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【水の匣】  作者: 石田善二郎
第五章 強襲、水の匣

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26 そもそも“沸点という概念”があるのかすら分からない




          (4)





「「「タヌキ――、だって?」」」


 と、DJオイスターたち、何人かが声をそろえた。

 まあ、予想だにしていない言葉――

 それも、“タヌキ”などという、動物の名など出てきたものだから、無理もなかった。

 そんな皆に、代表してカン・ロウンが答える。

「ええ……、我々が、“調査ごと”をするうえで、信じられないかもしれないが……、“妖狐という存在”と、面識がありましてな」

“妖狐”と聞いて、

「妖、狐……?」

「あ、ああ……!」

「マンガとか、ゲームに出てくるアレか」

 と、だいたい皆が、ピンときた。

「――てか? それだと、タヌキじゃなくて、キツネじゃん」

「もしかして、わざと間違えた?」

 などと、もっともなツッコミも入りながら。

 ただ、そんな妖狐などという言葉をきいても、救助に奔走しているレスキューたちにとっては、余計に苛立ちをつのらせるだけであり、

「はぁ? 妖狐だぁ?」

「ふざけてたこと言いやがって、頭おかしいんじゃねぇのか? お前たち」

 と、喧嘩腰で言ってきたひとりに、

「ああ”? 何だと? おい!」

 と、キム・テヤンが、思わず食いつきそうになる。

 そうして、一歩、出そうになるところ、

「て、テヤン! よせって、」

 と、カン・ロウンが制止した。

 その様子を、

「(お、おいおい、テヤンさんかい? 気が短いな、)」

 と、ホン・ドヒョンが傍らで、小声で、おっかなさそうな顔をして見ていつつ。

 まあ、確かに、このSPY探偵団の四人の中で一番気が短いのは、キム・テヤンであるのは間違いない。

 なお、余談だが、その次に沸点が低いのはドン・ヨンファで、意外とキレそうでキレないのが、『ぽよ』のパク・ソユンである。

 そして、カン・ロウンに至っては、そもそも“沸点という概念”があるのかすら分からないという……


 まあ、それはさておき、

「とりあえず……、まあ、アンタたちの、さっき使った異能力……、“アレ”は、確かに“ハッタリ”ではなかったしな」

 と、DJオイスターと、

「まあ、異能力ってのがあるくらいだからな。アンタたちが、妖狐ってのと面識あるのは、不思議でもない」

「てか、過去に、そういうケース? なかったかしら?」

 とは、パク・ソユンと付き合いの長いホン・ドヒョンとキム・ユナのふたりは、「妖狐に電話をする」などと言っても、すんなりと受け入れてくれた。

「とりあえず、妖狐に連絡するぞ。ロウン、」

「ああ」

 と、キム・テヤンがカン・ロウンに促した。

 続けて、カン・ロウンはスマホを取り出し、妖狐の、神楽坂文へと電話をする。

 だが、


 ――プルルルル……、プルルルル……


 と、呼び出し音が鳴るばかりで、出る気配がなかった。

「出ないの、かい?」

 ドン・ヨンファが、恐る恐ると聞いた。

「あ、ああ……」

 サングラスとともに、その表情の変わりにくいカン・ロウンの表情が、すこし曇りかける。

「もう一度、駆けなおしてみる」

 言って、カン・ロウンは電話をかけなおす。

 しかし、


 ――プルルルル……、プルルルル……


 と、これまた10秒以上待つも、やはり出る気配がなかった。

「ちっ……! 出ねぇのか? あんの、タヌキ!」

 キム・テヤンが舌打ちし、

「あ、ああ……」

 カン・ロウンが、静かにうなづく。

 その表情が、曇っているのが分かるほどになりながら。

 そんな様子を見て、外野から、

「おい、おい!」

「本当に、そんな、妖狐なんてのいるのかよ!」

「くそ、こんな時に、異世界の妖狐だと? 誰か、つまみ出せ! こいつらを」

 と、レスキューたちがヤジを飛ばしてきた。

「うるせぇってんだよ!! いま、そいつと連絡とってんだろが!!」

 ふたたび、キム・テヤンが、まるで瞬間湯沸かしのようにキレてかかりそうになると、

「お、おいっ!! テヤン!!」

「「よ、よせって!!」」

 と、カン・ロウンに、ホン・ドヒョンとDJオイスターたちの三人が止めにかかる。

 まあ、瞬間湯沸かしというが、常時、若干沸点低めなのがデフォルトであるのだが……

 本題に戻って、

「とりあえず、つながるまで掛けまくってくれよ」

「ああ」

 と、キム・テヤンとカン・ロウンは、妖狐への連絡を取り続ける。

 カン・ロウンが、スマホを耳に当てる傍で、

「見たところ、レスキューのヤツらが水の匣に入れる様子はない……」

「……」

「……」

 と、キム・テヤンが、ホン・ドヒョンやDJオイスターたちに語りかける。

「このまま、俺たちの異能力が通用しなければ……、残念ながら、いまのところ頼れるのは、この“妖狐という存在”しかない」

「ああ……」

 と、ホン・ドヒョンがうなづき、

「そして、“今のところ”じゃなくて、“今しか”ない……。この、妖狐のヤツに、賭けるしかない――」

 と、静かに、キム・テヤンは話した。

 その様子に、

「……」

「あ、ああ……」

 と、何人かは、まだ半信半疑ながらも、うなづいた。

 まあ、この妖狐に連絡をとることについて、胡散くさく見る者と、いちおう信じてみる者、それぞれ半々くらいになっただろうか。

 すると、


 ――プルルルル……、プルル、プッ――


「おっ――?」

 と、これはタイミングがよいのか――? こんどこそ、やっとのことで電話はつながった。

「や、やった、」

 と、傍らにいるドン・ヨンファが、ぬか喜びしそうになる。

「ご、ご無沙汰しております、タヌ――、神楽坂さん、」

 カン・ロウンが、タヌキから訂正して妖狐の名を呼び、挨拶をかわして要件を話そうとした、その時、



『――おい? 殺してやろうか?』



「「「「「「は――?」」」」」」



 と、いきなりスピーカーモードで返ってきた要素だにしない第一声に、皆が、まさに「は?」の顔で声をそろえた。

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