22 ぽよの呼吸
(1)
「「わっ!? わあぁぁー!!!」
「「きっ!? きゃぁぁ!!!」
と、乱雑に叫ぶ声から、
「「そっ、ソウー!!!」」
と、パク・ソユンのDJネームを呼ぶ声が入り乱れ、会場は騒然となっていた。
水のディスプレイ、それを構成する水のキューブが軍勢のようになり、
――ドッ、シャァァッ――!!
と、まるで急降下爆撃をいっせいにするかのように!! パク・ソユンへと襲いかかっていたのだ!!
「「そっ、ソユンーッ――!?」」
キム・テヤンとドン・ヨンファが、同時に叫び、
「み、水の匣かッ――!?」
と、カン・ロウンも、跳び起きるように反応する。
「お、おいっ!? 何で、あいつ動かね――」
キム・テヤンが、そこまで言いかけたところで、
「はッ――!?」
と、気がついた。
パク・ソユンが、いままさに水の匣に強襲される前後のこと、ピタッ――と、フリーズしたように動かず、されるがままに水のキューブに襲われるようにも見えた。
ただ、このパク・ソユンだが、悪く言えば鈍感、よく言えば動じない人間であり、また、その戦闘力を考えてみても、こんな強襲をされた程度では、ビビって動けなくなるということは考えにくい。
ゆえに、水のキューブに襲われた瞬間の挙動というのは、すこし不自然にも見えた。
そこまで考えたところで、
「ま、まさか――!?」
と、キム・テヤンは“何か”を察した。
「ああ……」
と、カン・ロウンもそれは同様で、うなづいた。
ふたりとは対照的に、
「え? ど、ゆ―「――てめぇ! まだ分かんねぇのか? タコ!」
と、ドン・ヨンファは、「どゆ、こと――?」と聞こうとするより前に、キム・テヤンによって言葉をさえぎられる。
「え? えっ?」
ドン・ヨンファは困惑していると、
「な、なん―「――“アレ”、だってんだよ!! 『人質を取る――』とか、脅迫されてんだよ!!」
と、またしても、「何で?」と聞こうとした途中で、キム・テヤンが言葉を被せて、先に答えを言った。
「なっ!? 何だって――!?」
ここで、ドン・ヨンファも理解し、驚愕の声をあげた。
その、ドン・ヨンファが続けて、
「でも、さ? そんな、人質って……、どこにいんだい?」
「さあ、な……。恐らく、おおかた、プールにいる客連中とかじゃねぇのか」
「まあ、ソユンの異能力で、いくらかは水のキューブを妨害することはできても……、これだけの数の人間を、守り切るってのは困難、不可能だろうし……」
と、カン・ロウンが、途中、息を継ぐようにしながら、
「それに……、ソユンの異能力は、“そういうこと”には、適してないからな」
と、言葉を添えた。
あくまで、グロ動画などから得たイメージをもとに、チェーン・ソーなどの武器・ガジェットを具現化したり……、あるいは、例えば、首輪爆弾の爆発も耐えて見せるほどの、“異常な耐久力”を発揮することのできるパク・ソユンの異能力――
ちなみに、過去の調査において犯人と対峙した際に、この首輪爆弾を爆発を受けても無事であったというのは、『ぽよ』と呼吸したこと――、すなわち、『ぽよの呼吸』などと、パク・ソユン本人は宣っているのだが、恐らく、それは絶対にない。
まあ、そういうわけであるから、ドローンやミサイルの飽和攻撃のような水のキューブ群の急襲において、自分の身を守るだけならまだしも、これだけ大人数の観客の身を守ることは、確かにパク・ソユンの異能力では難しかった。
それはさておき、その間にも
――ドド、ド……
と、急降下するようにして、水のキューブ群はパク・ソユンへと降り注ぎ、
――ぐ、ぐっ……
と、合体して融合していく。
終いには、
――シャッ、キーン――!!
と、水とは思えぬ“ソリッド”――
すなわち、“限りなく完璧な直線”の辺で構成される、立方体――、【水の匣】へと変化する!!
そして、その“匣”の中には、
――ゆらぁっ……
と、パク・ソユンが、まるでクリムト絵画にでてくるかのような、水の中で眠れる姫や美女のように、漂っていた。
それを、ステージ下の、プールサイドから眺めていたところ、
「「そっ、ソーウッ――!!」」
「「ソユンー!!」」
などと、DJネームと本名が入り乱れながら、叫ぶ声が聞こえた。
壇上を見るに、
――ドタ、バタ!!
と、ゴーグルサングラスのホン・ドヒョンにキム・ユナ、それからイベント関係者、スタッフたちや、DJ仲間が駆け寄るのが見える。
それを見て、カン・ロウンがふたりに、
「くっ……! こ、これは、俺たちも、ボサっとしている場合じゃない! 行くぞ!! テヤン!! ヨンファ!!」
「ああ!! 分かってらぁ!!」
「あ、ああ、」




