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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第4章 新事業と枢機卿
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第80話 湧水の回復薬

礼拝堂の一室

完成した回復薬を前に全員が瓶を見つめていた

普通の水ではない

丘の湧水を使って作った回復薬

見た目は少し色が濃い程度だ

だが、セリオスは先程から何度も瓶を見ている


「やはり魔力の残り方が違いますね」


「そんなに違うのですか?」


レオンが尋ねた


「はい」


セリオスは頷く


「少なくとも普通の回復薬とは別物です」


クロエが腕を組む


「じゃあ飲んでみれば分かるね」


「そうですね」


セリオスも同意した

だが、問題があった、試す相手である

先程の騎士の傷は既に治っている

比較するには別の怪我人が必要だった

その時だった


「あのー……」


遠慮がちな声が響き全員の視線が向く

そこに居たのはシスターだった


「どうしました?」


セリオスが尋ねる

シスターは少し申し訳なさそうだった


「実は厨房のシスターが火傷を負っておりまして……」


「火傷ですか?」


「はい」


シスターは頷く


「命に関わるような怪我ではありませんので報告していなかったのですが……セリオス様が帰国される前に診て頂こうと思っておりました」


セリオスは納得したように頷いた


「分かりました、案内して頂けますか?」


「はい」


シスターは頭を下げそして一行は厨房へ向かう

中へ入ると若いシスターが驚いたように振り返った

右手には包帯が巻かれている


「セリオス様?」


困惑している様子だった

だが包帯の隙間から見える皮膚は赤く変色している

見ただけで火傷だと分かった

クロエが顔をしかめる


「結構酷いね」


セリオスも表情を曇らせた


「そうですね……跡は残ると思います」


レオンは首を傾げる


「跡は残るのですか?」


セリオスは頷いた


「えぇ、回復魔法にも得手不得手があります、切り傷や打撲は治しやすい、ですが火傷は別です」


セリオスは火傷を負ったシスターの手を見る


「度合いにもよりますが、綺麗に治る事は難しいですね、私でも完全には治せません」


クロエが驚く


「セリオスさんでも?」


「残念ながら」


セリオスは苦笑した


「傷を塞ぐ事は出来ます、痛みも軽減出来ます、ですが跡まで消すのは難しいのです」


レオンは小さく首を傾げた

前世の記憶の乙女ゲーム、ノルドレア・ロワイヤル

主人公のエリシアも回復魔法を使っていた

そして確か、火傷の跡すら残さず治していたはずだ

だが、レオンはすぐに考えるのをやめた

主人公だから【特別】だったのだろう

ゲームではよくある話だ、今は回復薬の方が重要だった

セリオスは火傷を負ったシスターへ向き直る


「少し試したい物があります、飲んで頂けますか?」


そう言って回復薬を差し出した

シスターは少し戸惑った

だが、セリオスへの信頼があるのだろう

素直に受け取る


「分かりました」


そして一気に飲み干した

静寂の部屋で全員が見守る

数秒後だった


「あれ?」


火傷を負ったシスターが目を見開く

包帯の下が淡く光っている

赤く腫れていた皮膚が少しずつ元へ戻っていく

火傷の跡が薄くなりそして消えていく

火傷は完全に消えた

誰も言葉を発しない

シスター本人が震える手で包帯を外した

そこには何も無かった

火傷の直した跡すら無い、白く綺麗な肌だった


「え……」


シスターが固まる


「治って……います……」


クロエも目を見開いていた


「うそ……」


ラッツとリンも言葉を失う

レオンも驚いていた

先程の回復薬とは明らかに違う

火傷の跡まで消えている

そんな事は普通の回復薬では有り得ない

そして、最も驚いていたのはセリオスだった


「あり得ません……」


全員が振り返る

セリオスは消えた火傷跡を見つめている


「火傷は最も跡が残りやすい怪我の一つです、普通の回復薬ではここまで治りません…………私でも難しい」


その声は震えていた

クロエが尋ねる


「つまり?」


セリオスは完成した回復薬を見る

そして断言した


「教国の回復薬を上回っています」


部屋が静まり返る

誰も言葉を発せない

教国は世界最大の回復薬生産国

その回復薬を上回る

そんな物が生まれてしまった

セリオスはゆっくりと瓶を持ち上げる


「信じられません……まさか湧水だけでここまで変わるとは……」


レオンは完成した回復薬を見つめた

ただの回復薬ではない、それだけは分かった

クロエがぽつりと呟く


「これ……凄い事になったんじゃない?」


誰も否定出来なかった

ノルディアの丘に湧く水

その価値は彼らが想像していたより遥かに大きいのかもしれなかった

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