32 キツネ耳をヒョコヒョコとさせ、尻尾をブンブンと鬱陶しく振りながら
(4)
パク・ソユンが、念のため救急隊員たちに連れて行かれしまったのち、
…………
と、静けさが、すこし壇上に戻ってきた。
「は、ぁ……」
ドン・ヨンファと、
「……」
と、カン・ロウンが、呆気に取られたように眺めていると、
「……ったく、何が、『ぽよ』って息するってんだ。相変わらず、ふざけたヤツだぜ」
と、キム・テヤンが呆れたように言った。
そんな、一時離脱したパク・ソユンと、カン・ロウンたち、残されたSPY探偵団の三人をよそに、警察の調査は進んでいく。
切り刻まれた“水の匣”を囲む、刑事だったり、科学分析チームの人間。
また、水のディスプレイを操作していた担当者、オペレーター、そして会場にいたアクア・キューブリック社の技術者も呼ばれ、尋問される。
それを見ながら、
「まあ、警察たちの調査を見るに……、このまま、会場の、水のディスプレイ……、それから、アクア・キューブリック社へ、調査の手が及ぶだろう」
と、カン・ロウンが言った。
「はぁ、」
キム・テヤンが相づちしながら、
「それで……、その、アクア・キューブリック社ってのが、“一連の事件”に関与している――。そんな流れに、なんのか?」
「まあ、調査次第だろうな」
と、確認するように、カン・ロウンと言葉をかわしながら、警察たちが調査の進展を見守っていた。
そうしつつ、
「僕たちも、中に入って、調べれないかなぁ?」
と、ドン・ヨンファが言ってみた。
確かに、ここで、ぽけーっと眺めているよりかは、何かしら分かることはあるだろう。
また、現地の中国警察とも、情報を交換できるのかもしれない。
「そう、だな……?」
カン・ロウンが、軽く相づちすると、
「おいおい、つまみ出されねぇか?」
「まあ、もし、そうなりそうだったら、私の能力を使ってもいいが、」
「おいおい! こんな目立つステージのうえで、お前の能力なんか使うなっての!」
「ステージだからこそ、踊るのも、いいんじゃないか?」
「ああ”? 何言ってんだよ、まったくよぅ」
と、キム・テヤンが、やれやれと呆れてみせた。
すると、その時、
「――って……? おい……」
ふと、キム・テヤンが、“何か”に気がついた。
その、視線の先――
「へ――?」
と、反応しながらも、何も確認できないドン・ヨンファの横、
「あっ――?」
と、カン・ロウンもキム・テヤンと同じく、その“何か”に気がついた。
シャツや、夏の制服姿の警察関係者たちの中に紛れ、
――ぽ、つん――
と、ひとりだけ目立つ、黒づくめの、夏仕様のアサシンドレス姿。
麗しい黒髪には、ちょこんと、乗っかっているようなキツネ耳がついた、女の形をした者――
すなわち、
「“アイツ”っ――!? 何で、いんだよ――!?」
と、キム・テヤンが、顔をしかめた先――
そこにあったのは、妖狐の、神楽坂文の姿だった。
キツネ耳をヒョコヒョコとさせ、尻尾をブンブンと鬱陶しく振りながら、何故か――? 図々しくも、警察たちの調査する中にいるという。
まるで、あたかも、最初からそこにいました的に、馴染んでいながら。
三人は近づいて、
「おい、タヌキ、」
キム・テヤンと、
「か、神楽坂さん、」
と、カン・ロウンが、やや背後から声をかけると、
「はぅ、」
と、妖狐から、気の抜けた相づちが返ってきた。
その妖狐は、
――くる、り――
と、三人のほうを振り向いた。
続けざま、
「どうした? 貴様たち?」
と、妖狐が聞くと、
「いや、どうした――? じゃなくて、よぅ」
苦い顔をするキム・テヤンと、
「来れないんじゃ、なかったのかい?」
