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【水の匣】  作者: 石田善二郎
第四章 蘇州にて

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20/31

20 ぽよミント




          (3)




 ――ドッ!! ドッ!! ドッ、ドッ――!!


 と、そうして、DJ・SAWことパク・ソユンがステージへと上がり、イベントは進む。

 パールつきカチューシャはそのままに、ラフなシャツを脱いで、水着姿になるパク・ソユン。

 美貌に、抜群のスタイル――!! 

 披露すると同時、


 ――ワァァァッ――!!!!!


 と、男女ともに、大歓声があがる!!

「「「ソー、ウ!! ソーウ!!」」」

「「「ソユンー!!」」」

 などと、DJネームと、本名の入り乱れたコールが盛り上がる。

 カン・ロウンたち三人は、水しぶきの飛び交うプールから離れて、プールサイドのほうでビーチパラソルの下、パク・ソユンのDJパフォーマンスをドリンクを飲みつつ、それを眺めていた。

 すると、


「けっ、」


 と、開幕一番、キム・テヤンが、相変わらず面白くなさそうな顔で舌打ちした。

 もはや、この顔と舌打ちは、このキム・テヤンにとってデフォルトのようなものだ。

 それを、半ばスルーして、

「しかし……、久しぶりだなぁ。ソユンが、生でDJするのを観るのは」

 カン・ロウンが、丸サングラスを光らせながら言った。

「そう、だね……」

 ドン・ヨンファが、うなづきつつ、

「まあ、僕は、たまに、ソユンがクラブでやってるとき、行くけど」

 と、答えた。

 まあ、このドン・ヨンファだが、パク・ソユンと仲が悪いのか良いのか、腐れ縁のようにくっついているためだろう。

 なお、プールサイドではビールの売り子のように、イベントスタッフがドリンクと、それからアイスなどを売って回っていた。

 そして、

「お酒に~、アイスなどはいかがですかぁ~♪」

 と、こちらは、セクシーなユニフォームの売り子の女がやってきた。

 キンキンに冷えたドリンクに、こちらもキンキンになったシャーベットというか、アイス。

 一口サイズの四角くキューブ状で、色とりどりの、夏を感じさせるトロピカル色である。

「おおっ、いいね」

 と、カン・ロウンが、ビーチチェアから上体を起こし、

「それ、ちょうだいよ」

 と、ドン・ヨンファも便乗した。

 手際よく支払い、

「まいどー♪」

 と、売り子の女からアイスを買った。

 そうして、すぐ手に取って口に放りこむや、

「くぅ~っ! いいねぇ! 生き返るっ!」

 と、ドン・ヨンファが、カキ氷をかき込んだ時のような、歓喜と冷たさに耐えるのが入り混じったような表情で、アイスを頬張る。

「何が、生き返るってんだ! タコ」

 と、キム・テヤンが、相変わらずのタコ呼ばわりしてつっこんだ。

 そこへ、

「しかし、何か、先日の、テヤンの屋台のと同じようなものだな」

「だね」

 と、カン・ロウンが言って、ドン・ヨンファがうなづいた。

 確かに、先日のキム・テヤンの屋台で飲んでいたとき、これと似たようなアイスが出された。

「まあ、流行ってんじゃねぇのか? こんな、アイスが」

 キム・テヤンが言い、

「でも、それにしても、偶然かな? よく、“四角”を見る気がするな」

 と、ドン・ヨンファが、“四角”というのをキーワードのように感じる。

 それを聞きつつ、

「……」

 と、カン・ロウンは丸サングラスを光らせながら、何か引っかかるような感じがしながら、ぼーっ……と、プールとステージのほうを見ていた。


 そのようにしながら、フェスの熱気の中、三人は四角いキューブアイスをつまみつつ、パク・ソユンのパフォーマンスを眺めていた。

 奇しくも、曲は流行していた、『あい〇くりぃむ』へと変わる。

 そうすると、お決まりの『ルビィちゃーん!!』、『何が好きィー!!』の部分を変えて、

「「「「「ソウ、ちゃぁ~ん――!!」」」」」

 と、フロア――、まあ、プールなのであるが、オーディエンスがDJ・SAWへと呼びかける。

 すると、


『は、ぁ”~”い――!!』


 と、DJ・SAWことパク・ソユンからは、マイクで、先ほどカン・ロウンやホン・ドヒョンたちに披露したミッキーの声が返ってきた!!

