、僕の女でもないけど、」

 ドン・ヨンファは、そう断りながら、

「まあ、彼女は、無事だよ。2、30分どころか、45分くらい、水の中にいたんだけど」

『無事だよ、って……、え――? ずっと、水の中にいたんだろ?』

 と、電話の向こうのス・イジュンが、心底驚いた様子が伝わる。

「まあ、彼女の異能力っていうのか、特殊体質というか」

『いやいや、体質て……』

 と、ス・イジュンは「そんなバカな」と言いながら、

『まあ、君たちは異能力を使えるから、そんなこともあるのか……? ま、あ……、とりあえず、無事ならいいが』

 そのように、話の導入はパク・ソユンの話題になりながらも、ドン・ヨンファは、先ほど妖狐と警察たちが話していた内容を伝える。

 この、如水イベントに用いられた、アクア・キューブリック社の製品――

 それを改良したもので水のキューブが作られ、集合して水の匣を形成しているんじゃないかという説を、まとめながら話したところ、

『――そうか……。やはり、か……』

 と、ス・イジュンは言った。

 その、何か意味深そうな様子に、

「やはり、って……?」

 と、ドン・ヨンファは聞いた。

『いや……、さすがは、アクア・キューブリック社だなって。確かに、その、【如水】というイベントで用いられた水のディスプレイを構成するキューブというのを、もっと改良したようなものであれば……、水の匣事件のようなことを起こすのも、可能なのかもしれないな』

「そう、なのか……?」

『まあ、“そのようなもの”が、すでに、アクア・キューブリック社のラボで作られているっていう、前提だけど』

「イジュン的には、どうなんだい?」

『まあ、可能ではあるとは……、思うけどね』

 と、どこか、ぼんやりとした話が続きながら、

「あっ? そういえば、なんだけど……、その、僕が、君に分析を頼んだサンプル……、あれは、どうなった?」

 と、ドン・ヨンファは思い出した。

 むしろ、“今回の件”についての見解よりも、こちらのほうが本題ではあった。

 すると、

『あ、あ……、すまない……、ちょっと、まだ分析はできてなくてね』

「まだ、なのかい」

 と、ドン・ヨンファが言う。

 それが聞こえたのか、うしろから、

「おいおい、まだなのかよ!」

 と、キム・テヤンの大きな声がした。

 その声が、電話に乗ってしまったので、

「ああ、すまない。いまのは、僕の、その……、探偵サークルっぽいグループのメンバーでね」

『あ、あ……、でかい声、だったな』

「うん」

 と、ドン・ヨンファは詫びる。

『まあ、明日か……、明後日までには、やるよ。ヨンファ』

「ああ、ちょっと、こっちでも水の匣事件が起きちゃったからには、できるだけ、早く頼むよ。すまないけど」

『ああ……』

 と、電話の向こうのス・イジュンはうなづきつつ、

『あと……、ちなみに、君たちのいる蘇州に、アクア・キューブリック社の研究所があるんだが、』

「あ、あ……、みたい、だね。警察は、そこにも、もう捜査にはいるだろうね」

 ドン・ヨンファが、刑事たちのほうをチラリと見ながら、

『そう、か……』

「イジュン的には、行ってみたほうがいいと、思うかい?」

 と、聞いてみた。

「……」 

『……』

 両者、すこし間をおいて、

『あ、あ……、そりゃあ、ねぇ』

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