34 最近、我が家も買いましたよ
そこへ、
「まあ、そいつは分かったが……、じゃあ? お前は、どう考えるんだ? タヌキ」
と、キム・テヤンが聞いてきた。
それを見て、
「そ、そうだ!」
「そっちの考えも、聞かせろよ」
「こっちに、質問するだけじゃなくて、」
と、刑事たちも便乗し、妖狐に自分の仮説を話せと促してくる。
「まあ、そうだな……?」
妖狐は、天を仰ぎながら、
「私も、とくに、仮説という仮説があるわけではないが、」
「あぁ”?」
「ねぇのかよ?」
と、断りを入れると、ヤジが入った。
すると、
――ボ、ゥッ……、ボゥッ……
と、突然に――、空中に、青白い炎が六つほど灯って浮かんだ。
まさに、鬼火というか狐火とでもいうべき炎――
「うぉッ――!?」
「なッ!? 何だ、こりゃ!?」
「狐火……?」
驚く声が聞こえる中、さらに、
――ジジッ……、ジジッ……
と、炎のカオスに揺らめく形から、今回の“水の匣”事件のような秩序だった形――、すなわち、立方体の、“キューブの形”へと変わる。
それらを見て、
「何だ? また、妖術か?」
キム・テヤンが、慣れた様子で言うと、
「よ、妖術だと……?」
と、警察たちのほうは、怪訝な顔をした。
「ああ、そうだ……。だが、この“炎”というのは、未知の物質や異世界の物質で出来ているわけでもなし……、“そこらへんにあるもの”で、出来ていてな――」
妖狐がドヤ顔で答えつつ、幾何学的に変化し続ける狐火を指さす。
「“そこらへんにあるもの”、だと――?」
ベテランそうな刑事のひとりが、聞き返すと、
「もしかして、プラズマ――、ですか?」
「おおっ! さすが、科学分析チームだけあるな」
と、妖狐より先に、科学分析チームの男が、その答えを言った。
「そのとおり、空気中の分子を、我が妖力でコントロールし、プラズマにしているのだ。最近の、コンロでもあるだろ? 燃料を使わずに、電気だけで、けっこうな火力が出せる」
「ああ、」
「最近、我が家も買いましたよ」
などと、補足をしつつ。
「――で? この狐火がどうした、ってんだ? アレか? わざわざ、妖力というものを、見せてやったというわけか?」
と、キム・テヤン。
「まあ、そういったところだ。デモンストレーションというわけだ。貴様たちならまだしも、この警察連中は、異能力など、見たこともない者も多かろう」
「はぁ、」
「まあ、“これ”を見せられたら、さすがに、貴方のいう異能力というものは“ある”――と、認識を変えますね。これが、巧妙な、イリュージョンとかでない限り」
「ふむ」
妖狐は、ドヤ顔でうなづきながら、
「それで、いまは分かりやすく、狐火を出してみせたが……、この妖力のように、遠隔的に物質を――、それこそ、今回の事件のように、“水などといった物質を分子単位のレベルや、もっと大きなクラスターのレベルで操作できる異能力”というのは、存在すると考えてもおかしくない」
「その、異能力を使っている可能性があると、お前は考えるわけか?」
と、刑事が聞くと、
「まあ、仮説を言えというなら、ざっくりと、“そうした異能力”による可能性がある――、との答えにさせてもらうだけの話だ」
「はぁ、」
「それに、科学万能、かつハイテクの最先端を行っている貴様たちの国とはいえ、“不可思議な事件”というのも、ちょくちょく、起きておるだろう? 科学だけでは説明できないような」
「ま、あ……」
「あるには、ありますが」
「――だろ? “そっちの可能性”というのも、考えてもよかろう。純粋に、異能力だけを使った可能性……、それから、異能力と、貴様たち人間のガジェットをコラボした可能性も」
「は、ぁ、」
「けっ、何が、コラボだってんだ」
と、キム・テヤンが舌打ちした。
「まあ、その、異能力による可能性を探るなら、お前たちはお前たちで、好きにしろ」
「ええ。我々としましては、この会場で起きた以上……、少なくとも、アクア・キューブリック社に関して、調査をしなければなりませんので」
刑事たちは、そう言って、
「ふむ。それは、そのとおりだ」
と、妖狐はうなづいた。
また、妖狐が、
「そう言えば、ヨンファ? 貴様は、友人に、水の匣のサンプルを調べてもらっていたようだが……」
と、どこで知ったのか、ス・イジュンに依頼した分析について聞いてきた。
「おお、そうだ」
「どうなったんだ? おい?」
