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【水の匣】  作者: 石田善二郎
第六章 調査、如水会場

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32 キツネ耳をヒョコヒョコとさせ、尻尾をブンブンと鬱陶しく振りながら




          (4)




 パク・ソユンが、念のため救急隊員たちに連れて行かれしまったのち、


 …………


 と、静けさが、すこし壇上に戻ってきた。

「は、ぁ……」

 ドン・ヨンファと、

「……」

 と、カン・ロウンが、呆気に取られたように眺めていると、

「……ったく、何が、『ぽよ』って息するってんだ。相変わらず、ふざけたヤツだぜ」

 と、キム・テヤンが呆れたように言った。

 そんな、一時離脱したパク・ソユンと、カン・ロウンたち、残されたSPY探偵団の三人をよそに、警察の調査は進んでいく。

 切り刻まれた“水の匣”を囲む、刑事だったり、科学分析チームの人間。

 また、水のディスプレイを操作していた担当者、オペレーター、そして会場にいたアクア・キューブリック社の技術者も呼ばれ、尋問される。

 それを見ながら、

「まあ、警察たちの調査を見るに……、このまま、会場の、水のディスプレイ……、それから、アクア・キューブリック社へ、調査の手が及ぶだろう」

 と、カン・ロウンが言った。

「はぁ、」

 キム・テヤンが相づちしながら、

「それで……、その、アクア・キューブリック社ってのが、“一連の事件”に関与している――。そんな流れに、なんのか?」

「まあ、調査次第だろうな」

 と、確認するように、カン・ロウンと言葉をかわしながら、警察たちが調査の進展を見守っていた。

 そうしつつ、

「僕たちも、中に入って、調べれないかなぁ?」

 と、ドン・ヨンファが言ってみた。

 確かに、ここで、ぽけーっと眺めているよりかは、何かしら分かることはあるだろう。

 また、現地の中国警察とも、情報を交換できるのかもしれない。

「そう、だな……?」

 カン・ロウンが、軽く相づちすると、

「おいおい、つまみ出されねぇか?」

「まあ、もし、そうなりそうだったら、私の能力を使ってもいいが、」

「おいおい! こんな目立つステージのうえで、お前の能力なんか使うなっての!」

「ステージだからこそ、踊るのも、いいんじゃないか?」

「ああ”? 何言ってんだよ、まったくよぅ」

 と、キム・テヤンが、やれやれと呆れてみせた。

 すると、その時、



「――って……? おい……」



 ふと、キム・テヤンが、“何か”に気がついた。

 その、視線の先――

「へ――?」

 と、反応しながらも、何も確認できないドン・ヨンファの横、

「あっ――?」

 と、カン・ロウンもキム・テヤンと同じく、その“何か”に気がついた。

 シャツや、夏の制服姿の警察関係者たちの中に紛れ、


 ――ぽ、つん――


 と、ひとりだけ目立つ、黒づくめの、夏仕様のアサシンドレス姿。

 麗しい黒髪には、ちょこんと、乗っかっているようなキツネ耳がついた、女のなりをした者――

 すなわち、

「“アイツ”っ――!? 何で、いんだよ――!?」

 と、キム・テヤンが、顔をしかめた先――

 そこにあったのは、妖狐の、神楽坂文の姿だった。

 キツネ耳をヒョコヒョコとさせ、尻尾をブンブンと鬱陶しく振りながら、何故か――? 図々しくも、警察たちの調査する中にいるという。

 まるで、あたかも、最初からそこにいました的に、馴染んでいながら。

 三人は近づいて、

「おい、タヌキ、」

 キム・テヤンと、

「か、神楽坂さん、」

 と、カン・ロウンが、やや背後から声をかけると、

「はぅ、」

 と、妖狐から、気の抜けた相づちが返ってきた。

 その妖狐は、


 ――くる、り――


 と、三人のほうを振り向いた。

 続けざま、

「どうした? 貴様たち?」