 フロアの観衆たちは、思わぬ返しを聞いて、

「「「「「ッ――!?」」」」」

 と、大いに驚愕し、

 ――ガ、クッ――!!

 と、皆がコケかけ!! 大横転しにかかるッ――!!

 その、思うところ、


(((((何故にッ!? ミッキーマウスみたいな声ッ――!?)))))


 と、皆のバイブスの!! 心の声が一致する――!!

 それは、カン・ロウンはさておき、ドン・ヨンファとキム・テヤンたちも同じであり、

 ――ガ、クンッ……!!

 と、横転しにかかる形で、

「ったく……、まった、何でミッキーみてぇな声出すんだよ? アイツは?」

「さ、ぁ? 謎の、マイブームじゃない? ソユンの?」

 と、顔をしかめながら呆れる。

 その間も、プールのほうでは、

「「「「「何がッ、好きぃぃー!!!!」」」」」

 と、観衆たちの声が会場に響く。

 原曲どおりであれば、ここは『チョコミントぉ~、よりも、ア~ナ~タァ♥』

と来る。

 もしくは、『チョコミント』のところが、そのアーティスの好きなアイスへとアレンジされる。

 しかし、このDJ・SAWこと、パク・ソユンは、


『ぽよミントォ~!! よりも、あぁ~”、なぁ~”、たぁ~”~”!!』


 と、来たわけである。

 それも、相変わらずの、ミッキーの声で。

 またしても、フロアは、

「「えっ――?」」 

「「“ぽよミント”って、何?」」

「「てか、『ぽよ』って、何?」」

「「ねぇ、何なの? 『ぽよ』って、何なの? 『ぽよ』って」」

 と、ざわつき、困惑しにかかる。

 ――それを、遠目で見つつ、

「ちっ……! 何が“ぽよミント”だってんだ、アイツ……」

 キム・テヤンが舌打ちして、さらに苦虫を潰した顔になり、

「ほんと、何なの……? ぽよミントって……」

 と、ドン・ヨンファも同様の顔をし、

「何か、『ぽよ』に味をしめてんじゃねぇか? あのタコ」

「ほんと、僕も、そう思う」

 と、ここは、この仲の良くなさげなふたりも一致するところだった。



          ***



 ――そして、パク・ソユンのステージは、さらに続く。

 中盤の、すこしテンポを落としつつもイケイケの曲では、

『ワッ――!! ワッ――!!』

 と、パク・ソユンはテンション高く、マイクパフォーマンスをしてみせる。

 その様子は、普段の――、カン・ロウンたちSPY探偵団のメンツといる時からは考えられない、イキイキとした表情である。

 それを眺めながら、

「けっ……、いつも、ワッ、ワッ、言ってんな、あいつ」

 と、キム・テヤンが、また舌打ちしながらしかめっ面をした。

「まあ、マイクパフォーマンスだからね」

 と、ドン・ヨンファが答える。

 まあ、この答えも、あまり答えになっていないのだが。

 そうしながらも、カン・ロウンはさておき、このドン・ヨンファとキム・テヤンのふたりの集中力は切れてくる。

 というよりも、もともと、ダラダラ観ているだけであるが。

 そんな、中ダレした空気の中、

「そういえば……? 結果は、どうなったんだろうな? 例の、ソユンがとってきた水の」

 と、ふと、カン・ロウンが思い出して言った。

「そう、だねぇ……?」

 ドン・ヨンファが反応しながら、スマホを確認し、

「まだ……、イジュンからの連絡は、来てないな」

「やはり、それなりに、時間はかかるのかな? 微量な成分だったり……、もし、“匣の水”とやらに、何か、特殊な構造があるとすれば」

「う~ん……、まあ、確かに、簡単な成分分析くらいだったら、そんなに、時間はかからないと思うからね。まあ、片手間で調べてもらっているから、イジュンが、どれくらい忙しいか――、ってのにも、よるけど」

