第82話 帰国の準備
礼拝堂を出た頃には日が傾き始めていた
レオン達は孤児院の中庭を歩いていた
後ろではラッツとリンが何やら盛り上がっている
「ハイポーション担当は俺だ」
「違うもん!私だもん!」
「俺の方が先だった!」
「私の方がいっぱい頑張った!」
元気な声が聞こえてくる
クロエが苦笑した
「もう担当争いしてる」
「元気なのは良い事です」
セリオスも微笑む
レオンも少しだけ口元を緩めた
孤児院へ来た頃と比べれば随分明るくなった
それだけでも意味はあったと思う
しばらく歩いているとセリオスがふと口を開いた
「帰国の準備を進めようと思います」
空気が少し変わりクロエが足を止めた
「もう?」
「えぇ」
セリオスは頷く
「本来ならもっと早く戻る予定でしたから」
確かにそうだった
孤児院の調査の為に訪れたはずが
気付けば数ヶ月も滞在している
枢機卿としては長過ぎるくらいだ
レオンも頷く
「教国も心配しているでしょうしね」
「そうですね」
セリオスは苦笑した
「報告書も山積みになっていると思います」
ゼムが珍しく同情するような顔をした
「それは大変ですね」
「はい」
セリオスは素直に頷いた
クロエが吹き出す
「今の顔絶対嫌がってるよね」
「気のせいです」
「嘘だ」
即答だった
少しだけ場の雰囲気が和んだ
だが別れが近い事は皆理解していた
セリオスは立ち止まりそして孤児院を見渡した
畑
子供達
礼拝堂
数ヶ月前とは違う景色だった
「良い孤児院ですよね」
その言葉にシスターが少し目を潤ませる
「皆様のお陰です」
「いえ」
セリオスは首を振った
「私は何もしていません」
クロエが呆れた顔になる
「絶対そんな事ないよね」
「そうでしょうか?」
「そうだよ」
レオンも同意だった
だがセリオス本人は本気でそう思っているらしい
ゼムが小さくため息を吐いた
いつもの事だった
セリオスは話を戻す
「帰国は三日後を予定しています」
レオンは頷く
「分かりました、ハイポーションの件もありますのて報告をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
セリオスは即答した
「教国も驚くと思いますよ」
セリオスが微笑みクロエが苦笑する
「驚くだけで済むかな」
「どうでしょう」
レオンも苦笑した
恐らく済まない
それくらいの発見だった
しばらく沈黙が流れる
その時だったリンが駆け寄って来た
「セリオスお兄ちゃん!」
セリオスがしゃがむ
「どうしました?」
リンは少し寂しそうな顔だった
「帰っちゃうの?」
その言葉に周囲が静かになる
セリオスは優しく微笑んだ
「えぇ、お仕事がありますから」
リンは俯く
「そっか……」
ラッツも近くまで来ていた
何も言わないだが表情で分かった
寂しいのだろう
セリオスは二人の頭を優しく撫でた
「大丈夫ですよ、また来ます」
リンが顔を上げる
「本当?」
「本当です」
「約束です」
リンは少しだけ笑った
「うん!」
その様子を見ながらレオンは思う
セリオスは不思議な人だった
お人好しで
騙されやすくて
枢機卿とは思えないほど優しい
だが、だからこそ人が集まるのだろう
子供達も
シスター達も
街の人達も
自然と彼を慕っていた
夕日が孤児院を赤く染める
セリオスの帰国まであと三日だった




