30 た、ぶん……、呼吸法じゃない、かしら? 『ぽよ』って、呼吸することで
(2)
――シト、シト……
と、水が滴りながらも、キノコ・ヘアーのドン・ヨンファが、ぐったりとしたパク・ソユンを、お姫様抱っこのように抱え、“水の匣”の残片から出てきた。
その姿は、もしかすると、“お姫様を抱える王子様”のように見えなくもないのかもしれない。
そんなドン・ヨンファが、
「うっ――!?」
と、突然、声をあげた。
恐らくは、腰なり膝なり、身体に負担がきたのだろう。
「ったく、そんな、お姫様だっこみてぇな抱え方すっからだろ」
キム・テヤンが言った。
水から出て、ダイレクトに重さが伝わったこともそうであるが、ドン・ヨンファも、そんなにガタイは良いほうでない。
かつ、抱っこされたパク・ソユンも、モデル体型ではあるものの、身長は高いほうであるため、そんなには持ちやすくなかったのかもしれず、思わぬ負担がかかったのだろう。
「う、ぐぐッ……」
ドン・ヨンファが、それに耐えながらも、
――スッ……
と、パク・ソユンを、そっと床へとおろした。
パク・ソユンの身体はぐったりとしながらも、その顔色は、変わらずにいた。
表情は穏やかに、目をつむっていた。
まさに、眠れる森のお姫様と喩えてもいいくらいに――
「「「そ、ソーウッ!!」」」
ホン・ドヒョンや、DJオイスターたち、
「「「そ、ソユンーッ――!!」」」
と、カン・ロウンやキム・テヤンたちも、横たわるパク・ソユンへと駆けよった。
ぐったりとして、息を吹き返す様子のないパク・ソユンに、
「くっ、」
「い、意識は、無いのか……」
「ち、ちくしょう……!!」
と、皆が、不安に顔を歪める。
「そ、ソユン……、」
ドン・ヨンファも、悲痛な顔で呼びかける。
これが、おとぎ話であったなら、このドン・ヨンファがキスでもすれば、目が覚めるのかもしれない。
ただ、水の中で、40分近くもいたわけである。
普通であれば、ほぼ助かる見込みはない
そこへ、
――ドタ、ドタッ!!
と、レスキューたちが駆け寄って、
「おぉいッ!! 邪魔だ!!」
「どけどけ!!」
「だから、素人は下がってろってんだよ!!」
と、カン・ロウンやホン・ドヒョンたちを無理やりどかした。
その態度に、
「ああ”!?」
と、キム・テヤンと、
「あ、アンタたち!! 何もしてないでしょ!!」
と、キム・ユナがイラっとし、レスキューたちと一触即発しそうになるも、
「よ、よせって、テヤン!!」
「ここからは、もう我々は何もできない、プロに任せるしかない」
と、カン・ロウンとホン・ドヒョンが止める。
そうして、カン・ロウンやホン・ドヒョンたちは、レスキューたちが、パク・ソユンの応急処置するのを見守るより他なかった。
「か、神楽坂さん、」
カン・ロウンが、妖狐に声をかける。
『う、ん?』
妖狐が、静かに反応する。
「もし……、ソユンが、助かりそうにない場合……、そ、その、」
カン・ロウンは言葉をつまらせながら、何か、頼もうとした。
その“こころ”――、まあ、ドラゴンボールみたいにというわけではないが、パク・ソユンを生き返らせる――、あるいは、死に瀕していた場合であれば、何らかの妖力を以って、回復させてほしい――、などと頼みたかった。
実際に、過去の事件では、硫酸やフッ酸を飲まされるなどして口内や内臓が損傷し、死に瀕したパク・ソユンを、妖狐の力で回復してもらい、死の縁から救ってもらったこともあった。
同様のことを期待しながらも、このような力を用いる場合、妖力は莫大に消耗するものである。
そんな後ろめたさがありながらも、カン・ロウンは、背に腹は代えられぬ思いで、何とか妖狐に頼もうと思ったわけである。
しかし、
『まあ、待て――』
「えっ――?」
と、ここで、思わぬ言葉が妖狐から返ってきた。
スマホに映る妖狐は、
『……』
と、無言ながら、
――くいっ……
と、「あっちを見よ」と云わんかように、首を振ってみせた。
「……?」
カン・ロウンが、首を傾げながらも、“そちらのほう”を向いてみた。
レスキューたちに囲まれる、パク・ソユン。
すると、
――む、くっ……
と、あろうことか――?
パク・ソユンの身体が、すこし動いたかのように見えた――、いや、ゆるりと、“起き上がった”。
「「「「「「「「へっ――?」」」」」」」」
と、ステージ上のホン・ドヒョンやレスキューたち、およびステージ下から見守ってた観客たちふくめ、あらゆる皆の声がそろった。
まあ、カン・ロウンたちSPY探偵団のメンツにしてみれば、「ああ、やっぱりか――」と、いったところであろうが。
すなわち、『また、“こいつ”か』程度の反応である。
まあ、もっと心配と安堵をしろ、というところであるが……
さらに、“それ”だけではない。
パク・ソユンは、起き上がるなり、
「――ぽ、よ」
と、言った。
同じく、
「「「「「「「「ぽよ――!?」」」」」」」」
と、会場の驚愕する声がそろう。
そして、その『ぽよ』のひと声に、
「「「えっ、えぇッ――!?」」
「なっ、何で!? 何で!?」
「「40分近く水の中にいたのに、溺れてないのかよ!?」」
と、会場全体がざわつく。
それを前にして、起き上がったパク・ソユンが、
「あ、あ……? た、ぶん……、呼吸法じゃない、かしら? 『ぽよ』って、呼吸することで、45分くらい、息をもたせて」」
「「「「「「「「「「いやいや、いやッ!! 絶ッ対に、違うと思う!!」」」」」」」」」」
と、パク・ソユンの答えに、会場全体がつっこんで否定した。




