第五章:帝国動乱編 第34話 露呈 ― 壁の内側から
壁は、
外から崩されるより、
内側から
晒されることを
最も恐れる。
それは、
破壊ではない。
「見えてしまう」
という、
回復不能の
変化だった。
評議院。
夜明け前。
文書局の灯りが、
一つだけ
残っていた。
若い文官が、
机に
向かっている。
目の前には、
三つの束。
・公開討議所意見書
・資格要件適合意見
・除外対象とされた文書
***
文官
「……同じ……
内容……。」
紙を
並べ替える。
語尾。
言い回し。
体験の描写。
出所は、
違う。
だが、
現実は
一つだ。
***
文官は、
深く
息を吸う。
そして、
一枚の紙を
抜き出す。
上申書。
宛先は、
第一評議員ではない。
監査局。
***
翌日。
評議院・午前会合。
反王派の貴族が、
穏やかな声で
言う。
反王派
「……最近……
文書局が……
騒がしい……。」
文官長
「……通常……
業務……
です……。」
だが、
視線は
揃わない。
***
その時。
扉が、
静かに
開く。
監査官。
記章を
胸に
付けている。
監査官
「……監査局より……
来ました……。」
空気が、
変わる。
***
監査官
「……内部……
通報……
が……
ありまして……。」
反王派
「……内容は……?」
監査官
「……意見書……
の……
扱い……
について……。」
沈黙。
その沈黙は、
重い。
***
別室。
資料が、
並べられる。
除外基準。
適合基準。
実際の文書。
監査官
「……基準は……
守られて……
います……。」
反王派
「……当然だ……。」
監査官
「……ただし……。」
監査官
「……同一内容が……
異なる……
扱いを……
受けています……。」
***
反王派
「……専門家の……
裁量……
だ……。」
監査官
「……裁量の……
範囲を……
超えています……。」
紙が、
机に
叩かれる。
***
監査官
「……現場の……
声が……
“資格”を……
得た……
途端……
通り……。」
監査官
「……同じ……
声が……
直接……
出た……
場合……
弾かれる……。」
監査官
「……説明……
できますか……?」
説明は、
ない。
***
評議院内に、
噂が
広がる。
「内部通報。」
「監査。」
「基準の恣意運用。」
壁の内側が、
見え始める。
***
討議所。
その話は、
すぐに
届いた。
商人
「……中で……
割れた……?」
記録係
「……らしい……。」
人々は、
声を
荒げない。
だが、
表情が
変わる。
***
皇城。
アリアは、
短い報告を
受け取る。
エリオン
「……監査局が……
動いた……。」
アリア
「……内側……
から……。」
エリオン
「意図……
した……?」
アリア
「……いいえ……。」
アリア
「……でも……
起きる……
場所まで……
待った……。」
***
評議院・夕刻。
反王派の一人が、
低く言う。
反王派
「……壁が……
疑われて……
いる……。」
別の者
「……壊されて……
いない……
のが……
救い……
だ……。」
反王派
「……いや……。」
反王派
「……壊される……
より……
悪い……。」
***
夜。
文書局。
若い文官は、
机を
片付ける。
恐怖は、
ある。
だが、
後悔は、
ない。
文官
「……壁は……
守る……
もの……
だった……。」
文官
「……隠す……
もの……
じゃ……
なかった……。」
***
帝都の灯り。
変わらない
ように
見える。
だが、
人々は
知ってしまった。
制度は、
完全ではない。
そして、
完全でないものは、
問いに
晒される。
アリアは、
遠く
評議院の屋根を
見つめる。
アリア
「……露呈……
した……。」
それは、
崩壊ではない。
だが、
後戻りできない
段階だった。
露呈した壁を
どう扱うかを巡り、
帝国の上層が
真正面から
衝突します。




