21 チームとモダチー
(4)
パク・ソユンの、DJパフォーマンスは続く。
トラックは、さきほどと同じく、日本の、『チーム友達』のリミックスへと変わる。
その、『チーム友達、チーム友達、――』と、くり返すべきところを、
『チームとモダチー!! チームとモダチー!!』
と、DJ・SAWこと、パク・ソユンはマイクパフォーマンスする。
それを聞いているフロアは、
「「えっ――?」」
「「チーム友達じゃなくて、チームとモダチーって、言ってるよね……?」」
「「モダチー??」」
などと、やはり困惑気味にざわついた。
それは、ドン・ヨンファたちも同じようで、
「え――?」
と、ドン・ヨンファは、目を点にして、
「チームとモダチーって、言ってない?」
と、キム・テヤンとカン・ロウンにも、投げかけた。
キム・テヤンも、
「ったく……、何が、“モダチー”だってんだ、アイツ」
と、ドン・ヨンファと同様に、やはり“チーム友達”ではなく、“チームとモダチー”と聞こえてきたようで、苦虫をつぶしたような顔で舌打ちした。
まあ、半分、ワザとなのか、活舌のせいなのか――?
まるで、あだ名か、ゆるキャラのような語感をした“モダチー”。
それはさておき、パク・ソユンのステージも、終盤へと差しかかる。
あと、3、4曲くらいだろうかというところ
「あっ、そろそろ、終盤な感じだね」
と、ドン・ヨンファが言うと、
「けっ、さっさと終わっていいってんだよ」
と、キム・テヤンが、やはり面白くなさそうな顔して、
「まあ、終わっても、また別のDJだけど」
「フン……、そしたら、こんなやかましいとこ、トンズラするか」
「まあ、そうだな……? そしたら、俺といっしょに、蘇州を、色々回ってみるかい? テヤン」
とここで、カン・ロウンが、キム・テヤンに提案した。
「ああ”? お前と、だと?」
「まあ、俺以外に、誰かいるか? ヨンファは、そのまま、ここにいるんだろう? ソユンと」
「まあ、どっちでもいいんだけど……、そう、だねぇ……?」
と、ドン・ヨンファが、言葉どおりどっちでもよさそうに考える。
また、カン・ロウンが、
「蘇州を散策しがてら、その、“アクア・キューブリック社”っていう企業について、調べれたらしらべるのもありだろう」
「まあ、そう、だなぁ……」
と、ドン・ヨンファが、すこし迷う。
とりあえず、回答するのは保留して、
「そういえば、その、アクア・キューブリック社の、技術なんだよな? あの、動いている、水のキューブのディスプレイ」
と、ドン・ヨンファは、ステージ上のすこし上――、映像作品のように動く、水のディスプレイを指さした。
「ああ、」
カン・ロウンは、うなづきながら、
「よく見ると、確かに……、水のキューブが、ドットのようになっているな」
「だね、」
と、ふたりして、すこし目を凝らそうとする。
まぶしい夏の空の中、確かに、水のキューブのドットが見える。
だが、その時、
「う、ん……?」
と、カン・ロウンが、“何か違和感”を感じた。
隣のドン・ヨンファが、
「……ん? どうしたん、だい?」
と、その様子に気づいた。
カン・ロウンは、
「……」
と、じぃっ……と、凝視を続ける。
その間も、水の、キューブのドットは、
――ぐ、にゃぁぁ……
と、動き、蠢き続ける。
「……」
カン・ロウンは、すこし表情を険しくさせる。
ただ、その動きというのが、微かに、どこか曲というかフロアの雰囲気にあってないような……、まるで、不協和音を孕んだような気がしたのだ。
ドン・ヨンファも、
「うん……? これ、は……」
と、同じ“違和感”に気がついて、その表情を変えた。
***
同じころ、場面は、ステージ上へと変わる。
――ドッ!! ドッ!! ドッ、ドッ――!!
と、喧しくも、
――ワァァッ――!!!