 と、妖狐が聞くと、

「いや、どうした――? じゃなくて、よぅ」

 苦い顔をするキム・テヤンと、

「来れないんじゃ、なかったのかい?」

 と、ドン・ヨンファが、質問をし返した。

「いや、『来れない』とは言ったが、その時点でのことだ。妖力が溜まったから、来てやったのだ」

「そんな、すぐ溜まんのかよ、」

「まあ、いずれにせよ……、先ほどは、最小限の妖力ので、“ヤツ”の救出ができたのだから、良しだろう」

 と、つっこむキム・テヤンを軽くスルーしながら、妖狐は答える。

 それを聞いて、カン・ロウンが、

「来たくれた――、ということは、協力してくれる――、ということですか?」

「ふむ。まあ、そんなところだ――」

 と、妖狐はドヤ顔で、

「こっちの世界で、何か、奇妙な事件を解決するなどすると、ポイントがつくみたいな仕組みでな」

「ポイント、て、」

「まったく、ふざけた、異世界の住人だぜ」

 と、ドン・ヨンファとキム・テヤンが、ポイント制と聞いて、ポカンとする。

「まあ、それはいいけど、よぅ……、どうやって? こんな、警察たちからつまみ出されずにいるわけだ? お前は」

 キム・テヤンが、聞いた。

「ふむ。そいつは、な――」

 と、妖狐が、“葉っぱのようなナニカ”を手にしながら、ドヤ顔で答えようとしたところ、


「――おい? 何を、話している?」


 とここで、やっと、警察たちが声をかけてきた。

 それを合図に、ほかの刑事らしき面々も振り向いて、

「何だ? こいつらは?」

「部外者、ですか?」

 と、クールな顔した女刑事が聞いてきた。

「「「ッ――!?」」」 

 カン・ロウンたち三人は、ギクッ――!? と、反応をする。

((ま、マズいか――!?))

 ドン・ヨンファとキム・テヤンの、心の声が重なる。

 このままだと、「調査関係者以外は出て行ってください」などと、この場から締め出されるのが、だいたいのパターンだろう。

 しかし、

「あっ、すみませーん」

 と、妖狐は言いながら、その“葉っぱのようなナニカ”を提示するように見せつつ、

「こいつらは、ゴミカスです」

 と、申しわけなさそうに、三人を指してみせた。

「へっ――?」

 ゴミカス呼ばわりに、キョトンとするドン・ヨンファと、

「ああ”? 誰がゴミカスだってんだよ! タヌキ!」

 と、いっぽうのキム・テヤンは、イラっとして声を荒げた。

 そんな二人をスルーして、

「まあ、ゴミカスもとい、彼らは、私の仲――、下僕でして、気になさらないでください」

 と、刑事たちに、勘弁するようにと言った。

「「下僕って、“訂正”しやがったし、こいつ」」

 ドン・ヨンファとキム・テヤンが声をそろえ、届かないツッコミをした。

 そうしながら、妖狐は、

「まあ……、どちらにしろ、“こいつら”は、被害者の、パク・ソユンを救出する場面にいて、実際に助けることに貢献したのだ。このままいても、問題なかろう」

「はぁ、」

「まあ、好きにしろ」

 と、刑事たちに、カン・ロウンたちが調査に加わることを黙らせる。

「いや、好きにされては困るでしょう。とりあえず、くれぐれも、邪魔をしないように。とくに、現場の証拠品には、手をつけないようにしてくださいね」

 と、念を押す女刑事に、

「コンコン」

 と、妖狐は返事した。

「「何だよ、コンコンって」」

 と、相変わらず、ツッコミ要員のキム・テヤンとドン・ヨンファが、ここだけは息が合ってツッコミながら。

 また、

「ちなみに、その葉っぱは、妖具かい?」

 と、ドン・ヨンファが聞いた。

「ああ……。日本のアニメでも、タヌキが人に化ける、化かすように……、この“葉っぱ”を持っているだけで、“場”にいる人間を“化かし”て、関係者として認識されるようになるのだ」

「何だ? ――てことは、やっぱ、タヌキじゃねぇのか、お前は?」

 と、答えた妖狐に、キム・テヤンが言った。

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