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【水の匣】  作者: 石田善二郎
第四章 蘇州にて

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19/27

19 マンガのように横転しにかかる




          (2)




 場面は変わって――

 中国は、その、蘇州にて。

 上海のお隣の、東洋のベニスと呼ばれる、水郷の街として知られる。

 水路に沿って連なる、濃いグレーの煉瓦だったり、白い漆喰壁に“うだつ”を設けた古い中華建築群。

 それら落ち着いた無機色に、屋根や壁に飾られる赤い提灯、しだれ柳などの水辺の樹々の色彩が協奏し、水郷の街としての趣ある光景。

 いっぽう、それらの古い街並みの背後には、現代的な高層建築群も広がる。

 そんな、悠久の歴史の流れを感じさせる、落ちついた蘇州の街を背景として、



 ――ドッ!! ドッ!! ドッ、ドッ――!!



 と、落ちつきのなく喧しく!! ドラムの音が鳴り響く!!

 さらに、空を見るに、


 ――ブッ、シャァァッ――!!


 と、ウォーターキャノンの豪快な水しぶき!!

 飛び交うビーチボールに、浮き輪!!

 そう、である――!!

 水の滴る、水遊びにもハードコアな音楽イベント!! 【如水】ミュージックフェス――!!

 そして、



「――何? アンタたちも、来たわけ?」



 と、舞台裏にて、パク・ソユンが開口一番、言った先――

 そこには、

「ああ……、来ちゃったよ、ソユン」

 と、呑気そうに答えるカン・ロウンを筆頭に、キム・テヤン、それからドン・ヨンファの、SPY探偵団メンバー三人の姿があった。

 彼らはイベント当日に、この舞台裏に、顔パスで入ってきた。

 まあ、それというのは、いちおうは財閥のボンボンの実業家として顔の広いドン・ヨンファが、イベントのプロデューサーや出資者たちと仲がいいこと、それから、パク・ソユンとの仲も知られていることもあるからだった。

「いや、何で? 来たわけ?」

 パク・ソユンが、その理由を聞く。

 なお、顔は不機嫌そうとも、何とも読み取れない表情であるが、

「いや、ここ蘇州に、“水の匣”に、何らか係わりのありそうな企業がある――、って情報が、あって、さ?」 

 と、ドン・ヨンファが、すこし恐る恐るとしながら答える。

「何らかの、係わり?」

 パク・ソユンが、聞き返す。

「ああ……、先日、僕の、研究者の友人に……、ス・イジュンに、ソユンが現場でパクってきた水を調べてもらいに行くって、話をしてただろ? そこで、イジュンと話す中で、“ポリウォータ説”ってのが、出てきてね」

 と、ドン・ヨンファはそこまで答えると、

「ポリ、ウォータ――?」

 と、パク・ソユンが【ポリウォータ】とのワードに引っかかり、ふたたび聞き返した。

「ああ、重合した水……。簡単にいうと、“プラスチックのようになった水分子の集合体”――、ってところ、かな? もし、“そのような水”であれば、“水の匣”という形も実現可能だと思われるし……、分析しても、ただの水道水と変わらないような、成分分析結果が出るだろうからね」

 ドン・ヨンファは答える。

「はぁ、」

 パク・ソユンは、気の抜けた相づちをしながら、

「だからって、わざわざ、皆して……、ヒマなの?」

「まあ、ヒマなのは、否定できないな」

 と、カン・ロウンが答え、

「けっ、俺は、別に来たくなかったんだけどよぅ」

 と、キム・テヤンが舌打ちした。

「はぁ、」

 パク・ソユンは、相変わらずの、気の抜けた相づちをする。

 そうしつつも、

「まっ、いいや……。とりま、もうちょいで、私の番だから、さ? ここにいるなら、適当に、愉しんでてよ」

「ああ、お言葉に、甘えて」

 と、パク・ソユンとカン・ロウンは、そう言葉をかわした。

 なお、

「……」

 と、ドン・ヨンファは、チラリ……と、会場内を見渡した。

 まさに、水しぶきの舞い、水の滴るプール。

 そこから上のほうをフォーカスすること、壇上では、イケメン韓流DJのオイスターの姿があった。

 ノースリーブの、夏スタイルのモダンチャイナ服を身にまといながらも、麗しくも水を艶やかに滴らせ、クールかつセクシーにDJプレイをしていた。

「やっぱ、イケメンだよね? オイスター」

 ドン・ヨンファは、パク・ソユンにそう話しをふるも、

「ん? そう?」

「そう――? って、まあ、世間一般には、イケメンに見えるけど」

「はぁ、」

 と、気の抜けた返事しか、返ってこなかった。

 まあ、このパク・ソユン――、こちらも、誰もが美女だというであろう、DJ兼モデル美女であるものの、いわゆるイケメンというものには、まったく興味がなさそうではあった。