と、大歓声を、水しぶきとともに下から浴びるステージ上。
DJ・SAWことパク・ソユンは、終わりに向けてのDJパフォーマンスをしながらも、
「う、ん……?」
と、ステージ下の、すこし離れたプールサイドにいるカン・ロウンと同様、違和感に気がついていた。
頭上で、
――ゆ、らぁぁっ……、ぐ、わぁぁんっ……
と、動きながらも、映像を投影する“水のディスプレイ”。
水のドットは、球形と“球形の穴”からなる、太湖石のようへと変化する。
その、球状の凹凸が蠢く、バロック感――
いちおうは曲や、その雰囲気と合っているように、水のディスプレイは動くのだが……、微かに、フロアの雰囲気との若干のズレというか、ノイズのような、“協和しないナニカ”を、
「……」
と、パク・ソユンは感じとっていた。
ただ、そのような違和感を感じていることを、表情やパフォーマンスに出さないよう、DJプレイを続けながらも、
「……」
と、チラリ……と、やはり、頭上の“それ”が気になる。
動く、水の、キューブをドットにしたアート・ディスプレイ。
そして、ドン・ヨンファの言った、“ポリウォータ”と、“アクア・キューブリック社”。
【水】――
【キューブ】――
すなわち、【水の匣】、と――
フラグとしては、役満というところか――?
そんな、パク・ソユンは、“何かフラグのような予感”がしながらも、
――ス、チャッ……
と、ヘッドホンを耳に装着した。
次の曲へと、まさにディスク・ジョッキーするための作業。
夏のプールやビーチ衣装のモデルのような、爽やかにもセクシーな装いに、頭の、白のカチューシャが映える。
加えて、カチューシャからすこしズラして被るヘッドホンが、彼女に“カッコ良さ”をも与える。
だが、その時、
「――ん、あ?」
と、パク・ソユンは思わず、すこし間のぬけた声を出した。
聞こえてくるはずの、次につなぐトラックの音声――
だが、聞こえたのは、
『――聞こえるか? パク・ソユン?』
と、まさかの、“何者か”の声だった。
「は――?」
パク・ソユンが、思わず顔をしかめそうになる。
こんな声、このトラックにあっただろうか――?
否、あるわけない。
また、DJギアを通じて、運営からインカムのように連絡がくる――、なんてこともない。
すわなち、“何者か”が、“ハッキングのようなこと”――、をしている可能性がある。
「何?」
パク・ソユンが、聞き返す。
まあ、そもそも、『聞こえるか?』と聞かれても、どうやって返答をするのかという話である。
そう、つっこみたくなっていると、
――シュバ、シュバッ……!!
と、頭上にある、水のディスプレイが、何か不穏な動きを見せ始める。
太湖石のように球状となっていたものの何割かは、四角い、キューブのへと戻る。
明らかに、曲とまったく合ってない、コンピュータウイルスのような“ナニカ悪意”を感じさせる挙動。
それを見て、
「は――?」
と、パク・ソユンは、こんどは露骨に顔をしかめそうになるも、堪える。
だが、この水のディスプレイの違和感には、
――ザワ、ザワ……
と、フロアの、オーディエンスたちも、すこし気がつき始める。
同時に、パク・ソユンは何か予感がした。
(これは、もしかすると……、“水の匣”が――)
そう、予感がよぎった。
その時、
『――察したか? パク・ソユン』
「――!?」
と、ふたたび、謎の声がした。
何者かの声は続けて、
『フロアの人間は、人質だ――。このまま、動くな』
「は? 何? また、人質、取るパターン?」
パク・ソユンが、すこしイラっとしたときの表情になる。
“人質”――
それを用いられると、SPY探偵団の中でも強力な変化系の異能力と戦闘力を持つパク・ソユンであるが、その力を削がれる、もしくは発揮することができなくなる、“厄介な手段”のひとつである。
それも、“また”というからには、過去に、“人質を取られた”せいで、散々な目にあったこともある。
ときに、“それ”によって、手をチェーン・ソーで切り落とされたり、フッ酸やギンピ・ギンピの“茶”を飲まされたり、と……
それは、さておき――
“人質”とのワードによって、
――ピ、タッ……
と、パク・ソユンは、蛙化――ではないものの、一瞬、フリーズしたように動けなくなる。
そして、
――ゴゴ、ゴゴゴッ……!!
「――!?」
と、水のキューブがこちらのほうを向いて広がり!! パク・ソユンへと襲いかからんとする――!!




