第五章:帝国動乱編 第38話 臨界 ― 水位が越える線
限界は、
音を立てない。
誰かが
越えた瞬間に
崩れるのではなく、
誰もが
「もう戻れない」と
悟った時に
現れる。
線を引いた者は、
それが
守るためのものだと
信じていた。
だが、
守られる側は、
その線を
牢と呼び始める。
帝都。
朝。
空気が、
重い。
街は
動いている。
だが、
人々の足取りは
揃って
遅い。
***
評議院前。
沈黙の列は、
昨日より
長い。
人数ではない。
距離が、
伸びている。
建物の正面から、
広場を越え、
通りの先まで。
***
守備兵が、
配置に就く。
盾は、
構えていない。
剣も、
抜かれていない。
だが、
緊張は
隠せない。
***
守備隊長
「……命令は……?」
伝令
「……待機……
のみ……。」
その言葉に、
誰も
安堵しない。
***
討議所。
人は、
少ない。
だが、
外に
立っている。
討議所という
場所ではなく、
評議院という
象徴に、
人が
向かっている。
***
地方からも、
人が
来ている。
荷を
背負ったまま、
黙って
立つ。
誰も、
代表を
名乗らない。
***
正午。
評議院内。
第一評議員が、
窓の外を
見る。
第一評議員
「……増えて……
いる……。」
反王派
「……違法では……
ない……。」
改革派
「……だが……
無視も……
できない……。」
***
文官が、
駆け込む。
文官
「……地方……
役所が……
業務……
停止……
状態です……。」
第一評議員
「……なぜ……?」
文官
「……窓口に……
人が……
立ち……
続けて……
いて……。」
誰も、
声を
上げていない。
だが、
通常業務が
できない。
***
皇城。
アリアは、
報告を
聞いていた。
エリオン
「……臨界だ……。」
アリア
「……うん……。」
アリア
「……線を……
越えた……。」
エリオン
「王が……
出る……
べき……
では……?」
アリア
「……まだ……。」
アリア
「……今……
出たら……
“鎮めた”……
ことに……
なる……。」
***
評議院。
反王派の一人が、
声を
荒げる。
反王派
「……排除……
すべきだ……!」
改革派
「……理由が……
ない……!」
反王派
「……秩序が……
崩れる……!」
改革派
「……秩序は……
もう……
揺れて……
いる……!」
言葉が、
衝突する。
***
その時。
外で、
一人の
老人が、
ゆっくり
地面に
座る。
誰も、
止めない。
次に、
一人。
また、
一人。
沈黙の列が、
座り始める。
***
座り込み。
違法ではない。
だが、
動線が
塞がれる。
評議院への
出入りが、
困難になる。
***
守備隊長
「……どう……
します……?」
返答は、
ない。
命令が、
出ない。
***
評議院内。
第一評議員の
額に、
汗が
滲む。
第一評議員
「……これは……
誰の……
責任だ……?」
誰も、
答えない。
***
アリアは、
遠くから
その光景を
見ている。
アリア
「……越えた……
のは……
人々……
じゃ……
ない……。」
アリア
「……線を……
引き……
直した……
側……。」
***
夕方。
評議院前。
人々は、
立たない。
座っている。
沈黙のまま。
だが、
その存在は、
重い。
***
夜。
帝都中の
話題は、
一つになる。
「いつまで
座るのか。」
「誰が
動かすのか。」
***
第一評議員は、
椅子に
深く
沈み込む。
第一評議員
「……線を……
引いた……
つもり……
だった……。」
だが、
その線は、
人の上に
引かれていた。
アリアは、
静かに
目を閉じる。
アリア
「……臨界……
は……
破壊……
じゃ……
ない……。」
アリア
「……選択を……
迫る……
状態……。」
風が、
止む。
それは、
嵐の前の
静けさだった。
この臨界状態で、
ついに
「誰が決めるのか」が
真正面から問われます。




