第81話 名前の価値
礼拝堂の一室
火傷の跡すら消した薬
その事実に全員が言葉を失っていた
セリオスは完成した薬を見つめたまま固まっている
信じられない、そんな表情だった
最初に口を開いたのはクロエだった
「これさ……教国の回復薬と別の名前にした方が良くない?」
レオンが頷く
「確かにそうだな…同じ回復薬だと区別出来ない」
セリオスも同意した
「私もそう思います、性能が違う以上名称を分けた方が良いでしょう」
クロエは腕を組む
「でもどうするの?」
レオンは少し考える
そして口を開いた
「孤児院で作る通常品をポーション」
全員の視線が集まる
「教国製を回復薬、湧水を使った物をハイポーション」
クロエが首を傾げた
「ぽーしょん?」
聞き慣れない言葉だった
レオンは平然と答える
「薬という意味だ、昔読んだ本に載っていた」
もちろん嘘だった
前世の知識である
だが説明しても理解されない
クロエは納得したように頷いた
「へぇそれでハイポーション?って上位品だから?」
「あぁ、そう言うことだ」
レオンは答える
「ポーション、回復薬、ハイポーションと性能順になっている、その方が分かりやすいだろ?」
クロエは少し考えそして頷いた
「確かに分かりやすいね」
ゼムも同意した
「良い名称かと」
セリオスも微笑む
「私も賛成です」
こうして名称は決まった
ポーション
回復薬
ハイポーション
三種類である
だが問題はまだ残っていた
クロエがハイポーションの瓶を見ながら言う
「それでさ…………これいくらで売るの?」
部屋が静かになる
確かに重要だった
価値が分からなければ売る事も出来ない
レオンはハイポーションへ視線を向ける
「問題はそこだな」
クロエが首を傾げる
「高く売ればいいんじゃない?」
「そう単純でもない」
レオンは首を振った
「教国の回復薬を上回る薬だ、それをノルディアが勝手に売り出せば余計な軋轢を生む可能性がある」
セリオスも少し真面目な顔になる
「確かに」
レオンは続けた
「もちろん所有権はノルディアだ、魔法陣の使用料は教国へ支払う孤児院には製造料を支払うその形での契約だった、だがら薬そのものはノルディアの物だ」
「えぇ」
セリオスは頷く
「契約上もその認識で間違いありません」
レオンも頷いた
「だから価格を決める権利もこちらにある………だが先に教国へ話を通しておきたい」
クロエが首を傾げる
「なんで?」
レオンは苦笑した
「教国より優れた薬を売るんだ、後から問題になる方が面倒だろ」
「あー……」
クロエも納得したようだった
確かにその通りだ
教国が技術の使用権を持っている
使わせないと言われればそれでこの話は終わる
セリオスは少し安心したように笑う
「その配慮はありがたいですね」
レオンは肩を竦めた
「無駄な敵は作りたくありませんから」
セリオスも苦笑した
「その年齢でそこまで考える方は珍しいと思いますが」
「………辺境伯ですので」
レオンが平然と答える
クロエが呆れた顔になる
「最近それ便利な言葉になってない?」
レオンは耳を掻いた
「……耳が痒いな」
「逃げた!」
礼拝堂に小さな笑い声が響く
重かった空気が少しだけ和らいだ
だがハイポーションの価値は本物だった
教国の回復薬を上回る薬
それがどれほどの価値を持つのか
まだ誰にも分からない
セリオスは完成したハイポーションを見つめる
そして静かに呟いた
「教国が驚くでしょうね………間違いなく」
クロエも同意した
レオンは瓶を見る
価値はまだ分からない
利益もまだ分からない
だが、一つだけ確かな事があった
ノルディア領で世界に存在しなかった新しい薬が生まれた
その事実だけは変わらなかった




