20 ぽよミント
(3)
――ドッ!! ドッ!! ドッ、ドッ――!!
と、そうして、DJ・SAWことパク・ソユンがステージへと上がり、イベントは進む。
パールつきカチューシャはそのままに、ラフなシャツを脱いで、水着姿になるパク・ソユン。
美貌に、抜群のスタイル――!!
披露すると同時、
――ワァァァッ――!!!!!
と、男女ともに、大歓声があがる!!
「「「ソー、ウ!! ソーウ!!」」」
「「「ソユンー!!」」」
などと、DJネームと、本名の入り乱れたコールが盛り上がる。
カン・ロウンたち三人は、水しぶきの飛び交うプールから離れて、プールサイドのほうでビーチパラソルの下、パク・ソユンのDJパフォーマンスをドリンクを飲みつつ、それを眺めていた。
すると、
「けっ、」
と、開幕一番、キム・テヤンが、相変わらず面白くなさそうな顔で舌打ちした。
もはや、この顔と舌打ちは、このキム・テヤンにとってデフォルトのようなものだ。
それを、半ばスルーして、
「しかし……、久しぶりだなぁ。ソユンが、生でDJするのを観るのは」
カン・ロウンが、丸サングラスを光らせながら言った。
「そう、だね……」
ドン・ヨンファが、うなづきつつ、
「まあ、僕は、たまに、ソユンがクラブでやってるとき、行くけど」
と、答えた。
まあ、このドン・ヨンファだが、パク・ソユンと仲が悪いのか良いのか、腐れ縁のようにくっついているためだろう。
なお、プールサイドではビールの売り子のように、イベントスタッフがドリンクと、それからアイスなどを売って回っていた。
そして、
「お酒に~、アイスなどはいかがですかぁ~♪」
と、こちらは、セクシーなユニフォームの売り子の女がやってきた。
キンキンに冷えたドリンクに、こちらもキンキンになったシャーベットというか、アイス。
一口サイズの四角くキューブ状で、色とりどりの、夏を感じさせるトロピカル色である。
「おおっ、いいね」
と、カン・ロウンが、ビーチチェアから上体を起こし、
「それ、ちょうだいよ」
と、ドン・ヨンファも便乗した。
手際よく支払い、
「まいどー♪」
と、売り子の女からアイスを買った。
そうして、すぐ手に取って口に放りこむや、
「くぅ~っ! いいねぇ! 生き返るっ!」
と、ドン・ヨンファが、カキ氷をかき込んだ時のような、歓喜と冷たさに耐えるのが入り混じったような表情で、アイスを頬張る。
「何が、生き返るってんだ! タコ」
と、キム・テヤンが、相変わらずのタコ呼ばわりしてつっこんだ。
そこへ、
「しかし、何か、先日の、テヤンの屋台のと同じようなものだな」
「だね」
と、カン・ロウンが言って、ドン・ヨンファがうなづいた。
確かに、先日のキム・テヤンの屋台で飲んでいたとき、これと似たようなアイスが出された。
「まあ、流行ってんじゃねぇのか? こんな、アイスが」
キム・テヤンが言い、
「でも、それにしても、偶然かな? よく、“四角”を見る気がするな」
と、ドン・ヨンファが、“四角”というのをキーワードのように感じる。
それを聞きつつ、
「……」
と、カン・ロウンは丸サングラスを光らせながら、何か引っかかるような感じがしながら、ぼーっ……と、プールとステージのほうを見ていた。
そのようにしながら、フェスの熱気の中、三人は四角いキューブアイスをつまみつつ、パク・ソユンのパフォーマンスを眺めていた。
奇しくも、曲は流行していた、『あい〇くりぃむ』へと変わる。
そうすると、お決まりの『ルビィちゃーん!!』、『何が好きィー!!』の部分を変えて、
「「「「「ソウ、ちゃぁ~ん――!!」」」」」
と、フロア――、まあ、プールなのであるが、オーディエンスがDJ・SAWへと呼びかける。
すると、
『は、ぁ”~”い――!!』
と、DJ・SAWことパク・ソユンからは、マイクで、先ほどカン・ロウンやホン・ドヒョンたちに披露したミッキーの声が返ってきた!!
フロアの観衆たちは、思わぬ返しを聞いて、
「「「「「ッ――!?」」」」」
と、大いに驚愕し、
――ガ、クッ――!!
と、皆がコケかけ!! 大横転しにかかるッ――!!
その、思うところ、
(((((何故にッ!? ミッキーマウスみたいな声ッ――!?)))))
と、皆のバイブスの!! 心の声が一致する――!!
それは、カン・ロウンはさておき、ドン・ヨンファとキム・テヤンたちも同じであり、
――ガ、クンッ……!!
