第78話 教国からの手紙
それから数日後、回復薬事業の準備は順調に進んでいた
ラッツは教師の下で帳簿の読み方を学び
リンはシスターから文字を教わっている
孤児院にも少しずつ変化が現れ始めていた
そして夜、レオンは執務室で書類へ目を通していた
コンコンと扉が叩かれる
「入ってください」
扉が開き、入って来たのはセリオスだった
その手には教国の紋章が押された封筒が握られている
後ろにはクロエとゼムの姿もあった
レオンは封筒へ視線を向ける
「教国からですか」
「えぇ」
セリオスは頷いた
「返事が届きました」
執務室の空気が少し変わる
回復薬事業
魔力草栽培
どちらも教国との協力が前提だ
その返答次第では今後が大きく変わる
セリオスは席へ座り、そして封を切った
「まず回復薬事業についてです」
全員が耳を傾ける
セリオスは書状を読み上げた
「ノルディア領における回復薬製造計画を正式に承認する」
クロエの顔が明るくなる
「やった」
レオンも小さく頷いた
これでようやく正式な事業になる
セリオスは続きを読む
「ただし教国による監査を行う事、製造技術及び魔法陣の管理を徹底する事、定期的な報告を行う事」
ゼムが頷く
「当然ですね、教国の秘術ですから」
セリオスも同意した
「私もそう思います」
レオンも異論は無かった
むしろ条件としては軽い方だった
セリオスは更に読み進める
すると少しだけ表情が和らいだ
「安心しました」
クロエが首を傾げる
「何が?」
「監査役です」
セリオスは書状を見ながら答えた
「私が推薦した方になったようです」
レオンが顔を上げる
「信用出来る方なのですね」
「えぇ」
セリオスは迷わず頷いた
「私が最も信頼している方の一人です」
その言葉には迷いが無かった
ゼムも少し興味を示す
「それでどなたなのですか?」
セリオスは書状へ目を落とす
そして答えた
「教国聖騎士団副団長のエミルです」
クロエが目を丸くする
「副団長?」
ゼムも僅かに驚いた顔になった
聖騎士団副団長
教国でもかなり上位の人物だ
レオンも少し意外だった
「随分と重要人物ですね」
「今ではそうですね」
セリオスは苦笑した
「ですが実力も人格も申し分ありません」
クロエが興味津々で聞く
「どんな人なの?」
セリオスは少し考えそして優しく笑う
「真面目な方です、責任感も強いですし騎士としても非常に優秀です」
そこまでは完璧だった
だが、セリオスは少しだけ苦笑する
「……少々過保護ですが」
クロエが首を傾げる
「過保護?」
「はい」
セリオスは頷いた
ゼムが察したように言う
「セリオス様に対してですか?」
「否定出来ませんね」
セリオスは苦笑した
クロエも何となく理解したらしい
「あー心配性な人なんだ」
「そんなところです」
セリオスは曖昧に答えた
レオンは別の部分が気になった
「そういえば」
「どうしました?」
「セリオスさんも帰国されるのですね」
その言葉に部屋が少し静かになる
セリオスは小さく頷いた
「えぇ本来ならもっと早く戻る予定でしたから」
確かにそうだった
孤児院の調査で訪れたはずが
気付けば数ヶ月も滞在している
むしろ長過ぎるくらいだった
クロエが少し寂しそうな顔をする
「もう帰るんだ」
「回復薬事業も軌道に乗り始めましたからね」
セリオスは穏やかに笑った
「後はエミルへ引き継ぎます」
レオンは頷く
少し寂しくはある
だがセリオスにはセリオスの立場がある
教国の枢機卿をいつまでも引き留める訳にはいかなかった
セリオスは最後の一文へ目を向ける
「到着予定一ヶ月程、私の帰国から数日後にエミルが出発するとの事です」
ゼムが頷く
「それなら問題は無さそうです」
「えぇ」
セリオスも頷いた
これで回復薬事業は継続出来る
監査役も信頼出来る人物
教国との関係も良好
順調そのものだった
だが
レオン達はまだ知らない
そのエミルがセリオスを心から敬愛している事を
そしてレオン・ノルディアという人物を警戒する事になる事をまだ誰も知らなかった




