2 フンフン・ディフェンス
(2)
――ピ、タッ――
と、バケツから襲いかからんとする水が、“時間停止魔法”をかけられたかのように、空中で完全に制止していた。
そして、
「「え――?」」
「「ど、ゆ――」」
「「――こと?」」
と、男女7人が、目を点にした。
とりあえず、自分たちは動けるらしい。
ゆえに、水だけが――、あるいは、自分たち以外が時間停止したような、この目を、もしくは、“この世界のバグ”を疑うような状況。
だが、そして、
「「ん――?」」
と、何人かが、
――ピ、タッ
と、空中で制止したままの水が、
――フッ
と、ようやく、停止魔法が解け、動き出しさんとしたのかと思いきや、次の瞬間である――!!
――シュバ!! シュバ、シュバッ――!!
と、グシャグシャに崩れようとしていたバケツの水が、そして、バケツがすくって崩した、落水・流水の水も、“それ”に加わりながら、大小の、小さいものはサイコロから、大きなものは、サッカーボールが“すっぽり”入るくらいのキューブ――、すなわち、立方体へと!! その姿を変える!!
そして、その、水のキューブ、“匣”の数や!! ゆうに百を超えんと分割する――!!
「なっ――!?」
「う、嘘ォォ!?」
「何だこりゃ!?」
「なっ、何なのこれ!?」
などと、驚くの声があがる。
続けて起こった、あまりにも、“超現実的”な状況――
「えっ? えっ――?」
と、水辺から離れた、まだ寝椅子のそばにいる持ち主の男と、
「何が、起きてるの?」
と、相方の女も、怪訝な顔をする。
これは、いったい何が起きているのか――?
何か、幻覚のようなものを見ているのだろうか?
あるいは、“何者か”が――、異能力者なのか? 魔法使いなのか? はたまた、邪神のような者による“力”なのか?
それとも、ここだけに起こった、それこそ、世界のバグなのだろうか――?
ふたりが、パニックになりながらも、そのように考えを巡らす。
だが、その間にも、状況は変わり続ける。
水の、キューブというか、匣が、
――ギュ、ォォン……
と、数百のドローンから織り成されるショーのように、それぞれが自律しながら、漂い、動きはじめた。
それらは、カオスのように蠢きながらも、何か、秩序だった陣形、配置をつくっているかのようにもみえる。
「おっ、おっ――?」
「え? 何? 何――!?」
「つ、次は、何が起きるってんだ――!?」
水辺のほうにいるメンツたちが、動揺しはじめる。
それらからは“悪意”というか、もしくは、何か“形状しがたい意志のようなもの”があるのを感じる――?
“それ”を、察して、
「うっ!? うわぁぁんッ!!」
「に、逃げたほうがいいのか? 逃げたほうがいいのか!?」
と、彼らはパニックにおちいる。
「お、おい!? な、何かの仕掛けでドッキリかい――!?」
ひとりが、寝椅子のほうにいた持ち主の男に向かって聞くも、
「い、いや!! こんなドッキリ、あるわけないだろ!!」
と、持ち主の男も、即否定する。
そうしながらも、キューブ、匣の集団たちは、
――シュ、シュバッ!! シュバッ!!
と動き、何か碁のような、三次元のボードゲームの盤面のように、七人を“詰めよう”としていようにみえる。
それは、何か人口知能だったり超知能のような、無機質無感情で、得体の知れない不気味さを感じる。
だが、これが映画や漫画であれば、おそらくは、『こちらに向けて襲いかからんとする』というが定石である。
ゆえに、
「な、何か、ヤバいんじゃないか!?」
「に、逃げろぉッ――!!」
と、それを察した何人かが、水辺から一目散に脱出しようとした!!
その瞬間、
――シュッ!! シュッ!! シュバッ!!
と、水のキューブは瞬間移動的に、その配置を変化させ、逃げようとする者たちの行く手を阻み、取り囲む!!
そして、
「うっ!? うわぁぁん!!」
「な、何ッ――!?」
と、仲間のうち2人が、水のキューブ群に捕まってしまう!!
そうして、
「セ、セリン!!」
女が、勇敢なことか!? 友人の名を叫んで手を伸ばそうとした!!
だがしかし、
――バ、ィィンッ!!
「きゃッ!? 何!? この、水!?」
と、あろうことか、水の匣の表面から――、すなわち、ただの水面から、まるで!! 弾力性を持ったグミのように弾かれてしまったのだ!!
さらには、水の匣につかまってしまった二人も、
『ぐ、ぐっ!!』
『ブクッ!! ブクッ!!』
と、貴重な空気の泡を吐きながらも、もがいて出ようとしていた。
二人は、泳げないわけではないはずだった。
だが、“匣”から出ることができず、
『ぐぅ”ぅ”!! ぐ、くる”しッ”……!!』
『お”ッ、溺”れッ、溺れ”る”っ!!』
と、もがき苦しみ、ただ溺れてゆく。
「「「――!?」」」
周りにいた三人は、驚愕しつつ、
「な、何だ、この箱は――?」
と、思わず言った。
そうしている間には、先ほどまでジタバタと藻掻いていた“匣”が、
――しーん……
と、静まりかえっていた。
『ぐぐっ……』
『……』
と、中のふたりも、意識が薄れゆく。
その感覚は、どこか、水と、“一体化される”ような感覚すらありながら――
それはさておき、水辺には、まだ三人残っていた。
助けようとしていた女のほうが、
「――あっ!? あぁ”ぁ”ーっ!!」
と、叫び声をあげた。
彼女も、水のキューブに襲われ、そのまま匣に閉じ込められてしまったのだ!!
「「ハ、ハイムッ――!!」」
と、男二人が、彼女の名を叫ぶ。
この短い時間に、三人が水のキューブに、“匣”に捕まってしまったのだ。
そんな、助けるべきか、逃げるべきかの状況。
だが、そう迷う間にも容赦なく、別の水のキューブ群がッ――!! こんどは男二人に襲いかかる!!
バケツ男のほうは、
「フンフンッ!! フンフンッ――!!」
と、高速でバケツを振って、抗おうとする!!
まるで、有名なバスケットボール漫画の!! フンフン・ディフェンスを彷彿とさせんほどの勢いで――!!
だが、水のキューブ群は前方から来るだけではない!!
360°の方向から!! バケツ男を囲むのであり、
「やっ!? やぁ”ぁ”ッー!!」
と、男は敗れ、水の匣に取りこまれてしまった。
それを見て、
「くっ――!? これは、逃げなければ!!」
と、まあ、もっと早く気がつくべきだったか――、残った一人の男がそう言って、水辺から離れようと切り返す!!
だが、水のキューブたちは人工知能を搭載したドローンのように!! なおかつ分裂したり融合したりしながら、男を追跡する!!
「フンッ!! ハ、ァッ――!!」
男は、気合をいれてフェイントをかけて、逃げようとする!!
それが、バスケットやサッカーであれば、そこそこは通じたのだろう。
だが、相手は、自律して動く水のキューブという、“超常的なナニカ”である。
むなしくも、男のフェイントは通じず、逆に、
――ギュ、イィィン!!!
と、まるで『バイ〇ハザード』映画で、特殊部隊員をサイコロステーキにしたレーザー警備システムのごとく――!! 広がりながら分裂し!! 面で襲いかかる!!
「だっ――!? ダメ、だぁっんッ――!!」
と、フェイントの男のほうも、ついにつかまってしまう!!
そうして、水辺にいた五人が、すべて水の匣に閉じ込められてしまい、犠牲となった。




