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【水の匣】  作者: 石田善二郎
第五章 強襲、水の匣

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27 まあ、滝行とは、ギャンブル運の回復、好転の修行のために行われるのが、一般的ではあるが

 そんな、物騒な返答を聞いたものだから、

「ああ”!? いきなり『殺してやろうか?』って、どういうことだ!? タヌキ!!」

 と、キム・テヤンが声を荒げ、そのこころを問う。

『ふむ。まったく……、人がいま、水浴びをしているところだというに』

 妖狐は「やれやれ」と言いながら、スピーカーモードからさらに、テレビ電話にしてみせる。

 すると、妖狐の神楽坂文の美麗な顔と、水を滴らせる狐耳と黒髪が映るとともに、

 ――ドド、ドドド……!!!

 と、すこしばかりか――、いや、まあまあ喧しい音ともに、そこそこの水量の落水――、すなわち、恐らくは、滝壺たきつぼと思しき光景が映る。

 さらには、妖狐の身にまとうものが、普段の、黒のアサシンドレスのようなものではなく、白装束らしきものがチラリ――と。

 すなわちのすなわち、この妖狐、神楽坂文であるが、滝壺にて滝行のようなことをしていた。

 まあ、常人であれば、よほどの修行を重ねていなければ耐えられないほどの落水であるものの、妖狐にとっては、“水浴び”程度のものなんかもしれない。


 それはさてき、

『ふ、ぅ……』

 と、妖狐は「仕方ないな」と滝から出て、流れの緩やかな半身ほどの水辺に移動し、岩へと、小休止するようにもたれかかる。

「それは……? 滝行、ですか? 神楽坂さん」

 カン・ロウンが、聞いた。

『まあ、そういうところだ……』

 妖狐が答える。

 続けて、

「何で? その……、滝行なんか、してるんだい?」

 と、ドン・ヨンファが、その滝行のわけを聞いた。

『ふむ……。まあ、滝行とは、ギャンブル運の回復、好転の修行のために行われるのが、一般的ではあるが、』

 と、説明の前置きする妖狐に、

「「いや、そんな理由、だっけ――?」」

「何か、精神と肉体の修行的な意味合いじゃ、なかったっけ?」

「あと、宗教的な」

 と、何人かからツッコミが入りつつも、

『ふむ。まあ、それはさておき……』

 と、妖狐は、うやむやにしながらも続ける。

『我が妖力……、貴様たちの世界のマンガのキャラクタのように、インフレして強くなるのとは逆で、急速に減衰して弱体化していくシロモノでな――」

「あ、あ? 日本の、ジャンプ漫画みたいな」

『うん。そんな感じ』

 と、妖狐が、ライトに相づちして、

「それが、滝行をすることで、回復するとか、ですか……?」

 と、カン・ロウンが聞いた。

『ふむ。そのとおり、だ――』

 妖狐はうなづきながら、すこしドヤ顔とアンニュイな顔をする自分と、そのバックに滝を映してやりながら、

『こうしていると、すこしばかりだが……、妖力が回復するのだ。ここ最近、急速に妖力が減ることがあってな』

「何か? 急速に、妖力が減るようなことがあったんですか?」

 ふたたび、カン・ロウンが尋ねると、

『ああ……。我が、異世界の連中と、ここ最近、賭け事して負け続けることが続いてな……。そのせいで、妖力が、空になりかけていてな」

「「「「「それ、ギャンブルやめればいいんじゃない」」」」」

 と、妖狐の返答に、皆が声をそろえて冷静につっこんだ。

 

 本題に戻って、

『それで、要件というのは、その……、“水の匣”の中にいる、ソユンのヤツのことか?』

 と、ようやくのこと、妖狐はこちらの様子を見つつ、要件を聞いてきた。

「ああ、そのとおりだ」

 キム・テヤンが答え、

「こっちへ来て、力を貸してほしいのです、タヌ――、キツネさん」

 と、カン・ロウンが、ふたたびタヌキと言い間違えそうになりながら、妖狐に協力をたのんだ。

『ふ、む……』

 すこし考える様子でうなづく妖狐に、

「できれば、早急に、だ――」

 と、キム・テヤンが、そう付け加えた。

 すると、



『うん。やだ』



と、妖狐の、人間性を疑うかのような返答に、

「「「「「「は――?」」」」」」

 と、一同が、声をそろえた。

 まあ、妖狐であるので、人ですらないのだが……

「おい? 『うん。やだ』って、どういうことだよ!? このタヌキ野郎!!」

 キム・テヤンが、また声を荒げると、

『まあ、そういきり立つな。滝から上がって、すこし疲れていてな。何か、茶とドラ焼きで、一服したくてな』

「は、ぁ?」

「一服したい、だと?」

 と、ティータイムとのたまう妖狐に、「いま、そんな場合か?」との声が飛びながらも、

『ふむ。それに、だ……、いま、私がいるのは、海を挟んだ隣の、日本でな。何か? 妖力がすこし回復したていどの私に、瞬間移動か、ドラえもんみたいに、“どこでもドア的なこと”でもしろというわけか? この鬼畜ども』

 と、すこし露骨に嫌そうな顔をしてみせる妖狐に、

「い、いや、」

「ま、まあ、」

 と、誤魔化す声がしつつ、

「滝行後の、ティータイムを愉しみたいところ、申し訳ないですが、」

 と、カン・ロウンが気をつかいながら、何とか頼もうとするも、

『そこを何とか――、と頼みたいのだろう? それでは、滝行で回復した妖力の分がプラマイ、チャラになろうが』

「何とか、妖力を節約しながら、こっちに来れる方法ってのは、無いのかい?」

 と、ドン・ヨンファも間に入って尋ねると、

『まあ、瞬間移動でなくとも……、確かに、マッハ5、6くらいで移動できるがな、しんどいし』

「しんどいし、て……」

『しんどいものは、しんどかろう? それに、マッハを超えて動くのも、妖力をけっこう消耗するのだ。人を、“ドラえもんみたいなナニカ”のように思ってないか、このゴミ芥』

 と、妖狐が答えるのを聞いて、

((いや、ドラえもんみたいなナニカじゃ、ないのか……?))

 と、ドン・ヨンファとキム・テヤンは、内心つっこみたかった。


 その、ドラえもんみたいなナニカこと、妖狐は続けて、

『まあ、たぶん……、上空を飛ぶ航空機で、そっちに向かうものか中国方面に行くものを見つけて飛び乗る――というのが、一番妖力の節約になろう』

「おいおい、それだと、一時間以上かかるだろうが」

『まあ、そのとおりだ――』

 と、キム・テヤンにつっこまれた。

 そんな、妖狐と三人のやりとりをみて、

「いや、そんな悠長なこと、言ってられないから」

 と、DJオイスターと、

「そうだ。すぐにでも、何とかしないとマズいだろ」

 と、ホン・ドヒョンが急かしてきた。

 すると、

『ふむ……』

 と、妖狐は、すこし考えるようにうつむくと、


『――てか? ソユンのヤツなら、あと、2、30分はいけるんじゃね?』


「「「「「「は――?」」」」」

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