 と、ドン・ヨンファとカン・ロウンのふたりは話す。

 なお、キム・テヤンは、会話に加わるのを面倒そうにして、ビーチチェアに寝転がっていた。

 なので、カン・ロウンとドン・ヨンファのふたりだけで話を続ける。

「もし、本当に……、その、ポリウォータか、ポリウォータに類似するものを持たせる成分というのがあるとしたら、どうだろうか?」

 カン・ロウンが、そう仮定して話を進めて、

「そう、だねぇ……?」

「ただ、もし、そういうものがあるとしても、どういう形で犯行を行っているのだろうか――? という疑問が、浮かんでね」

「――と、いうのは?」

 と、ドン・ヨンファが、「そのこころは?」と、聞いて、

「ナイフであれ、銃であれ、犯罪を――、“犯行を為すためのアイテム、ガジェット”というのは、ある緯度、“それを為しうる距離”まで近づく必要がある」

「あ、あ……」

 と、ここで、ドン・ヨンファもカン・ロウンの意図するところを理解してうなづく。

 カン・ロウンが、続けて、

「恐らく、ポリウォータのように水を変化させる“ナニカ”というものがあるとして、それは水に溶かす形で、“仕込む”必要がある」

「だろう、ね」

 と、ドン・ヨンファは相づちし、

「なので、この“ポリウォータを実現するナニカ”自体が、魔法やドラえもんの道具のようなガジェットであったとしても、それを”仕込む”という、“目撃されるリスクがある程度ある”行動をする必要がある」

「ああ……。犯行現場の、周辺の水……、もしくは、現場からすこし離れた場所の給水施設、なんかかな? ただ、いくら水に混和して“仕込む”といっても、あまり水の量が多いと、薄くなりすぎて、効果を発揮できるのか――? って、単純な疑問が浮かぶんだけど」

「だろうな……」

 と、カン・ロウンが相づちしつつ、

「ゆえに……、もし、“そのナニカ”が用いられているのだとしても、“犯行を実行する”のに、ある程度の難しさがあるだろう……。まあ、それは、どんな犯罪でも同じかもしれないが」

 と、言った。

「そうすると……、もし、この“ポリウォータを実現するナニカ”というのが用いられているとすれば、“匣”が出現した現場近辺に、何らか、怪しい人物が浮上してくるはずだよな?」

 と、ドン・ヨンファが確認するように聞き、

「ああ……。だが、マーさんたちによると、現状では、そのような、目ぼしい怪しい人間というのは“いない”とのことだ……。これまでの、多くのケースにおいて」

 と、カン・ロウンは答えた。

 ここまでは、マー・ドンゴンとチャク・シウの、刑事コンビと似たような見解になる。

 そうして、しばらく話をした小休止か、

「……」

「ふ、ぅ……」

 と、カン・ロウンとドン・ヨンファは、ボーッ……としながら、イベント盛り上がるプールとステージのほう、


 ――ゆ、らぁ……


 と、揺らめく、“水のディスプレイ”を眺めていた。

 曲が、静かになって落ちついたところ、それに合わせるように、この水のディスプレイも、ゆっくりと動く。

 その、どこか、映像アートのように眩惑的のようなさまに、

「何か、不思議な感じがするね」

 と、ドン・ヨンファが言い、

「ああ……」

 と、カン・ロウンがうなづいた。

 そんなふうに、ふたりはボーッ……としながらも、

「……?」

「うー、ん……?」

 と、何か、“重要なこと”を忘れている気がしていた。

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