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【水の匣】  作者: 石田善二郎
第六章 調査、如水会場

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30/37

30 た、ぶん……、呼吸法じゃない、かしら? 『ぽよ』って、呼吸することで




          (2) 





 ――シト、シト……


 と、水がしたたりながらも、キノコ・ヘアーのドン・ヨンファが、ぐったりとしたパク・ソユンを、お姫様抱っこのように抱え、“水の匣”の残片から出てきた。

 その姿は、もしかすると、“お姫様を抱える王子様”のように見えなくもないのかもしれない。

 そんなドン・ヨンファが、

「うっ――!?」

 と、突然、声をあげた。

 恐らくは、腰なり膝なり、身体に負担がきたのだろう。

「ったく、そんな、お姫様だっこみてぇな抱え方すっからだろ」

 キム・テヤンが言った。

 水から出て、ダイレクトに重さが伝わったこともそうであるが、ドン・ヨンファも、そんなにガタイは良いほうでない。

 かつ、抱っこされたパク・ソユンも、モデル体型ではあるものの、身長は高いほうであるため、そんなには持ちやすくなかったのかもしれず、思わぬ負担がかかったのだろう。

「う、ぐぐッ……」

 ドン・ヨンファが、それに耐えながらも、


 ――スッ……


 と、パク・ソユンを、そっと床へとおろした。

 パク・ソユンの身体はぐったりとしながらも、その顔色は、変わらずにいた。

 表情は穏やかに、目をつむっていた。

 まさに、眠れる森のお姫様と喩えてもいいくらいに――

「「「そ、ソーウッ!!」」」

 ホン・ドヒョンや、DJオイスターたち、

「「「そ、ソユンーッ――!!」」」

 と、カン・ロウンやキム・テヤンたちも、横たわるパク・ソユンへと駆けよった。

 ぐったりとして、息を吹き返す様子のないパク・ソユンに、

「くっ、」

「い、意識は、無いのか……」

「ち、ちくしょう……!!」

 と、皆が、不安に顔を歪める。

「そ、ソユン……、」

 ドン・ヨンファも、悲痛な顔で呼びかける。

 これが、おとぎ話であったなら、このドン・ヨンファがキスでもすれば、目が覚めるのかもしれない。

 ただ、水の中で、40分近くもいたわけである。

 普通であれば、ほぼ助かる見込みはない

 そこへ、


 ――ドタ、ドタッ!!


 と、レスキューたちが駆け寄って、

「おぉいッ!! 邪魔だ!!」

「どけどけ!!」

「だから、素人は下がってろってんだよ!!」

 と、カン・ロウンやホン・ドヒョンたちを無理やりどかした。

 その態度に、

「ああ”!?」

 と、キム・テヤンと、

「あ、アンタたち!! 何もしてないでしょ!!」

 と、キム・ユナがイラっとし、レスキューたちと一触即発しそうになるも、

「よ、よせって、テヤン!!」

「ここからは、もう我々は何もできない、プロに任せるしかない」

 と、カン・ロウンとホン・ドヒョンが止める。


 そうして、カン・ロウンやホン・ドヒョンたちは、レスキューたちが、パク・ソユンの応急処置するのを見守るより他なかった。

「か、神楽坂さん、」

 カン・ロウンが、妖狐に声をかける。

『う、ん?』

 妖狐が、静かに反応する。

「もし……、ソユンが、助かりそうにない場合……、そ、その、」

 カン・ロウンは言葉をつまらせながら、何か、頼もうとした。

 その“こころ”――、まあ、ドラゴンボールみたいにというわけではないが、パク・ソユンを生き返らせる――、あるいは、死に瀕していた場合であれば、何らかの妖力を以って、回復させてほしい――、などと頼みたかった。

 実際に、過去の事件では、硫酸やフッ酸を飲まされるなどして口内や内臓が損傷し、死に瀕したパク・ソユンを、妖狐の力で回復してもらい、死の縁から救ってもらったこともあった。

 同様のことを期待しながらも、このような力を用いる場合、妖力は莫大に消耗するものである。

 そんな後ろめたさがありながらも、カン・ロウンは、背に腹は代えられぬ思いで、何とか妖狐に頼もうと思ったわけである。

 しかし、



『まあ、待て――』



「えっ――?」

 と、ここで、思わぬ言葉が妖狐から返ってきた。

 スマホに映る妖狐は、

『……』

 と、無言ながら、


 ――くいっ……


 と、「あっちを見よ」と云わんかように、首を振ってみせた。

「……?」

 カン・ロウンが、首を傾げながらも、“そちらのほう”を向いてみた。

 レスキューたちに囲まれる、パク・ソユン。

 すると、



 ――む、くっ……



 と、あろうことか――?

 パク・ソユンの身体が、すこし動いたかのように見えた――、いや、ゆるりと、“起き上がった”。


「「「「「「「「へっ――?」」」」」」」」


 と、ステージ上のホン・ドヒョンやレスキューたち、およびステージ下から見守ってた観客たちふくめ、あらゆる皆の声がそろった。

 まあ、カン・ロウンたちSPY探偵団のメンツにしてみれば、「ああ、やっぱりか――」と、いったところであろうが。

 すなわち、『また、“こいつ”か』程度の反応である。 

 まあ、もっと心配と安堵をしろ、というところであるが……

 さらに、“それ”だけではない。

 パク・ソユンは、起き上がるなり、



「――ぽ、よ」



 と、言った。

 同じく、


「「「「「「「「ぽよ――!?」」」」」」」」


 と、会場の驚愕する声がそろう。

 そして、その『ぽよ』のひと声に、

「「「えっ、えぇッ――!?」」

「なっ、何で!? 何で!?」

「「40分近く水の中にいたのに、溺れてないのかよ!?」」

 と、会場全体がざわつく。

 それを前にして、起き上がったパク・ソユンが、

「あ、あ……? た、ぶん……、呼吸法じゃない、かしら? 『ぽよ』って、呼吸することで、45分くらい、息をもたせて」」

「「「「「「「「「「いやいや、いやッ!! 絶ッ対に、違うと思う!!」」」」」」」」」」

 と、パク・ソユンの答えに、会場全体がつっこんで否定した。

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