と、横転しにかかる形で、
「ったく……、まった、何でミッキーみてぇな声出すんだよ? アイツは?」
「さ、ぁ? 謎の、マイブームじゃない? ソユンの?」
と、顔をしかめながら呆れる。
その間も、プールのほうでは、
「「「「「何がッ、好きぃぃー!!!!」」」」」
と、観衆たちの声が会場に響く。
原曲どおりであれば、ここは『チョコミントぉ~、よりも、ア~ナ~タァ♥』
と来る。
もしくは、『チョコミント』のところが、そのアーティスの好きなアイスへとアレンジされる。
しかし、このDJ・SAWこと、パク・ソユンは、
『ぽよミントォ~!! よりも、あぁ~”、なぁ~”、たぁ~”~”!!』
と、来たわけである。
それも、相変わらずの、ミッキーの声で。
またしても、フロアは、
「「えっ――?」」
「「“ぽよミント”って、何?」」
「「てか、『ぽよ』って、何?」」
「「ねぇ、何なの? 『ぽよ』って、何なの? 『ぽよ』って」」
と、ざわつき、困惑しにかかる。
――それを、遠目で見つつ、
「ちっ……! 何が“ぽよミント”だってんだ、アイツ……」
キム・テヤンが舌打ちして、さらに苦虫を潰した顔になり、
「ほんと、何なの……? ぽよミントって……」
と、ドン・ヨンファも同様の顔をし、
「何か、『ぽよ』に味をしめてんじゃねぇか? あのタコ」
「ほんと、僕も、そう思う」
と、ここは、この仲の良くなさげなふたりも一致するところだった。
***
――そして、パク・ソユンのステージは、さらに続く。
中盤の、すこしテンポを落としつつもイケイケの曲では、
『ワッ――!! ワッ――!!』
と、パク・ソユンはテンション高く、マイクパフォーマンスをしてみせる。
その様子は、普段の――、カン・ロウンたちSPY探偵団のメンツといる時からは考えられない、イキイキとした表情である。
それを眺めながら、
「けっ……、いつも、ワッ、ワッ、言ってんな、あいつ」
と、キム・テヤンが、また舌打ちしながらしかめっ面をした。
「まあ、マイクパフォーマンスだからね」
と、ドン・ヨンファが答える。
まあ、この答えも、あまり答えになっていないのだが。
そうしながらも、カン・ロウンはさておき、このドン・ヨンファとキム・テヤンのふたりの集中力は切れてくる。
というよりも、もともと、ダラダラ観ているだけであるが。
そんな、中ダレした空気の中、
「そういえば……? 結果は、どうなったんだろうな? 例の、ソユンがとってきた水の」
と、ふと、カン・ロウンが思い出して言った。
「そう、だねぇ……?」
ドン・ヨンファが反応しながら、スマホを確認し、
「まだ……、イジュンからの連絡は、来てないな」
「やはり、それなりに、時間はかかるのかな? 微量な成分だったり……、もし、“匣の水”とやらに、何か、特殊な構造があるとすれば」
「う~ん……、まあ、確かに、簡単な成分分析くらいだったら、そんなに、時間はかからないと思うからね。まあ、片手間で調べてもらっているから、イジュンが、どれくらい忙しいか――、ってのにも、よるけど」
と、ドン・ヨンファとカン・ロウンのふたりは話す。
なお、キム・テヤンは、会話に加わるのを面倒そうにして、ビーチチェアに寝転がっていた。
なので、カン・ロウンとドン・ヨンファのふたりだけで話を続ける。
「もし、本当に……、その、ポリウォータか、ポリウォータに類似するものを持たせる成分というのがあるとしたら、どうだろうか?」
カン・ロウンが、そう仮定して話を進めて、
「そう、だねぇ……?」
「ただ、もし、そういうものがあるとしても、どういう形で犯行を行っているのだろうか――? という疑問が、浮かんでね」
「――と、いうのは?」
と、ドン・ヨンファが、「そのこころは?」と、聞いて、
「ナイフであれ、銃であれ、犯罪を――、“犯行を為すためのアイテム、ガジェット”というのは、ある緯度、“それを為しうる距離”まで近づく必要がある」
「あ、あ……」
と、ここで、ドン・ヨンファもカン・ロウンの意図するところを理解してうなづく。
カン・ロウンが、続けて、
「恐らく、ポリウォータのように水を変化させる“ナニカ”というものがあるとして、それは水に溶かす形で、“仕込む”必要がある」
「だろう、ね」
と、ドン・ヨンファは相づちし、
「なので、この“ポリウォータを実現するナニカ”自体が、魔法やドラえもんの道具のようなガジェットであったとしても、それを”仕込む”という、“目撃されるリスクがある程度ある”行動をする必要がある」
「ああ……。犯行現場の、周辺の水……、もしくは、現場からすこし離れた場所の給水施設、なんかかな? ただ、いくら水に混和して“仕込む”といっても、あまり水の量が多いと、薄くなりすぎて、効果を発揮できるのか――? って、単純な疑問が浮かぶんだけど」
「だろうな……」
と、カン・ロウンが相づちしつつ、
「ゆえに……、もし、“そのナニカ”が用いられているのだとしても、“犯行を実行する”のに、ある程度の難しさがあるだろう……。まあ、それは、どんな犯罪でも同じかもしれないが」
と、言った。
「そうすると……、もし、この“ポリウォータを実現するナニカ”というのが用いられているとすれば、“匣”が出現した現場近辺に、何らか、怪しい人物が浮上してくるはずだよな?」
と、ドン・ヨンファが確認するように聞き、
「ああ……。だが、マーさんたちによると、現状では、そのような、目ぼしい怪しい人間というのは“いない”とのことだ……。これまでの、多くのケースにおいて」
と、カン・ロウンは答えた。
ここまでは、マー・ドンゴンとチャク・シウの、刑事コンビと似たような見解になる。
そうして、しばらく話をした小休止か、
「……」
「ふ、ぅ……」
と、カン・ロウンとドン・ヨンファは、ボーッ……としながら、イベント盛り上がるプールとステージのほう、
――ゆ、らぁ……
と、揺らめく、“水のディスプレイ”を眺めていた。
曲が、静かになって落ちついたところ、それに合わせるように、この水のディスプレイも、ゆっくりと動く。
その、どこか、映像アートのように眩惑的のような様に、
「何か、不思議な感じがするね」
と、ドン・ヨンファが言い、
「ああ……」
と、カン・ロウンがうなづいた。
そんなふうに、ふたりはボーッ……としながらも、
「……?」
「うー、ん……?」
と、何か、“重要なこと”を忘れている気がしていた。




