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【水の匣】※書き直し  作者: 石田善二郎
第一章 落水庭園

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1/12

1 お尻の、見える――




 この立場から水を眺めると、水(液体)の構造はけっして不変なものではなく、たえず生成消滅を繰り返している。その平均寿命はわずか10^-12秒程度の想像もつかないくらい短い時間である。このことを強調するために、特にダイナミック(動的)構造と呼ぶ。

 水という物質の個性は水分子の構造にある。水分子は四本の腕をもっていて、その端を結ぶとちょうど正四面体ができる。水分子はこの形に似せた結晶をつくる。すなわち、氷は正四面体の格子からできている。水でもごく狭い範囲をみると、分子の並びは氷と似た配列を持っている。



**『ブルーバックス 水とは何か ――ミクロに見たそのふるまい』(上平恒)より





          (1)




 夏の、夕暮れ――

 韓国は、ソウル市内のこと。

 まあ、ソウル市内とはいっても、山がちというか、山の多い街であり、近代都市の喧噪からすこし外れるようにして、そのような山すそには別荘地があった。

 その中の、とある別荘でのことである。

 近代的なデザインの屋敷と連なる形で、水の、清らかに流れ落ちる、庭園とでもいうべき空間。

 まるで、建築の教科書に出てくる、フランク・ロイド・ライトの建築、『落水荘』にも通ずるところのある、幾重から長方形コンクリート床を組み合わせた、水の、流れ落ちる空間が設けられていた。

 そんな落水と流水のそばで、この別荘を訪れた2・30代前後の7人の男女のグループが、夕暮れのひとときを、涼みながら愉しんでいた。

 男のほうも、女のほうも、モデルやアイドルというか、美容整形顔のように整った顔立ち。

 なお、夏の軽やかなファッションながらも、それらはハイブランドであったり、また、同じくブランドものバッグだったりサンダルだったりと、少々お金を持ってそうな雰囲気のある若者たちだった。

