第五章:帝国動乱編 第26話 圧力 ― 静かな締め付け
力で潰すより、
息をしにくくする方が、
痕跡は残らない。
声を奪えないなら、
声が届く距離を
短くすればいい。
それは、
誰も手を汚さずに
相手を追い詰める、
古くて新しいやり方だった。
帝都。
公開討議所は、
表向きは
何も変わらない。
閉鎖もされず、
規制も強化されていない。
だが、
細部が
少しずつ変わり始めていた。
***
討議所・朝。
入口の掲示。
『本日の開場時間:
正午より』
以前は、
朝から開いていた。
理由は、
書かれていない。
***
昼。
人が集まる。
だが、
記録係が
足りない。
運営責任者
「……予算の……
都合で……
本日は……
一名……
欠員です……。」
誰も、
反論しない。
だが、
記録の密度は、
確実に落ちる。
***
別の日。
討議所で
よく発言していた
職人が、
姿を見せない。
後で分かる。
工房への
検査が
急に入った。
違反は、
ない。
だが、
時間は
奪われる。
***
別の都市。
同様の討議所。
会場使用の
申請が、
差し戻される。
理由は、
「書類不備」。
修正して出すと、
別の箇所が
指摘される。
***
エリオン
「……締め付け……
だな。」
アリア
「……うん。」
アリア
「……違法じゃ……
ない……。」
エリオン
「だから……
抗議しにくい。」
***
評議院。
反王派の貴族が、
淡々と報告する。
反王派
「……特別な……
措置は……
取っていない……。」
反王派
「通常の……
行政運用……
です。」
第一評議員
「……問題は……
ないな。」
誰も、
嘘は
ついていない。
***
討議所。
人は、
少しずつ
減っていく。
来たい者は、
いる。
だが、
来られない。
時間。
手続き。
疲労。
それらが、
壁になる。
***
ある夕方。
老女が、
運営責任者に
小さく言う。
老女
「……今日は……
人が……
少ないね……。」
運営責任者
「……はい……。」
老女
「……怒鳴る……
人も……
いない……。」
それは、
安心ではなかった。
***
夜。
アリアは、
報告書を
眺めていた。
出席者数。
発言回数。
滞在時間。
すべてが、
緩やかに
下がっている。
エリオン
「……効いてる。」
アリア
「……声を……
奪わずに……
減らしてる……。」
アリア
「……上手い……。」
***
その時。
一通の
内部連絡が届く。
『王の公務日程、
再調整の要あり。
警備上の理由。』
エリオン
「……王にも……
来たか。」
アリア
「……討議所……
だけじゃ……
ない……。」
王の移動。
視察。
非公式訪問。
すべてが、
慎重に、
遅くなる。
***
夜。
アリアは、
皇城の回廊を
歩く。
足音が、
やけに
大きく響く。
人は、
減っていない。
だが、
距離が
遠くなっている。
***
エリオン
「……反撃するか。」
アリア
「……まだ。」
アリア
「……これは……
圧力……
だけ。」
アリア
「……“息苦しい”……
だけで……
壊れて……
いない。」
エリオン
「耐えれば……
枯れる。」
アリア
「……耐える……
だけじゃ……
だめ。」
アリア
「……でも……
叩けば……
相手の……
望み……。」
***
窓の外。
帝都の灯りが、
以前より
遠く感じる。
消えてはいない。
だが、
王と民の間に、
薄い膜が
張られ始めていた。
アリアは、
その夜風の中で
静かに呟く。
アリア
「……締め付け……
は……
いつか……
限界を……
作る……。」
それが、
誰の限界になるのか。
それは、
まだ分からない。
この圧力の中で、
思わぬところから
“反発”が生まれます。




