26 そもそも“沸点という概念”があるのかすら分からない
(4)
「「「タヌキ――、だって?」」」
と、DJオイスターたち、何人かが声をそろえた。
まあ、予想だにしていない言葉――
それも、“タヌキ”などという、動物の名など出てきたものだから、無理もなかった。
そんな皆に、代表してカン・ロウンが答える。
「ええ……、我々が、“調査ごと”をするうえで、信じられないかもしれないが……、“妖狐という存在”と、面識がありましてな」
“妖狐”と聞いて、
「妖、狐……?」
「あ、ああ……!」
「マンガとか、ゲームに出てくるアレか」
と、だいたい皆が、ピンときた。
「――てか? それだと、タヌキじゃなくて、キツネじゃん」
「もしかして、わざと間違えた?」
などと、もっともなツッコミも入りながら。
ただ、そんな妖狐などという言葉をきいても、救助に奔走しているレスキューたちにとっては、余計に苛立ちをつのらせるだけであり、
「はぁ? 妖狐だぁ?」
「ふざけてたこと言いやがって、頭おかしいんじゃねぇのか? お前たち」
と、喧嘩腰で言ってきたひとりに、
「ああ”? 何だと? おい!」
と、キム・テヤンが、思わず食いつきそうになる。
そうして、一歩、出そうになるところ、
「て、テヤン! よせって、」
と、カン・ロウンが制止した。
その様子を、
「(お、おいおい、テヤンさんかい? 気が短いな、)」
と、ホン・ドヒョンが傍らで、小声で、おっかなさそうな顔をして見ていつつ。
まあ、確かに、このSPY探偵団の四人の中で一番気が短いのは、キム・テヤンであるのは間違いない。
なお、余談だが、その次に沸点が低いのはドン・ヨンファで、意外とキレそうでキレないのが、『ぽよ』のパク・ソユンである。
そして、カン・ロウンに至っては、そもそも“沸点という概念”があるのかすら分からないという……
まあ、それはさておき、
「とりあえず……、まあ、アンタたちの、さっき使った異能力……、“アレ”は、確かに“ハッタリ”ではなかったしな」
と、DJオイスターと、
「まあ、異能力ってのがあるくらいだからな。アンタたちが、妖狐ってのと面識あるのは、不思議でもない」
「てか、過去に、そういうケース? なかったかしら?」
とは、パク・ソユンと付き合いの長いホン・ドヒョンとキム・ユナのふたりは、「妖狐に電話をする」などと言っても、すんなりと受け入れてくれた。
「とりあえず、妖狐に連絡するぞ。ロウン、」
「ああ」
と、キム・テヤンがカン・ロウンに促した。
続けて、カン・ロウンはスマホを取り出し、妖狐の、神楽坂文へと電話をする。
だが、
――プルルルル……、プルルルル……
と、呼び出し音が鳴るばかりで、出る気配がなかった。
「出ないの、かい?」
ドン・ヨンファが、恐る恐ると聞いた。
「あ、ああ……」
サングラスとともに、その表情の変わりにくいカン・ロウンの表情が、すこし曇りかける。
「もう一度、駆けなおしてみる」
言って、カン・ロウンは電話をかけなおす。
しかし、
――プルルルル……、プルルルル……
と、これまた10秒以上待つも、やはり出る気配がなかった。
「ちっ……! 出ねぇのか? あんの、タヌキ!」
キム・テヤンが舌打ちし、
「あ、ああ……」
カン・ロウンが、静かにうなづく。
その表情が、曇っているのが分かるほどになりながら。
そんな様子を見て、外野から、
「おい、おい!」
「本当に、そんな、妖狐なんてのいるのかよ!」
「くそ、こんな時に、異世界の妖狐だと? 誰か、つまみ出せ! こいつらを」
と、レスキューたちがヤジを飛ばしてきた。
「うるせぇってんだよ!! いま、そいつと連絡とってんだろが!!」
ふたたび、キム・テヤンが、まるで瞬間湯沸かしのようにキレてかかりそうになると、
「お、おいっ!! テヤン!!」
「「よ、よせって!!」」
と、カン・ロウンに、ホン・ドヒョンとDJオイスターたちの三人が止めにかかる。
まあ、瞬間湯沸かしというが、常時、若干沸点低めなのがデフォルトであるのだが……
本題に戻って、
「とりあえず、つながるまで掛けまくってくれよ」
「ああ」
と、キム・テヤンとカン・ロウンは、妖狐への連絡を取り続ける。
カン・ロウンが、スマホを耳に当てる傍で、
「見たところ、レスキューのヤツらが水の匣に入れる様子はない……」
「……」
「……」
と、キム・テヤンが、ホン・ドヒョンやDJオイスターたちに語りかける。
「このまま、俺たちの異能力が通用しなければ……、残念ながら、いまのところ頼れるのは、この“妖狐という存在”しかない」
「ああ……」
と、ホン・ドヒョンがうなづき、
「そして、“今のところ”じゃなくて、“今しか”ない……。この、妖狐のヤツに、賭けるしかない――」
と、静かに、キム・テヤンは話した。
その様子に、
「……」
「あ、ああ……」
と、何人かは、まだ半信半疑ながらも、うなづいた。
まあ、この妖狐に連絡をとることについて、胡散くさく見る者と、いちおう信じてみる者、それぞれ半々くらいになっただろうか。
すると、
――プルルルル……、プルル、プッ――
「おっ――?」
と、これはタイミングがよいのか――? こんどこそ、やっとのことで電話はつながった。
「や、やった、」
と、傍らにいるドン・ヨンファが、ぬか喜びしそうになる。
「ご、ご無沙汰しております、タヌ――、神楽坂さん、」
カン・ロウンが、タヌキから訂正して妖狐の名を呼び、挨拶をかわして要件を話そうとした、その時、
『――おい? 殺してやろうか?』
「「「「「「は――?」」」」」」
と、いきなりスピーカーモードで返ってきた要素だにしない第一声に、皆が、まさに「は?」の顔で声をそろえた。