 まあ、こんな別荘に来ていることから、お金持ちか、あるいは“お金を持っている風のビジネス”をしている人間かと思われる。

 とりあえず、いったん、彼らの素性や生業についてはさておいて、

「ほんと、いつも思うけど、なかなかに、いい場所だよな」

 男のひとりが、そう言って、

「何か、この雰囲気、どこかで見たことあるような?」

 と、女が言った。 

 それを聞いて、キザなお坊ちゃま風の、別荘の持ち主の男が、

「ああ、フランク・ロイド・ライトの、『落水荘』を参考に、デザインさせたんだ」

 と、ドヤ顔で答えながら、スマホの画面を見せる。

 そこに映るのは、その、『落水荘』の画像の数々。

 山間の緑の中、薄べったい直方体をずらしながら重ねたような建築物のすそを、ゆるやかな渓流のように水が流れる。

 近代建築ながら、自然と調和するのを計算されつくした傑作であろう。

「有名な、アメリカの建築家さ。建築の勉強をしている人間なら、誰もが、知ってるんじないかな」

 持ち主の男が、そう捕捉する。

 そのように、フランク・ロイド・ライト建築に倣ってデザインされた、コンクリートの、長方形の薄い板というか箱というかを、少しづつズラしながら重ねたような空中床。

 そんな中を、まるで布のように流れ落ちる、流水の美。

 中心には緑があり、なおかつ、ワンポイントのように、まだ大きくはないものの松が植えられているという。

 さながら、現代アート作品のような庭園とでもいうべきか――

 なおかつ、プールのように緩やかな流水の流れるそばには、手すりのない、単純な階段が設けられていた。

「おっ? ちょこんと、階段があるね」

 すこしスケベそうな男のひとりが、気がついて言った。

「ああ♪ そこは、エロく、足の見えるのがポイントだな♪」

 持ち主のキザ男が答える。

「お尻の、見える――」

 と、添えながら。

 すると、

「おい! ヨナ! ちょっと、その階段、歩いて見てくれよ!」

 と、スケベ男が、ドボン――! と、プールに入りながら指さした。

「は――?」

 ヨナと呼ばれた女が、大きな声で、「は?」の顔で反応する。

 確かに、ミニスカートをはいたセクシーな女であり、スケベ男としては納得なところだろう。

 すると、

「おっ? いいぜ♪ 俺が、歩いてってやんよ!」

 とここで、すこしぽっちゃりとしたサングラス男が、グイッと短パンをハイレグのように上げながら、階段を、ブルブル――! と、足と尻を揺らしながら歩いて見せる。

「うっげッ!? 誰も、お前のなんか見たくないっての!!」

「ハハハ!」

「やだぁ!」

「ああ、もう! きったねぇ!」

 と、つっこむ声と、面白がって笑う声が飛び交いながらも、

「おいおい! 何で、そんな、リオのカーニバルばりに揺れてんだよ!」

 と、皆の言葉に、男は余計に激しく足と知りをゆらしてみせる。

 そうしているうちに、テンションがあがると水辺に入りたくなるのは、道頓堀も、朝のラスベガス警察24時も共通なのだろう。

 ましてや、涼しくなってきたとはいえ、まだ暑さの残る夏の夕暮れである。

 その水辺が、清涼な流水と来れば、誰しもが入りたくなるのも無理はない。

 ひとりが、


 ――ザッ、パンッ――!!


 と、流水の滝に入りて、

「おいッ!!」

 と、女性陣に向かって、

 ――バ、シャッ――!! バ、シャッ――!!

 と、水しぶきを飛ばし、イタズラしてみせる。

「きゃっ!!」

 思わず腕で防ぐ女と、

「ちょっと!!」

 と、また別の女が、男の水しぶき攻撃に応戦するように水辺のほうへ接近し、

 ――バシャッ!!