と、カン・ロウンとキム・テヤンが続くと、
「あっ……? そう、いえば……」
と、当の本人も、すっかり忘れていた。
「まあ、その結果の如何によって……、警察連中の言うように、アクア・キューブリック社が関わっているのか、それとも、何か異能力によるものなのかが変わってくるかもしれなかろう」
「そ、それも、そうだね」
ドン・ヨンファは、妖狐に相づちしながら、スマホを取り出し、ス・イジュンに電話をかけた。
――プルルルル……、プルルルル……
と、しばらくコールすると、電話はつながる。
「もしもし、イジュン? いま、大丈夫かい?」
『おっ、ヨンファ。ああ、大丈夫だけど』
はじめに、そう言葉をかわすなり、
『――と言うより、ちょうど、さっき、流れてきたニュースで見たぞ!』
「ニュース?」
と、やや興奮気味で言ってきたス・イジュンに、ドン・ヨンファが聞き返す。
『ああ……、お前の女、パク・ソユンが、大変なことになったみたいじゃないか? 何でも、“水の匣”が現れて、2、30分もの間、閉じ込められていたと……!』
「いや、僕の女でもないけど、」
ドン・ヨンファは、そう断りながら、
「まあ、彼女は、無事だよ。2、30分どころか、45分くらい、水の中にいたんだけど」
『無事だよ、って……、え――? ずっと、水の中にいたんだろ?』
と、電話の向こうのス・イジュンが、心底驚いた様子が伝わる。
「まあ、彼女の異能力っていうのか、特殊体質というか」
『いやいや、体質て……』
と、ス・イジュンは「そんなバカな」と言いながら、
『まあ、君たちは異能力を使えるから、そんなこともあるのか……? ま、あ……、とりあえず、無事ならいいが』
そのように、話の導入はパク・ソユンの話題になりながらも、ドン・ヨンファは、先ほど妖狐と警察たちが話していた内容を伝える。
この、如水イベントに用いられた、アクア・キューブリック社の製品――
それを改良したもので水のキューブが作られ、集合して水の匣を形成しているんじゃないかという説を、まとめながら話したところ、
『――そうか……。やはり、か……』
と、ス・イジュンは言った。
その、何か意味深そうな様子に、
「やはり、って……?」
と、ドン・ヨンファは聞いた。
『いや……、さすがは、アクア・キューブリック社だなって。確かに、その、【如水】というイベントで用いられた水のディスプレイを構成するキューブというのを、もっと改良したようなものであれば……、水の匣事件のようなことを起こすのも、可能なのかもしれないな』
「そう、なのか……?」
『まあ、“そのようなもの”が、すでに、アクア・キューブリック社のラボで作られているっていう、前提だけど』
「イジュン的には、どうなんだい?」
『まあ、可能ではあるとは……、思うけどね』
と、どこか、ぼんやりとした話が続きながら、
「あっ? そういえば、なんだけど……、その、僕が、君に分析を頼んだサンプル……、あれは、どうなった?」
と、ドン・ヨンファは思い出した。
むしろ、“今回の件”についての見解よりも、こちらのほうが本題ではあった。
すると、
『あ、あ……、すまない……、ちょっと、まだ分析はできてなくてね』
「まだ、なのかい」
と、ドン・ヨンファが言う。
それが聞こえたのか、うしろから、
「おいおい、まだなのかよ!」
と、キム・テヤンの大きな声がした。
その声が、電話に乗ってしまったので、
「ああ、すまない。いまのは、僕の、その……、探偵サークルっぽいグループのメンバーでね」
『あ、あ……、でかい声、だったな』
「うん」
と、ドン・ヨンファは詫びる。
『まあ、明日か……、明後日までには、やるよ。ヨンファ』
「ああ、ちょっと、こっちでも水の匣事件が起きちゃったからには、できるだけ、早く頼むよ。すまないけど」
『ああ……』
と、電話の向こうのス・イジュンはうなづきつつ、
『あと……、ちなみに、君たちのいる蘇州に、アクア・キューブリック社の研究所があるんだが、』
「あ、あ……、みたい、だね。警察は、そこにも、もう捜査にはいるだろうね」
ドン・ヨンファが、刑事たちのほうをチラリと見ながら、
『そう、か……』
「イジュン的には、行ってみたほうがいいと、思うかい?」
と、聞いてみた。
「……」
『……』
両者、すこし間をおいて、
『あ、あ……、そりゃあ、ねぇ』