 まあ、グロ動画を永延と、表情を変えずに視聴するのが趣味であることから、そうした顔の良し悪しなど、どうでもよいのかもしれない。

 そうしている横から、


「ん……? アレ、は?」


 と、カン・ロウンが、“何か”に気がついたように、

 ――スッ……

 と、指をさした。

 その、軽く伸びた指のさす先――

 そこには、


 ――ゆ、らぁぁ……


 と、“水のディスプレイ”が、壇上背後の、空中でうごめいていた。

「ああ、“これ”?」

 パク・ソユンも、指をさしながら、

「なんか、新しい技術を用いた、ディスプレイというか映像アートらしいんだけど……、何でも、“自己組織化”、だっけ――? そんな感じで、小っちゃい球体ドローンが、水をくっつけて動くみたい」

「そこに、映像を投影しているって感じかい?」

「ぽよ」

 と、カン・ロウンに答える。

 なお、その小さいドローンとやらの周囲に、どんな素材や力を用いているのか――? パク・ソユンがいうように、水がくっついている形である。

 そして、その形というのは、球体であったりキューブ状であり、それらがドット絵のドットのように振舞っていた。

 こうしている間にも、

 ――ゆ、らぁ……、シャキンッ――!! シャ、キンッ――!!

 と、水のキューブでできたドットが動き、ディスプレイを曲に合わせて変化させる。

 それを見ながら、

「もしかして……? これに、その、友人の云う“アクア・キューブリック社”が、関わっているってことだな? ヨンファ」

 カン・ロウンが聞いた。

「う、ん……。イジュンの言うことが、うs――、間違って、なければ」

「アンタ、いま、嘘って言いかけたでしょ」

「うっ、う……」

 とここは、パク・ソユンがつっこみ、ドン・ヨンファはすこしたじろいだ。

 また、パク・ソユンが、 

「それで? アンタの友だちに調べてもらったら、この、“水のディスプレイ”っていうのかな――? の、ドローンってのが、何か、“水の匣”に関係ありそうって話になったわけ?」

「まあ、これを開発している企業の名前が、彼と話している中で出てきてね。さっきの、“ポリウォータ”ってのと、いっしょに」

「はぁ、」

 と、パク・ソユンが、相づちした。

 また続けて、

「それで? これは、どんな技術なわけ?」

 と、そのまま、パク・ソユンが質問する。

 ちなみに、話に入ってこないキム・テヤンであるが、

「……」

 と、無言ながら、「ちっ、」と、相変わらず舌打ちしてきそうな嫌そうな顔をしていたが。

 それはさておき、ドン・ヨンファが答える。

「う~ん……、何やら、資料を見るに……、球体ドローンに、その周りに、ゲル状の混和物なのかな……? ごく小さな、触手みたいなのが、ついているみたいでね……。それを、電波や電流でコントロールすることで、あんなふうに動かしているみたい」

「へぇ、」

 と、パク・ソユンが、軽くうなづいた。

 そのように話していると、


 ――スタ、スタ……


 と、タイムテーブルを確認しながら、ゴーグルサングラスのホン・ドヒョンとキム・ユナのふたりが、こちらへやってきた。

「おっ? そろそろ、かな」

 と、ホン・ドヒョンが、ゴーグルサングラスを眩しい太陽で光らせながら、腕時計を確認しながら言った。

「あ、あ?」

 パク・ソユンが、ゆるり……と反応する。

 また、そこへ、

「ソウちゃ~ん? 出番ですよぉ~?」

 などと、キム・ユナがすこしふざけた様子で、まるで、「ルビィちゃぁ~ん、何が好きぃ~」のところのように呼びかけたところ、


「はぁ~”~”い――!!」


 と、パク・ソユンが唐突に、低くも高くビブラートの聞いた声――、すなわち、かのミッキーマウスのような声でそれに答えてきた。

 そんなのを聞いたものだから、

「「「「――!?」」」」

 と、カン・ロウンをのぞいた四人が、

 ――ガ、クッ――!!

 と、マンガのように横転しにかかる。

「ん? どうした、ぽよ?」

 と、パク・ソユンがキョトンとするも、

「「「「どうしたぽよって、お前が急に、ミッキーみたいな声するからに決まってんだろう!! いい加減にしろ!!」」」」


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