 と、やり返しにかかる。

 水辺を前に、はしゃぐ彼らの姿を見て、

「ハハッ!」

「おっ、いいねぇ♪ 俺も、入ろっかな?」

 と、他の者たちも、水辺にちかづく。

 そんな、彼らの姿を眺めながら、

「ハハッ、あいつら、」

「フフ……♪」

 と、別荘の持ち主の男と、相方の女が、プールサイドによるあるラグジュアリーな寝椅子にもたれていた。

 また、男の手元のロー・テーブルには、ノートパソコンがあった。

 片手で操作する、パソコンの画面――

 そこには仮想通過だったり、何かの株取引だったりと思しきウインドウが開いていた。

 まあ、この男も、“そうしたこと”を生業にしているのか、あるいは、そもそもお金があって、片手間にしているのだろう。

 それは定かでないが、さておいて、

「ねぇ? いつ、ディナーにする?」

 と、寝椅子に腰かけた女が、見おろす形で聞いてきた。

「そう、だなぁ……?」

 男は、顔を上げながら、

「これから、もうすこし、日が落ちたらかなぁ?」

「そしたら、そろそろ、何頼むか決めたほうがいいんじゃない?」

「ああ、そっかぁ」

 と、相づちした。

 ディナーは、BBQをしたり、自分たちでつくったりするわけではなく、デリバリーを呼ぶつもりでいた。 

「まあ、とりあえず、酒だけは、いろいろ用意してるからなぁ」

「お酒は、何があるの? チャミスルはシャーベット酒、飲みたい」

「ああ、キンキンに冷やしているぜ♪」

 と、ふたりは、まずお酒を思い浮かべた。

 なお、シャーベット酒とは、焼酎だったりビールだったり、酒を過冷却することによって、グラスに注いだ際に、シャリシャリとシャーベット状になる酒である。

 暑い夏には、とくに人気である。

「この、スイカのシャーベット酒、飲んでみたい」

「おおっ、いいねぇ」

 ふたりは、スマホを見る。

 確かに、赤と緑の、スイカを思わせるシャーベット状のカクテル。

 なお、種は、チョコの欠片を用いているのだろう。

 その、お洒落な見た目と、すこし甘酸っぱいスイカのフレーバーの冷たいシャーベットを想像するに、“飲みたい欲”が、かきたてられる。

 まあ、飲み物については、心配する必要がないので、

「ねぇ? それで、何頼む?」

「そう、だなぁ?」

 と、ふたりは本題の、料理をどうするかについて考える。

「まあ、つまみながら食べれるものが、いいかなぁ?」

「ピ、ザ? とか?」

 女が、ピザを思いつく。

「おっ? ピザ、いいかなぁ?」

「あとは、まあピザだけじゃ物足りないし、オードブルとか」

 と、その埋め合わせは、適当にパーティとかのオードブルを考える。

 それであれば、韓国風、洋風にと、いろどりを持たせることもできるだろう。

 まあ、どちらにしろ、屋外で酒を片手につまめて、なおかつ、傷みにくいものがいいだろう。

 そんな中、女が、

「肉寿司――、何か、これとか、映えそうなんだけど」

 と、スマホを見せた。

 いわゆる、“高級そうで、何か見た目の映える料理”を扱っている店のようであったが、

「やめとき、やめとき」

 と、男が、制止した。

「え――? なん、で?」

「映えそうなヤツって、たいてい、実物を見ると、がっかりするってこと、あるじゃん?」

「ああ、あるわねぇ。届いて見たら、ショボかった、って」

 ふたりは、SNSとかで、『デリバリー頼んだら、画像と違ってガッカリした』との投稿が、たまに流れてくるのを思い出した。

「まあ、店に食べにいくならまだしも、デリバリーだと、特にね」

 男が、そう捕捉する。

 そうして、ふたりは、とりあえずピザと、各種オードブルを適当に注文することにした。


 日が、さらに沈む。

 落水の庭園に、射しこむ茜色と、そのシルエットの黒。

 その、陰と陽の対比が、何とも美しかった。

「わ、ぁぁ……」

「綺麗……」

「おおっ……! こいつは、いいなぁ……」

 と、水辺のほうで戯れていたメンツたちも、その手を止めた。

 そこへ、

「――だろ?」

 寝椅子から起きあがった持ち主の男が、すこしドヤ顔して、

「この庭園は、朝夕が、一番美しいんだ」

 と、言った。

 そうして、思い浮かべる。

 朝に飲む、コーヒーや、茶――

 夕暮れには、軽く、アルコールを一杯やりながら愉しむ、流水と落水の美と、その調べ――

 何とも、豪華なひとときだろう。

 持ち主の男は、

「ふぅ……」

 と、夕暮れの闇に沈む落水庭園と、そこにいる仲間たちを眺める。

 眺めつつ、ディナーに、そのあとの“夜の愉しみ”に――、と思いをめぐらせる。 

 まあ、こうして男女が集まっているわけであるし、充分に部屋はあることから、“何を”か――? は、想像できるかもしれないが。

 そうして、

「……」

 男が、ぼーっ……と、眺めているときだった。

 先ほど水辺に入った男が、何を思ったのか、バケツか何かを持ってきており、“やる気”満々で、それを肩慣らししてみせる。

 彼は、それで、“大暴れ”するつもりのようで、

「ちょっ、ちょっと!!」 

「おいおい!!」

「濡れちゃうじゃない!!」

 などと、水辺の近くにいたメンツたちはあわてる。

 だが、すでに男は水を滴りながら、

「それっ!!」

 と、おおきく振りかぶって!! 水を、バッシャー!! とやろうとした――否、実際に“やった”。

 しかし、その時――、



 ――ピ



 ――タッ……



「「「――えっ?」」」

「「お――?」」

「「――い?」」

 と、“制止したように”、一瞬――

 それはまるで、皆が、“時間停止・魔法”にでもかかったようだった。

 すなわち――

 あろうことか――? 水が空中で、


 ――ピタ、リ……


 と、崩れたの形のままで、完全に“制止”したのだ。



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