16 だいたい、借りパクするヤツは、そう言う
続けて、
「“ふつうの水”があんな、何も無いのに、きれいに、匣の形になるものなの?」
キム・ユナが、パク・ソユンに聞く。
「まあ、私たちも、さ? 思った、ぽよ。だけど、刑事たちも、“普通の水”――、だって……」
と、パク・ソユンは答えながら、
「まあ、いちお、現場で“ちゅー”ってしちゃった水を……、いま、調べてもらっているんだけど」
「何? その、“ちゅー”って、しちゃったって?」
と、顔をしかめるキム・ユナに、
「ああ、浣t――、注射器、ね。あの、コスプレか、マニアックなプレイで使う注射器で、“ちゅー”って」
と、パク・ソユンは答えながら、“それ”を使うジェスチャーをしてみせた。
「アンタ、いま、カンチョーって言いかけたでしょ?」
「おい、それって、現場から……、証拠物件から、パクったってことじゃないか? ソウ」
と、パク・ソユンは、ふたりにつっこまれながら、
「は――? パクったって、人聞き悪い、ぽよ。ちょっと、“拝借”しただけ、ぽよ」
「いや、“拝借”って、どうやって返すわけよ」
「“拝借”って、だいたい、借りパクするヤツは、そう言うんだよ」
「はぁ、」
と、相づちしながらも、
「まあ、いいじゃん。ちょっと、サンプル程度の量だし。それに、それで、何かが分かればいいじゃん」
と、すこし鬱陶しそうな様子で答えた。
答えながら、こんどはパク・ソユンが逆に、
「てか? アンタたち、いろいろ聞いてくるけど、さ? 協力してくれるわけ? この調査に」
「い、いや、それは、」
と、急にそう言われて、困惑して見せるホン・ドヒョンと、
「いや、それはしないけど」
と、きっぱりと、キム・ユナ。
また、ホン・ドヒョンが尋ねる。
「とはいえ、先日は、ウチらの国であったけど……、その前は、ここ中国の重慶だったり、日本の、黒部峡谷だったかい? あの、トロッコ列車の、」
「うん。黒部峡谷、いいよね」
と、パク・ソユンが相づちしながらも、
「まあ、そんな感じで……、けっこう、犯行場所というか、水の匣が出現した場所ってのは、バラバラだよな?」
「うん。場所もタイミングも、けっこう、ランダムなのよ」
と、ホン・ドヒョンの言葉に、「そのとおりだ」と、うなづいた。
また、
「もし、これに、“犯人”がいるのだとすれば……、単独犯なら、どうやって、やったんだろね?」
と、ホン・ドヒョンと、
「まあ、そもそもの……、どうやって、この“水の匣”を実現できて、なおかつ、被害者を――、しかも、先日の件では、七人もの被害者を、出したんだろうかしら?」
と、キム・ユナのふたりが、単純に、その疑問を言葉にしてみた。
「まさに、マンガのような世界っていうのを、信じたくなるよ」
ホン・ドヒョンが、そのように言うと、
「はぁ、マンガのような世界って、ねぇ……」
と、パク・ソユンが、「そんな、バカな」のような顔して言うも、
「いや、現に、“アンタたちみたいな”のがいるわけだし」
と、キム・ユナから、「お前がそんな顔をするな」との言葉が飛んでくる。
また、
「ちなみに……、まさか? “起きない”よな?」
「“起きない”よな――、って?」
と、ふと聞いてきたゴーグルサングラスに、パク・ソユンが怪訝な顔をして聞きかえすと、
「その……、まさかの、“水の匣事件”が……、俺たちが、こっちに、滞在している間に」
「そうよ。それも、うちらか、近しい身の人間に対して」
と、ふたりから、まるで“行く先々で殺人事件が起きてしまうコナン君や金田一少年でも見るかのような目”を向けられる。
「はぁ、」
と、パク・ソユンは、気の抜けた相づちをしつつ、
