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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第4章 新事業と枢機卿
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第73話 丘の水

魔力草の栽培に成功した翌日

レオン達は再び実験場へ集まっていた

木箱の中では魔力草が順調に育っている

群生地の土

クロエの土

普通の土

どれも違いは見られない

全て同じように成長していた

クロエが木箱を見ながら首を傾げる


「結局どれだったんだろうね」


「何がだ?」


レオンが尋ねる


「成功した理由」


クロエは魔力草を指差した


「群生地の土じゃなかったんでしょ?」


「ええ」


レオンは頷く

群生地の土だけが成功したなら話は簡単だった

だが実際は違う

普通の土でも成功している

つまり少なくとも群生地の土が特別という訳ではない

セリオスも頷いた


「そのようですね、群生地の土は必須ではありませんでした……なら残るのは二つです」


レオンは言った


「ボアの血と丘の水」


クロエは腕を組む


「ボクは血だと思う、解体場にも生えてたし」


確かに筋は通る

だがレオンは首を振った


「それだけなら解体場は魔力草だらけになっています」


クロエが固まる


「あ」


毎日のように大量の血が流れている

それなのに生えていたのは数株だけ

説明が付かない

セリオスも考え込む


「では水でしょうか」


レオンはしばらく考え

やがて立ち上がった


「確認してみましょう」


「確認?」


「あの丘です」


「行ってみますか」


全員が頷いた

しばらくして四人は丘へ向かっていた

春の風が吹く

遠くにはグラニウスの墓が見えている

クロエは慣れた様子だった

ゼムも何度も来ている

だがセリオスだけは初めてだった

やがて丘の麓へ到着する

そこには小さな湧水があった

透明な水が静かに流れている

解体場へ引かれている水だ

セリオスがしゃがみ込む

そして湧水へ手をかざした

静かに魔力を流し込む

しばらく静寂が流れた

そしてセリオスの目が見開かれた


「これは……」


レオンが尋ねる


「何か分かりましたか?」


セリオスは水を見つめたまま答えた


「この水は魔力を帯びています」


空気が止まった

クロエが目を丸くする


「…………魔力を?」


「はい」


セリオスは頷いた


「ここまで魔力を帯びた水は初めて見ました」


レオンは静かに湧水を見る

賢者の資料に書かれていた言葉

【魔力を帯びた水】

その時だった


「…………あ!」


クロエが何かに気付いたように声を上げた


「だからか」


「何がだ?」


レオンが尋ねる

クロエは丘の上を指差した


「グラニウス様の花」


全員が視線を向ける

丘の上には色とりどりの花が並んでいる

クロエは続けた


「領民が持ってくるお花はこの水で生けてるんだ」


クロエは丘の上を指さした


「凄く長持ちする生け花なんだ……前から不思議だったけど魔力のおかげだったんだね」


セリオスは丘の上を見る

最初は花畑だと思った

だが違ったあれは全て献花だった

セリオスは思わず目を見開く


「まさか……全部ですか?」


「ええ」


レオンは静かに頷く


「今でも領民の方々が持って来てくださいます」


風が吹き無数の花が揺れた

セリオスはしばらく言葉を失う

どれだけの人間に慕われていたのか

それだけで分かった

やがて小さく呟く


「愛されていたのですね」


レオンは少しだけ笑った


「そうですね……父上はそういう人でした」


しばらく静寂が流れる

風だけが吹いていた

やがてセリオスが口を開く


「そういえば…………孤児院の子供達から聞きました」


レオンが視線を向ける


「何をでしょうか?」


「北の戦神の話です」


セリオスは苦笑した


「皆とても誇らしそうでした」


『ワイバーン五体を倒したんだ!』


『一撃だったんだぞ!』


『グラニウス様は最強なんだ!』


そんな話を思い出しセリオスは墓を見る


「ワイバーン五体の討伐したのは本当にグラニウス様だったのですね」


「ええ」


レオンは頷く


「父上です」


セリオスは感心したように息を吐いた


「教国でも【北の戦神】の話は有名です……そのグラニウス様ですが……」


そこで少し首を傾げる


「その後まもなく亡くなられたとも聞きました……いったい何があったのですか?」


レオンは墓を見つつ静かに答えた


「魔力侵食症です」


セリオスの表情が固まる


「魔力侵食症……?」


「ええ」


レオンは頷く


「亡くなる二年以上前から患っていました」


セリオスは言葉を失う

レオンは続けた


「本来なら戦える状態ではありませんでした………………ですが領都を守る為に戦い、そして限界を超えました」


風が吹く

花が揺れる

セリオスは静かに墓を見る

王国最強の北の戦神

その男ですら

魔力侵食症には勝てなかった

それはセリオスには重い現実だった

やがてセリオスは静かに頭を下げた


「素晴らしい方だったのですね」


レオンは何も答えなかった

ただ墓を見つめる

そして静かに湧水へ視線を向けた

魔力を帯びた水

賢者の資料

魔力草

少しずつ全てが繋がり始めていた

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