第72話 比較実験
解体場から戻った翌日
レオン達は再び実験場へ集まっていた
机の上には三つの木箱
そして幾つかの瓶が並んでいる
ボアの血
丘から持ち帰った水
そして土
クロエが木箱を見ながら首を傾げた
「これ全部使うの?」
「ああ」
レオンは頷く
前回までの実験で分かった事がある
群生地の土だけでは発芽しない
クロエの土属性魔法を使えば発芽する
だが途中で枯れる
つまりまだ何かが足りない
セリオスが机の上へ視線を向けた
「血を使うのですね」
「試してみる」
レオンは答える
「だがその前に確認したい事がある」
クロエが首を傾げる
「確認?」
「ああ」
レオンは三つの木箱を指差した
「今まで俺達は思い込んでいた、群生地の土が特別だと」
セリオスが小さく頷く
確かにそうだった
魔力草が生えていた土なのだから特別だと思うのは当然だ
だが証明された訳ではない
レオンは続ける
「だから比較する」
一つ目の木箱
「群生地の土」
二つ目
「魔法で作った土」
三つ目
「普通の土」
クロエが目を瞬かせた
「普通の土も?」
「ああ」
レオンは頷く
「本当に必要なのが土なのか確認する」
セリオスの表情が少し変わる
「比較実験ですか」
「その方が確実ですので」
思い込みで進めばまた失敗する
なら条件を一つずつ確認した方が早い
ゼムも納得したようだった
「合理的ですね」
準備が始まる
三つの木箱へそれぞれ土を入れる
その後ボアの血を混ぜる
赤黒い血が土へ染み込んでいく
クロエが少し嫌そうな顔をした
「改めて見ると凄い光景だね」
「農業というより錬金術ですね」
セリオスも苦笑した
最後に丘から持ち帰った水を加える
透明な水が土へ吸い込まれていく
レオンは魔力草の根と茎を植えた
その後解体場で貰った水を掛けた
これで条件は全て同じ
違うのは土だけだった
「後は待つ」
レオンが言い全員が頷いた
三日後、実験場でレオンは木箱の前で腕を組んでいた
クロエも隣にいる
「どう?」
レオンは答えない
代わりに木箱を指差した
クロエの目が見開く
「出てる」
芽だった
小さな緑色の芽が土から顔を出している
しかも一つではない、三つ全てだ
セリオスも思わず身を乗り出す
「全部発芽しています」
ゼムも驚いていた
群生地の土
クロエの土
普通の土
全て発芽している
クロエが木箱を見比べる
「全部同じだ」
レオンも頷く
「今のところはな」
だがまだ分からない
前回も発芽はした
問題はここからだった
「もう少し様子を見よう」
全員が同意する
そして十日後再び集まった
木箱を見た瞬間クロエが声を上げる
「大きくなってる!」
前回より明らかに成長していた
葉も増えて枯れる様子は無い
セリオスが慎重に確認する
そしてゆっくり顔を上げた
「成功です」
静かな声だった
だが、その言葉の意味は大きい
誰もすぐには言葉を発しなかった
失敗次ぐ失敗そして……
何度も繰り返した
だからこそ実感が湧かない
最初に口を開いたのはクロエだった
「成功したんだ」
「ああ」
レオンも頷く
「どうやらな」
セリオスは魔力草を見つめる
表情には驚きが残っていた
「教国でも成功していない研究です」
「それが本当に……」
言葉が続かないそれほど衝撃だった
ゼムも珍しく安堵したような顔をしていた
レオンは三つの木箱を見る
群生地の土
クロエの土
普通の土
全て青い葉を輝かせた魔力草がそこにはあった
だがまだ答えは出ていない
むしろここからだった
何が必要だったのか
何が成功の理由なのか
それを見極めなければならない
レオンは静かに言った
「次は原因だな……」
セリオスも頷く
「えぇ」
「それが分かれば量産も可能になります」
魔力草は静かに揺れていた
その小さな葉は新たな産業の可能性を示しているようだった