と、ドン・ヨンファが、質問をし返した。
「いや、『来れない』とは言ったが、その時点でのことだ。妖力が溜まったから、来てやったのだ」
「そんな、すぐ溜まんのかよ、」
「まあ、いずれにせよ……、先ほどは、最小限の妖力ので、“ヤツ”の救出ができたのだから、良しだろう」
と、つっこむキム・テヤンを軽くスルーしながら、妖狐は答える。
それを聞いて、カン・ロウンが、
「来たくれた――、ということは、協力してくれる――、ということですか?」
「ふむ。まあ、そんなところだ――」
と、妖狐はドヤ顔で、
「こっちの世界で、何か、奇妙な事件を解決するなどすると、ポイントがつくみたいな仕組みでな」
「ポイント、て、」
「まったく、ふざけた、異世界の住人だぜ」
と、ドン・ヨンファとキム・テヤンが、ポイント制と聞いて、ポカンとする。
「まあ、それはいいけど、よぅ……、どうやって? こんな、警察たちからつまみ出されずにいるわけだ? お前は」
キム・テヤンが、聞いた。
「ふむ。そいつは、な――」
と、妖狐が、“葉っぱのようなナニカ”を手にしながら、ドヤ顔で答えようとしたところ、
「――おい? 何を、話している?」
とここで、やっと、警察たちが声をかけてきた。
それを合図に、ほかの刑事らしき面々も振り向いて、
「何だ? こいつらは?」
「部外者、ですか?」
と、クールな顔した女刑事が聞いてきた。
「「「ッ――!?」」」
カン・ロウンたち三人は、ギクッ――!? と、反応をする。
((ま、マズいか――!?))
ドン・ヨンファとキム・テヤンの、心の声が重なる。
このままだと、「調査関係者以外は出て行ってください」などと、この場から締め出されるのが、だいたいのパターンだろう。
しかし、
「あっ、すみませーん」
と、妖狐は言いながら、その“葉っぱのようなナニカ”を提示するように見せつつ、
「こいつらは、ゴミカスです」
と、申しわけなさそうに、三人を指してみせた。
「へっ――?」
ゴミカス呼ばわりに、キョトンとするドン・ヨンファと、
「ああ”? 誰がゴミカスだってんだよ! タヌキ!」
と、いっぽうのキム・テヤンは、イラっとして声を荒げた。
そんな二人をスルーして、
「まあ、ゴミカスもとい、彼らは、私の仲――、下僕でして、気になさらないでください」
と、刑事たちに、勘弁するようにと言った。
「「下僕って、“訂正”しやがったし、こいつ」」
ドン・ヨンファとキム・テヤンが声をそろえ、届かないツッコミをした。
そうしながら、妖狐は、
「まあ……、どちらにしろ、“こいつら”は、被害者の、パク・ソユンを救出する場面にいて、実際に助けることに貢献したのだ。このままいても、問題なかろう」
「はぁ、」
「まあ、好きにしろ」
と、刑事たちに、カン・ロウンたちが調査に加わることを黙らせる。
「いや、好きにされては困るでしょう。とりあえず、くれぐれも、邪魔をしないように。とくに、現場の証拠品には、手をつけないようにしてくださいね」
と、念を押す女刑事に、
「コンコン」
と、妖狐は返事した。
「「何だよ、コンコンって」」
と、相変わらず、ツッコミ要員のキム・テヤンとドン・ヨンファが、ここだけは息が合ってツッコミながら。
また、
「ちなみに、その葉っぱは、妖具かい?」
と、ドン・ヨンファが聞いた。
「ああ……。日本のアニメでも、タヌキが人に化ける、化かすように……、この“葉っぱ”を持っているだけで、“場”にいる人間を“化かし”て、関係者として認識されるようになるのだ」
「何だ? ――てことは、やっぱ、タヌキじゃねぇのか、お前は?」
と、答えた妖狐に、キム・テヤンが言った。




