表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第4章 新事業と枢機卿
99/258

第89話 存在価値

レオンはセリオスの前で足を止めた

出発の時間は近い

聖騎士達も既に準備を終えている

だがレオンにはまだ渡していない物があった

手の中には小さな瓶

先程クロエから受け取った物だった


「セリオスさん」


セリオスが振り返る


「はい?」


レオンは小瓶を差し出した


「これを」


セリオスは不思議そうな顔で受け取る

そして小瓶を見た瞬間、表情が固まった


「これは……」


赤い瞳が見開かれる

信じられない物を見たようだった


「まさか……」


そして震えるような声で呟く


「賢者の秘薬……」


周囲が静まり返る

ゼムが目を見開いた


「ご存知なのですか?」


セリオスは小瓶から目を離さない


「存在だけは……賢者様が残したとされる秘薬です、魔力侵食症を含む様々な病の進行を遅らせると言われています」


セリオスは苦笑する


「ですが現在では製法も材料も失われています、教国にも記録しか残っていません」


そして再び小瓶を見る


「実物を見たのは初めてです」


その声には驚きが滲んでいた

だが次の瞬間、セリオスはそっと小瓶をレオンへ差し出した


「受け取れません」


レオンは眉をひそめる


「なぜです?」


セリオスは苦笑した


「レオンさんは毎日魔法の訓練をしています、これから先も魔法を使い続けるでしょう、その内この薬が必要になるかもしれません」


レオンは首を振る


「私は病に掛かってません」


セリオスが言葉を止めた

レオンは真っ直ぐ見返す


「ですがセリオスさんは違います……今必要なのはセリオスさんですよ」


静かな声だった

だが迷いは無い

セリオスは返す言葉を失う

レオンは続けた


「それに……私はある人から学びました」


セリオスが顔を上げる

レオンは少しだけ笑った


「目の前で困っている人を助ける事を」


その意味を理解するのに時間は掛からなかった

兵士へ全財産を渡した人

他国の孤児院の子供達の為に辺境まで来た人

病を抱えながら人を助け続けた人

全部目の前の男だった

セリオスは思わず苦笑する


「それは失敗でしたね」


「いえ」


レオンは首を振る


「良い教えだと思います」


しばらく沈黙が続いた

やがてセリオスは観念したように息を吐く

そして小瓶を胸元へしまった


「ありがとうございます」


今度は返さなかった

レオンも小さく頷く


「この薬では完治しません」


セリオスは頷く


「ええ……知っています、賢者の秘薬でも魔力侵食症は治せません」


レオンは続けた


「ですが進行を遅らせる事は出来ます」


そして真っ直ぐ見た


「無理だとは思いますが…………魔法を控えて下さい」


セリオスは苦笑した


「難しいお願いですね」


「分かっています」


レオンも苦笑する

だからこそ言った

少しでも長く生きて欲しいから

セリオスはしばらく黙り

そしてふと自分の髪へ触れた

白い髪が風に揺れる


「この白髪と紅い目は教国では不吉の象徴なんです」


クロエの表情が曇る

セリオスは続けた


「昔からそうでした……


『気味が悪い』


『不吉だ』


『縁起が悪い』


……そうゆう風に何度も言われてきました」


セリオスの話す言葉には恨みは無い

ただ事実を語っているだけだった

だからこそ重かった

セリオスは小さく笑う


「だから…………嫌悪の対象の僕の価値は、誰かを助ける事しかないのです」


その言葉にレオンは首を傾げた


「そうでしょうか?」


セリオスが目を瞬かせる


「俺はそう思いません」


「ですが……」


「人の価値は自分で決める事では無いと思いますよ……」


そう言いレオンは丘の花畑の様な父の墓を見た

そして言いかけたセリオスを遮る


「それに……雪兎みたいで可愛いと思いますけどね」


セリオスが固まった

その赤い瞳が僅かに見開かれる

クロエが首を傾げた


「どうしたの?」


セリオスは少しだけ遠くを見る

そして小さく笑った


「いえ……昔にも一人だけ居たんです」


レオン達は黙る

セリオスは白い髪へ触れた


「同じ事を言った人が」


幼い頃の記憶

いつも助けてくれていた

誰でも困っていると助ける

ヒーローみたいな女の子

自信満々な顔

血の匂い

そして優しく笑う少女

セリオスはゆっくりと目を閉じた

風が白い髪を揺らす


「懐かしいですね」


その声は穏やかだった

どこか少しだけ寂しそうだった

レオン達は何も聞かなかった

聞くべきではない気がしたからだ

しばらくしてセリオスは再び笑った

今度はいつもの優しい笑顔だった


「ありがとうございます」


薬だけではない

その言葉も

気持ちも

全部含めた感謝だった

レオンは頷く


「長生きして下さい」


セリオスは少しだけ笑った


「努力します」


その返事は以前よりも少しだけ前を向いているように聞こえた

評価

ブックマーク

リアクション

本当にありがとうございます

すっごーく励みになります


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