12 こんな、水のように清純な、“クラリティ”な俺が
また、ドン・ヨンファが質問をする。
「それが、“何らか適当な物質”があることによって……、もしかすると、“ポリウォータのような構造”を保持し続けることが可能になる――、ってことかい?」
「あ、あ……」
と、ス・イジュンが、うなづく。
ひと呼吸、間を置いて、
「“それ”を……、調べてくれないか? イジュン」
と、ドン・ヨンファが、改めての頼んだ。
「ああ……、そいつは、もちろんだ」
ス・イジュンは、心配するなと答えながら、
「まあ、ただ……、本当のところは、さっきヨンファが言ったように、“それくらいの機能が発現する”のであれば……、だいたいの場合は、何らか疑わしき不純物というのが、検出されると思うんだがね――」
「やっぱ、そうだよね」
と、ドン・ヨンファが相づちする。
まあ、素人考えでも、想像はできる。
例えば、毒を水に混入する場合のこと――、毒として“機能する”には、当然、その毒の成分というのは、古いやり方にしろ、近代的な科学分析法にしろ、“検出される”ものだ。
まあ、時間によって分解だったり、揮発したりするものでなければだが……
そう考えるに、“入れ物”なしに水の匣の“形を保持する”ということだけを考えても、何か、“それ”を為すための成分というのが入っていれば、それは検出されるのに充分な量が入っているのではないのか――? と、思うところだ。
それは置いておき、話を先にすすめて、
「あと、は……、“エネルギー”を、どうするのか――? って、謎というか、問題が残るな」
と、ス・イジュンが言った。
「エネル、ギー?」
ドン・ヨンファが、聞き返す。
「ああ……。この世の中、世界ってのは、“何をする”にも、エネルギーはいるからな。この、立方体にしろ直方体にしろ、その、匣という形を保つことと……、おそらく、何らかのかたちで、水の匣が、被害者たちを“襲撃する”のであれば……」
「……」
「それには、“相応のエネルギー”というのが必要になるだろう」
と、ス・イジュンが答える。
さらに続けて、
「そして、そのエネルギーというのが、どのように供給されているか――?」
「……」
と、ドン・ヨンファが沈黙しながらも、その表所は、「う、ぐっ……」と、声を漏らしたいものだった。
何か電線があるわけじゃあるまいに、ただの、“水だけで出来た匣”にエネルギーの供給を行う、とは――?
いったい? どんなふうにして――? なのか、皆目、見当がつかなかった。
「まあ、どう例えればいいのかな……?」
ス・イジュンが、また天井を仰ぎながら、
「“暗黒物質”とかいう言葉があるように……、もしかすると、我々とは、裏の世界の法則というべきかな――? 何か、我々の如何なる科学分析からも“観測されない――、つまり、“見えない法則による力”というのが、この、“水の匣の水”において働いている――、とかかな?」
「は、ぁ、」
と、突拍子もない話に、ドン・ヨンファが何とも言えない相づちをし、
「は、ぁ――って、むしろ、君たちにとっては、“異能力”ってのは身近なんだろ?」
「ま、まあ、」
「そんな君たちにとっては、暗黒物質のように“見えないエネルギー”ってのも、僕よりは、具体的に想像しやすいとは思うんだが?」
と、ス・イジュンに、そう言われて、
「ま、あ……」
と、ドン・ヨンファは、それ以上言葉を返せなかった。
そのように、暗黒物質のように“見えない法則の働く力”というのを、いったん仮説としつつ、
「それで……、その、“見えない法則の力”が、何らかの形で水の匣に働いているとして……、“そのようなこと”を実現できそうな者というのは――、何か、怪しい者っていうのは……、イジュン? 君的に、心当たりは、ないかい?」
と、ドン・ヨンファが話を頭で整理しつつ、すこし恐る恐ると、慎重そうに、ス・イジュンに聞いてみた。
「う~ん……? そんな、いるかなぁ……? “そんなこと”ができる、個人や、組織というのは?」
と、ス・イジュンも考えるも、パッとは思い浮かばない。
すると、ここで、ドン・ヨンファは、ふと無意識的に、“ナニカ”が浮かんだのだろうか、
「それ、とも――」
「う、ん……?」
と、ス・イジュンが、その言葉を待つ。
そして、
「――まあ、ベタっちゃ、“ベタなパターン”かもしれないんだけど……、水の科学者である君が、この、水の匣に関わってたりなんか……、しないよね?」
と、ドン・ヨンファは、そう質問してみた。
それを聞いて、
「……」
と、ス・イジュンは無言で、意味深に、何か考えるしぐさをしながら、
「ああ……、まあ、ベタ、だよねぇ……。実は、最初のほうに出てた人物ってのが、黒幕でした――、とか? そういうこと、だよね?」
「ま、まあ……、そういうこと」
と、ドン・ヨンファは、すこし恐る恐るうなづいた。
まあ、冗談半分に聞いた程度の質問である。
ただ、このス・イジュンは水の研究者であり、いちおう、“水の匣”という謎をつくることが出来る得る人間であるが……
「俺が、犯人、黒幕って可能性かぁ……? いやいや、まさかぁ……、こんな、水のように清純な、“クラリティ”な俺が」
ス・イジュンが、「勘弁してくれよ」と言いながら、バーコードヘアを流れる水のように流してみせる。
「クラリティって、」
ドン・ヨンファが、クラリティとの言葉に反応する。
清純と、クラリティ、英語に言い換えただけである。
まあ、『水のように、清浄で、澄んだ』などと、言いたいのだろう。
そのクラリティなス・イジュンが、バーコード・ヘアを指で挟んでかっこうをつけながら、
「ネトゲでのハンドルネームは、クラリティ・イジュンだったんだぜ」
「何だ、そりゃ? てか、君のオッサンみたいな見た目には、クラリティって単語が似合わないぜ」
「おいおい、差別かよ? ヨンファ? バーコード・ヘアには、清純って言葉が合わないのかよ」
「いや、それは、別に言ってないだろ」
と、自虐する友人に、ドン・ヨンファが言った。
そのように話しながらも、
「それで、肝心の問いは……、俺をふくめて、この“水の匣の水”ってのを、実現できそうな個人や組織に関して、心当たりがあるか――? って、ことだったよな」
と、ス・イジュンが改めて、先のドン・ヨンファが尋ねたことを確認する。
「あ、ああ……」
ドン・ヨンファは、「そうだ」とうなづく。
まあ、冗談まじりの形とはいえ、いちおう友人に、犯人としてのフラグを立ててしまったことに、すこしの申し訳なさを感じながら。
「う~ん……? “そんなこと”ができそうな水を研究している個人や、組織って……、あった、かなぁ……?」
ス・イジュンが唸りながら、思い浮かべようとする。
「イジュンでも、心当たりが無さそうなのかい?」
ドン・ヨンファが、半ば「ダメそうかな……」と、恐る恐る聞く。
すると、
「あっ、」
と、ス・イジュンは、何かに気がついたように、ピタッ――となった。
「う、ん――?」
ドン・ヨンファが、反応すると、
「一社、あった――」