「まあ、大丈夫でしょ? 私に、限って」
「「いや、“アンタだから”、なんだよ」」
なとど、フラグを立てるように言うパク・ソユンに、ふたりしてつっこんだ。
「はぁ、」
パク・ソユンが、ふたたび、やれやれと気の抜けた声を出す。
まあ、お前が「はぁ、」と言うな、というところだが。
そこへ、
「――あっ、ソー、ウー」
と、DJネームで呼んでくる声がした。
「ん――?」
「おっ?」
と、キム・ユナとゴーグルサングラスが、まず先に反応し、
「ん、あ――?」
と、声をかけられた当の本人、DJ・SAWことパク・ソユンだが、彼女がいちばん遅れて、ゆっくりと振り向いた。
そこには、
――チョキン、チョキン……
と、指でカニのハサミの形をつくる女――、DJ仲間の、DJアクティブクラブの姿があった。
「あっ、カニが来た」
パク・ソユンが、上海ガニを食いつつ、そのDJアクティブクラブを指さして、
「おお、カニ喰ってるとこに、」
と、ゴーグルサングラスが、こちらはムール貝を食いながら呼応した。
「いま、アナタの前で、カニ喰ってるんだけど、さ? いま、どんな気分?」
パク・ソユンが、表情を変えず尋ねる。
「いや、どんな質問なの……」
ちょっとサイコ感のある雰囲気のパク・ソユンに、アクティブクラブが困惑する。
そうしながらも、このアクティブクラブも、すこし酒の席に加わって、
「そう言えば? 最近は、どんなグロ動画をみているの? ソウ?」
「はぁ、そんな、カジュアルに聞いてくる?」
と、最近ハマっているスイーツのように聞いてくるアクティブクラブに、パク・ソユンが言うと、
「「いや、そんな動画をカジュアルに見てんのが、アンタでしょ」」
と、ゴーグルサングラスとキム・ユナのコンビに、つっこまれる。
まあ、カジュアルに見ているかどうかはさておき、グロ動画を観ているのは普段どおりであり、
「まあ、そうね……?」
と、パク・ソユンは、思い出すような仕草をしながらスマホをテーブルに出して、
「最近は、何か……、この水の匣事件と、たまたま、かもしんないけど……、水系というか、溺死系の動画を」
と、『溺死系』との、すこし不謹慎というか物騒なワードが出てきて、
「は、」
「あ……」
と、ホン・ドヒョンとキム・ユナが順に、ポカンとしつつ、
「溺死、系て……」
と、アクティブクラブも、軽く引いていた。
「何か、海底油田の、メンテナンス作業中に、パイプに吸い込まれた事故とか……、それから、水中洞窟の探検中、途中でつっかえて出れなくなっちゃって、そのまま、ボンベの酸素が切れて、溺死した事故とか」
パク・ソユンが淡々と言いながら、画面を見せる。
「う、わ……」
キム・ユナが、顔を歪め、
「溺死もアレだけど、閉所恐怖症には、地獄だな」
と、ゴーグルサングラスで分かりにくいものの、ホン・ドヒョンも、その表情を変える、
「うん。グロくはないかもしんないけど……、考えるだけで、ちょっと、アレよね」
と、パク・ソユン。
こちらはふたりと対照的に、いっさい、表情を変えないという。
「てか……、そんなのを、日常的に、淡々と観てるのね?」
アクティブクラブも、軽く引きながら聞くと、
「ぽよ」
「いや、『ぽよ』って、何? 『はい』か、『いいえ』か、どっちなの?」
と、案の定、ここで『ぽよ』に困惑する。
「「ああ……、こいつ、その日、ときどきで、語尾に『ぽよ』が着くようになっちゃったみたいで」」
「は、ぁ、」
声をそろえた説明したホン・ドヒョンとキム・ユナに、アクティブクラブが相づちしつつ、
「ぽよ」
と、当の『ぽよ』の本人は、のほほんとしていた。




